Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2010-08-26から1日間の記事一覧

空の手ざわり

視界の下半分に大空が広がり 私は雲ひとつない青い空を歩いている。 視界の上半分を大地が覆い 私の頭上、逆さまになって浮いている。 遠い山があり、近くには家もある。 近くといっても、とても高い。 いくら飛び跳ねても手は届かない。 あんなに高くて、し…

幽霊の診察

次の患者は幽霊だった。「先生、どうも具合が悪くて・・・・」若いナースが床に倒れた。どうやら気絶したらしい。悲鳴をあげ、みんな逃げ出した。だが、私は医者だ。患者を見捨てて逃げるわけにはいかない。それに、腰が抜けて立てないのだ。おそるおそる幽霊の…

なくした顔

顔をなくして しまったの。 どこかに落として しまったの。 さがしたけれど 見つからないの。 こまってしまって 泣きたいの。 でも 顔がないから 泣けないの。 あんたの言葉 思い出すの。 「おまえの顔なんか 見たくない」 あんまりだなって 思ったけど そん…

拷問

おそれおおくも王様の命令である。素直に白状しろ。いやか。ほほう、そうか。ならば、これより拷問をおこなう。まず、こいつの婚約者を連れて来い。来たか。おお、なんと美しい!さっそく裸にしろ。やれ、かまわん。こいつの目の前でうんと辱めてやれ。そう…

夜が笑う

弓なりに月が裂け、ニヤリと夜が笑う。 鳴く猫の気持ちが今宵は犬にもわかる。闇に浮かぶ街灯の下、少女が泣いている。鬼に見つけてもらえなかったかくれんぼ。靴を片方なくして少女は家に帰れない。街灯に群がる蛾の羽ばたきを真似て路地裏の闇から手品師が…

肝試し

学校で肝試しをすることになった。この夏に転校してきたばかりなので 同級生に臆病者と思われたくなかった。夜、ひとり校門を出て裏山に登った。山寺の墓場があり、その一番奥に 大きな地蔵が立っているはずだった。暗くて足もともわからなかったが それらし…