Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

無邪気な話

遠い山々

友人の故郷を訪れた。地平線の上に霞む山稜が見える。「いいな、遠くまで見渡せて、絶景だ」うらやましくなる。「うちの田舎は狭くてね、四方を小山に囲まれて 盆地の中みたいな気分にさせられるんだ」なにしろ、小さな千の谷だものな。 Distant MountainsI …

汽車の旅

やわらかなタッチのアニメ映画を観ている。若くもない男女が主人公のようだ。ふたりは蒸気機関車の屋根の上に乗って移動中。ただし、煙は白くて少ない。高燃費なのか、理想化されているのか。明るくのどかな田園風景が背景を流れる。どうやら目的地は決まっ…

タヌキのしりとり

「タヌキ」「キツネ」「ねこ」「こいぬ」「・・・・ぬー」 歌ってみた。Tanuki Shiritori"Tanuki""Kitune""Neko""Koinu""... Nuuu"

撮影旅行

君と一緒に撮影旅行へ行きたいな。各駅停車で行けるくらいな ほんの近場でいい。名所旧跡とか 関係ない。ありふれたところでいいんだ。ことさら風景を撮りたい というわけではないのだから。風景なんか どうせ 君の引き立て役でしかない。ポートレイトの背景…

家の中のヘビ

真夜中、ドタリドタリと音がする。あれはヘビが階段を落ちる音。どうやら家の中にヘビがいるようだ。小さな千の谷がある田舎ゆえ 小さな千の山もあり、ヘビも多い。戸締りしない古い木造なので ヘビが家に侵入したって不思議ではない。学校から帰宅したら、…

グライダー

僕たちが 百名山の一つであるところのその麗しき山頂によっこらよっこら 苦労して登り やれやれと 記念撮影なんぞしていたら 僕たちの頭上 ほんの数mのところに ひらりと 有人グライダーが現れて 操縦席から軽く手を振りながら 向こうへ 悠々と飛んで行った…

フブキとツララ

フブキは強い男の子。ツララは優しい女の子。ふたりは雪国に生まれ、雪国で育ちました。フブキは果敢に危険に立ち向かい 数々の冒険をすることでしょう。ツララはフブキに寄り添い 彼の命を助けることになるかもしれません。具体的にどんなことが起こり どん…

雪だるま

雪が降った。妹が小さな雪だるまを作った。それを僕が壊した。妹は泣いた。僕は困った。僕は企んだ。僕は大きな雪だるまを作った。それを妹が壊した。僕は泣くふりをした。妹は笑った。僕も内心で笑った。雪だるまは怒っていた。 元「koebu」yayaさんが演じ…

僕たちの情景

君は自転車に乗って 僕は走ったり歩いたりして 楽しそうに喋ったり笑ったりしながら ふたり共通の目的地を目指して進んでいる。とても微笑ましい情景ではあるけれど じつはあのふたり、僕たちでないかもしれない。たとえば、あの少女は君ではなくて さらに、…

少女積み木

遊び仲間も おもちゃもなくて 手持ち無沙汰な 日曜日 女の子集めて 魔法をかけて さまざまな意匠の 木片に これを重ねて 積み上げて 少女積み木して 遊ぶのだ 彼女はここで 君はここ この子はどこに のせようか 立てよか倒そか 裏返し こんな隙間に 入るかな…

ねえさんの鍵

今日は、ぼくの誕生日。ねえさんから鍵をもらった。きれいな金色の鍵。ぼくは、ねえさんの髪が好き。やわらかな長い髪。許されるなら、いつまでもながめていたい。ねえさんの手も好き。でも、長い爪はきらい。去年の誕生日、そっとねえさんの髪にふれた。ね…

お菓子の日

近所の大型スーパーへ行く。お菓子全品1割引きセールの日なのだ。糖尿病を心配して糖質は控えているものの どうしてもチョコレートだけはやめられない。それで、お菓子売り場へ直行する。ブラックチョコ、2週間分まとめ買いである。ところがそこで、お菓子…

ゲレンデ

いつの間にかスキー靴とスキーを履いて 真っ白なゲレンデの上に立っている。 さっきまで資産家の青年と列車に乗っていたはず。高校の同級生でもあった彼の姿は、今はない。 先に滑り降りてしまったのかもしれない。だとすれば、いかにも彼らしい。追いかける…

海へ行こう

ふと思い出した。 (そうだ、忘れていた。 夏になったら海へ行くのだった) 趣味のスライドショー動画制作のため 海の風景写真を撮りに行くと もう冬のうちから決めていたのだ。 これまで川や池の画像で誤魔化していたが どうにも我慢ならないものがあった。…

美人の漬物

美人はいたみやすい。長期保存するため、恋人を漬物にすることにした。まずは「漬物」でWeb検索。塩、しょう油、みそ、酢、酒かす、からし、ぬか、・・・・ 漬け込み材料色々あれど 彼女にふさわしいのはなんだろう? しょっぱいのやすっぱいのや ぬか臭いのはい…

町のイノシシ

ある町に 一頭のイノシシが住んでいました。イノシシは イノシシなので イノシシらしく まっすぐ走りたいのですが 人に怒られたり 建物の壁にぶつかったり たいそう痛い目にあうので イノシシらしくないな と思いながらも 仕方なく ゆっくり曲がって歩くよう…

ヘビの道

あるところに ヘビの道がありました。この道は たくさんのヘビが くねくね 這ってできた道なので くねくね くねくね 曲がっているのでした。で、この道がどこへたどり着くのか というと あっちへ曲がったり こっちへ曲がったり また もとに戻ったりして 結局…

なんでもいい

「なんでもいい」彼女の口癖 「なんでもいい」彼女の気持ち 「なんでもいい」彼女の未来 「なんでもいい」彼女のすべて 「なんでもいい」「よかないよ」元「koebu」yayaさんと共演! Anything Is Fine "Anything is fine" Her habit "Anything is fine" Her …

黄昏

黄昏(たそがれ)が迫っている。もう遠目に人の区別も難しい。「誰(た)そ彼(かれ)?」語源の如(ごと)く問わねばならぬ。「私ですよ。お祖父さん」とんとどなたか分からない。「もう家に帰りましょ」帰る家などあったかの。「すっかり日が暮れてしまいます」カ…

桜の木の下

桜の木の下で 右の頬にキスしたら そこに桜の花びら 一枚くっついて 左の頬にもキスしたら やっぱりそこにもくっついて おもしろいので 唇にもキスしようとしたら 君に殴られた。僕の目尻のあたりにも 桜の花びらが一枚 きっと くっついて いると思う。 「ゆ…

元気な子

元気な子が元気に歩いていると 元気ない子を見つけました。元気な子は元気ない子を元気にいじめました。そのため、元気ない子は元気なく泣きました。元気な子がどこかへ行ってしまうと 元気ない子は思うのでした。もっと元気になりたいな、と。その願い、神…

渚の蛹

私たちが臨海学校で滞在していた某県の海岸に某国の原子力潜水艦が唐突に座礁(ざしょう)した。海水アレルギー体質なので私は海に入ることができない。それでも皆と一緒に夏休みを過ごしたくてこの臨海学校に参加した。だから、私は海岸沿いにあるプールで泳…

隠し事

まったく君たちときたら見せたいから見せびらかしても見ようとしないくせに見せたくないから隠すとすぐに見つけてしまうんだから。「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!「note」yayaさんが演じてくださった!SecretYou guys at allEven thoug…

古代の夢

疲れ果ててしまったら古墳の底で眠ります勾玉(まがたま) 管玉(くだたま)じゃらじゃら首に飾って奴婢(ぬ ひ)の身代わり埴輪(はにわ)をたくさん埋めて深く静かに古代の夢を見たいだけ青銅の鏡とか甲冑(かっちゅう)とか鏃(やじり)とかそんなのいらない幾千年幾…

火の子

たいした火山のいやもう立派な噴火だよ。ドカンドカンと天地にとどろく産声あげて元気な火の子が飛び出した。「これは素敵! いい眺め」火の子が落ちたところは山のふもとの林の中。たちまち草木に火がついてゴウゴウゴウと勇ましくボウボウボウと燃えあがる…

公園の絵描き

ある公園に絵描きがいる。似顔絵を描くのが彼の商売。あんまり絵はうまくない。でも、なかなか人気がある。他人が見ると似てないのに 描かれた本人は似てる、と言う。実物以上に描くのではない。むしろ、実物以下の場合が多い。それでも客は感心してくれる。…

読書する少女

美しい横顔、ゆるやかな姿勢。風にそよぐ長い髪。額から鼻先へと続く知的なライン。やさしい眉と真摯なまなざし。半分しか見えない唇が かすかに動く。額縁の肖像画さながらに 窓辺で読書する少女の姿。世界から切り離された方形の画面。今のあなたには鳥の…

いい子でいてね

僕の家は五人家族。お父さん、お母さん、お兄さん、お姉さん、そして僕。「いい子にしているんだぞ」ある日、お父さんが家を出て行った。「いい子にしているのよ」ある日、お母さんも家を出て行った。「いい子でいろよ」ある日、お兄さんも家を出て行った。…

空耳

クルマは高速道路を走っていた。「えっ、なに?」返事がなかった。「なんだよ?」やはり返事がないのだった。おれは不安になってきた。「あのさ、なにか言わなかった?」「なにも言ってないわよ」「おかしいな」「私の声が聞こえたの?」「うん」「空耳よ」…

霧の街

灰色の霧に包まれ、街は暗く淀んでいる。霧は建物にまとわりつき、窓を舐め、壁を濡らす。霧は生き物のように屋内にも侵入する。階段の手すりに絡み、いやらしく床を這う。霧の街を手探りで進んでいた男が崖から落ちた。霧の底へ底へ落ちながら叫ぶ男の声が…