Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2015-01-01から1ヶ月間の記事一覧

忍び寄るリスク

暗闇を手探りで進むのは明らかに危険。だが そのまま動かないのはもっと危険だったりする。大きな地震の直後に余震や津波が懸念されるなど 環境が不安定で、予想される変化が過激な場合とか。ギャンブルに限らず不確かなことに取り組むのは あるやなしやのメ…

ほどほどの関係

あなたの悩みは ほとんど私の悩みでもあるけれど あなたの苦しみは 厳密に私の苦しみとは言えない。ましてや あなたの痛みは 決して私の痛みではあり得ない。ただし、その代り 私の苦しみは 厳密にあなたの苦しみではなく 私の痛みもまた 決してあなたの痛み…

葡萄パンの気持ち

葡萄(ぶどう)パンは 干しブドウ入りのパン。なぜ干しブドウが入っているのか と言うと それに含まれる天然酵母が パン生地をふくらませてくれるから。そして おいしいから。葡萄パンの気持ちは 葡萄パンにしかわからないだろうけど 葡萄パンの味は 葡萄パン…

秘書を雇う

いやー、なんと言うか とりあえずやってみるものである。「美人秘書、大募集!」そんな冗談みたいな広告を管理サイトに載せたところ 応募があった。私は数年前に会社を退職した初老の独身男。貯金を喰い潰しながら静かに隠居生活をしている。このまま質素に…

御破算

計算、ことに暗算が苦手だ。暗算の途中で、計算中の数字を忘れてしまう。「御破算(ごはさん)で願いましては」と言われる前に 頭の中のそろばん珠(だま)が勝手に零の状態に戻ってしまうわけだ。たびたび暗算を実演してもらったが、確かにすごい。ところが、珠…

腹の虫

「グルルルル」腹の虫が鳴き始めた。うるさいのでエサを与えてやる。お菓子が少しあったので、それを食べた。カビの生えたかりんとう。僕が食べると、すぐに腹の虫のところまで届く。腹の虫はいやしいから、なんでも食べる。どうせかりんとうみたいなフンを…

笑っちゃう

それはそれは まことに悲惨な事件なのであって 決して笑い事ではない とは 思うものの なんだか とっても おかしくて つい 笑ってしまった。すると それを「不謹慎だ」と 怒る人がいて それもまた なんだか おかしくて ついつい 笑ってしまった。なぜだろう…

アカリ

君は その名前ほどには 明るくない。 白熱電球ではなく 蛍光灯でもなく ましてや LEDではありえない。 優雅だったり コミカルだったり おどろおどろしかったり 悲痛だったりして 不安定で 危険で 落ち着かなくて 心配で ほんのちょっとした吐息に ゆれて消え…

卵の反乱

たくさんの卵を部屋に集めた。いろんな色や形や大きさの卵たち。ただし、どうやって集めたのか記憶にない。もらったか、拾ったか、盗んだか。あるいは闘って奪ったのかも。まさか産んだということはなかろう。断言できるほどの自信はないが。とにかく部屋に…

たまらん授業

教室は国語の授業中。なのに僕は外国語の教科書を読んでいる。そのうち教師に叱られる。「これから一週間、みっちり海で勉強してこい」その意味はわからないが、それらしき意図はわかる。申し訳なさそうに僕は謝る。「しっかり溺れるまで頑張ります」それな…

落ちながら

これっぽっちの前触れもなく 不意に突き落とされて ぼくは下へ下へと まっさかさまに落ちてゆく なにか悪いことしたのかな 思い浮かばないよ なにも良いことしなかったせいかな そう言えばそうかもね 良いも悪いも よくわかんないけど ああ そろそろかな ド…

仕事の定義

金儲け、必ずしも仕事にあらず。あり余る資産ありながら稼ぐは趣味。やらねばならぬをやるが真の仕事なり。子ども、遊びが仕事。学生、学ぶが仕事。サラリーマン、会社勤めが仕事。主婦、家事が仕事。されど、どれも仕事の一部なり。やらねばならぬは多岐に…

勢い余って

勢い余って 産婆を倒し 産湯を泳いで クイックターン 泣きもしないで 笑うので 親は笑えず 驚くばかり なんだ この子は 何者だ どうすりゃいいか わけわからん 這うより先に 立ち上がり 歩き出す前 走り出す 入った学校 飛び出して 家も飛び出し 村も出た そ…

時代の流れ

あなたは 時代に寄り添い 時代に頼り 時代と寝て 時代のヒモとなる やがて 時代に流され 時代に去られ 時代から忘れられ 時代の彼方に葬られる ああ たかが時代 されど時代 いつまでも 流されるままでは済むまいぞ 元「koebu」宏美(ろみりん)さんが歌を合…

素数の在り方

僕は素数が好きだ。正確に言うなら その在り方が、だ。合成ではなく オリジナル。求める手順あれど 公式なし。存在に限りがないのも 頼もしい。苦労して 新たに見つけた時の その喜びよ。 元「koebu」宏美(ろみりん)さんが演じてくださった!元「koebu」暁…

秋に散る

散る 散る 散るる 秋に散る 春ではなくて 夏でもない 冬には雪が 降るそうな 散る 散る 散るる 秋に散る 同名の短い器楽曲に合わせ、自作自演。yayaさんが動画にしてくださった! Fall in FallFall fall fallingFall in fallNot springNot summerIt seems To…

それ

それを使うとしても それに使われたくはない。 とは思うものの それを使う以上 それに使わされる という側面は どうしたってある。 また もし それを使うしかないなら どうしたってそれに使わされてしまうだろう。 なので できるならばそういう余裕のない状…

火の玉の

新月の 宵闇に 火の玉の ふたつ三つ 飛び交いて 怨(うら)みはらさで おくべきか いや おくまいぞ おくまいぞ 嗚呼(ああ) されど 成就のあてなく 声もなく 芸もなきに さまよいて 末代(まつだい)までも 成仏できぬは 飛んで 火の玉あわれなり 元「koebu」yaya…

桜咲く

春になって 桜の花が咲く それは木の枝でなく 心の中に 散るために 誰が咲こう 花よ 花 美しくあろうと なかろうと 華やかであろうと なかろうと 咲いておれば 春爛漫(らんまん) 元「koebu」月之兎さんが歌ってくださった!元「koebu」田辺千鶴さんが演じて…

ゆうさ太夫

ゆうさ ゆさゆさ 花魁道中(おいらんどうちゅう) 金らんどんす 島田もゆれて ゆっさ ゆっさ ゆっさ ゆっさ ゆれるよ 胸も そうよ あちきは花魁 浮世のあだ花なのよ ボカロ「巡音ルカ」と元「koebu」月之兎さんと競演! Yusa High-Ranking Noh Actor Yusa Yusa…

清きお水

わたくしがたまたま助けてさし上げたご老人は 自信たっぷりに、このようにおっしゃいました。 「わしは水道の神である。助けてもらった礼として あんたの家の水道水を、あんたが望むものに変えてしんぜよう」お酒でもジュースでも血液でも、なんでも好きなも…

アンテナ帽子

どうだい、これ? なかなかカッコイイだろ? 「アンテナ帽子」って言うんだぜ。見た目だけじゃない。機能もすごいよ。ほとんどすべての周波数帯に対応しているんだ。 どんな微弱電波でも拾っちゃうし。テレビ、ラジオ、各種無線通信、宇宙からの電波。それど…

Coin Toss

画面には男の片手だけが見える。一枚のコインを親指の爪で弾き、打ち上げる。落ちてきたそれを受け取り、再び打ち上げる。「今度こそ、あいつを始末しろ」手の持ち主の声がする。悪の組織のボスであろう。彼の声は聞こえるが、決して顔は見せない。男の片手…

風よ 吹け

吹け 吹け 風よ 風よ 吹け 遠慮はするな 情けは無用 うなれ 吠えろ 叫べ 泣け どす黒く 胸に渦巻く 不安や 悩み 届かぬ愛や 叶わぬ夢 悔しさ 悲しさ 欲望も みんな みんな 吹き飛ばせ 吹け 吹け 風よ 風よ 吹け 「はるの朗読の部屋」はるさんが演じてくださ…

叩いてよ

彼女が言うのだ。「叩いてよ」脈略のない彼女のことでもあり なんとなく叩きたい気分でもあったので 俺はためらわずに彼女の頬へ平手打ちをくれてやった。大きな音と衝撃があったにもかかわらず彼女は言う。「もっと強く」さすがに今度は俺もためらう。彼女…

吹雪の休息

さっきまでふぶいていた。まさにすさまじい吹雪だった。激しくて、冷たくて、死にそうだった。 でも、今はもう穏やかで暖かい。さっきまでの苦痛が嘘のようだ。 冬山の天候は変わりやすい。ようやく前進することができる。いままで吹雪のために動けなかった…

猫のKiss

ノラ猫とノラ猫の そっと くちづけするを見た 買い物の途中 赤き自販機の前にて 元「koebu」とうぷさんがアレンジして熱演!「クリスマスのちいさなお茶会」もぐらさんが演じてくださった! Kiss of the CatI saw stray cats gently kissing each other In t…

砂利道の赤ん坊

これはこの正月、実家に帰省したおり すっかり腰が曲がって小さくなった老母から聞いた話である。昔の田舎は舗装道路ではなく、砂利道がほとんどだった。適当な大きさに粉砕した石ころを地面に敷いただけの道。まだ幼かった私をその砂利道、おそらく農道に置…

陸の孤島のモモンガ

さる陸の孤島に一匹のモモンガが生息しており たまに思い出したように滑空するという。普通のリスではなく、また鳥でもなく なぜ彼女がモモンガなのかは不明である。おそらく、空を飛びたいのはやまやまだが 羽ばたいてまで空を飛びたいほどではないのだろう…

下半身の反乱

どうも気がしれない、と思っていたら 我慢できなくなったのか、ついに下半身が怒った。「上半身に宣戦布告し、下半身の独立を宣言する」放屁しながら、さような趣旨の言葉を肛門が喋った。「よかろう。望むところだ」こっちこそ自分勝手な下半身にはウンザリ…