Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

アゴの枕

僕は砂浜の海岸線すれすれに穴を掘り まぬけな魚が落ちてくるのを待っていた。そこへ幼なじみの歯医者がやってきた。「どれどれ、口を大きく開けてごらん」彼は根っからの歯医者である。歯医者でない彼を僕は知らない。僕は、素直に口を開けてやり、彼に歯を…

肘泳ぎ

浅いプールを這っている。潜水は勿論、溺れることすらままならぬ。水深が足らないために泳げないのだ。ただし、プールの底は滑らかなので肘や膝が擦れて痛い、ということはない。たくさんの人々が這っている。スクール水着の女の子が多いところを見るとどう…

歩いていたら穴に落ちてしまった。大きな穴なのに気づかなかった。考え事をしていたからだ。かなり深く、なかなか立派な穴だった。自力では脱出できそうもない。頭上を見上げる。丸く切り抜かれた青空が見える。しばらくすると、そこに顔が現れた。こちらを…

赤いランプ

深夜、友人にクルマで送ってもらい 別れてから、駅へ向かって歩き出した。交差点があり、信号機は青かった。長い横断歩道を渡り終える直前 青いランプが点滅を始めた。(ちょうどピッタリ。運がいいな)ここの交差点は待つと長いのだ。そのまま駅へ行こうと…

記憶の森

緑豊かな森の風景を想い描く。森閑とした空気。揺れる木漏れ日。蛇のような細い道はけもの道。ひとりで私が森の中を歩いている。それだけ。なんということもない。あるいは幼い頃の記憶かもしれない。ところで、誰かが幼い私を見ている。そんな記憶はまるで…

星くず新聞

さびしい辺境の惑星にひとり暮らし。夜空に撒き散らされた星くず模様が まるで部屋の壁紙のように見えるのは 孤独のために感覚が歪んでいるからだ。にぎやかな鳥のさえずりさえ聞こえる。きっと幻聴だろう。この星に生き物はいないのだから。突然、玄関のチ…

鮎の衣

人里離れた山の渓流。若者が釣り糸を垂れていた。他には誰もいないようであった。草木が茂り、鳥と虫が鳴いていた。若者の竿に当たりがあった。鮎であった。よく跳ねる美しい川魚。それを魚籠に受ける、と 若者は目を見張った。釣ったばかりの鮎の姿が消えて…

定期演奏会

拍手に迎えられ 指揮者が舞台に登場した。咳払いが止むのを待ち 指揮棒は振られた。静かな海交響楽団による 定期演奏会の開演である。『霧の入り江』より序曲、組曲『バッカスの散歩』など。滞りなく演目は進み 安らかな時が流れ いつの間にか すべての演奏…

急な斜面

僕がのぼっているのはおそろしく急な斜面。途中、斜面に寝転ぶ人の姿が目につく。器用なものだと感心する。寝ぼけて転がり落ちるのでは と心配もする。やがて、これより上がない場所に着く。この辺りがきっと斜面の頂上なのだろう。それでは、これより斜面を…

胸の鏡

美しい顔を歪め、派出所に女が駆け込む。「た、助けてください」真夜中の派出所には、若い警官がひとり。「どうなされました?」「お、追われているんです」歩道に出て、警官はあたりを見まわす。「誰に?」人気のない寂しい通り。「鏡に、追われているんで…

海の家

水着に着替えてドアを開けると 海水が家の奥まで押し寄せてきた。「わあ、冷たい!」まるで入り江になったみたいだ。でも、家の中で泳ぐ気はしない。膝くらいの深さしかないし 泥に濁った海水であれば、なおさらだ。玄関を出ると、庭は海面の下に沈んでいた…

円周率

下請け業者と電話で商談中 不意に回線が切れてしまった。大変なクレームが発生していた。在庫部品数の確認を急ぐ必要があった。すぐに固定電話機の番号ボタンを押すと ボタンがはずれてバラバラになった。あわててボタンを拾い なんとかはめ直して押し直す。…

オーディション

あなたの目の前に舞台がある。その上には、まだ誰もいない。芝居はこれからだ。あなたは客席の最前列に並ぶ審査員のひとり。高名な舞台演出家や映画監督の横顔が見える。真剣な表情。息苦しいほどに張り詰めた空気。「それではこれより、審査を開始します。 …

偽りのニュース

特殊光学ガラスが開発されました。光の透過速度が極端に遅い特殊ガラスです。入った光がなかなか出てこないのです。これは画期的な発明です。ガラスの前に立ち、急いで裏側にまわると誰もいないはずの向こう側に人の姿が見えます。こちら側にまわり込む前に…

落ちていた女

家に帰る途中、手首が落ちていた。どうやら若い女の左手らしい。「なんて愛らしい。 この白魚のような指たちときたら」嬉しくなって、それをポケットにしまった。足取りが軽い。交番の前なんか知らんぷりして素通りだ。角を曲がると、腕が落ちていた。「なん…

おれは監督

おれは監督だ。歩き方が気に入らない。「こら。そこの女、やり直し」おれは怒鳴った。「アタシ?」「おまえだ」「なんですか?」「なんですかじゃない。歩き方が悪い」「あの、よくわかんないんだけど」「まるで女子高生の歩き方じゃないか」「だってアタシ…

やってられるか!

「やってられるか!」旦那が会社を辞めた。「やってられません!」奥さんが家事を放棄した。「やってられねえよ!」息子が学校を退学した。「やってられないわ!」娘が家出をした。さて それからどうなったのかと言うとそれから先のことはまったくなんにも考…

女のいる部屋

僕の部屋に女がいる。ただし、その姿は見えない。触れることもできない。声も足音も聞こえない。なぜなら部屋には僕しかいない。なのに女がいる。壁の鏡を覗いてみる。そこに僕の姿はない。見知らぬ女が僕を見つめ返すばかり。 「ゆっくり生きる」haruさんが…

階段落ち

私、階段を転げ落ちているの。止まらない。止められない。その痛いの痛くないの。もう腕も脚もグシャグシャ。肋骨だって鎖骨だって粉々よ。すでに頭蓋骨も割れているはずだわ。でも、なぜ失神しないのかしら。階段を転げ落ちながら考えているけど やはり、な…

殺人ウイルス

あちら立てれば、こちら立たず。出る杭は引抜かれ、沈む船は船員を巻き込む。世の中、問題だらけ。地球規模の破滅は近い。だから、もう放ってはおけない。長年の極秘研究の成果を試す時が来た。とうとう生物学兵器が完成したのだ。いわゆる人工ウイルス。ウ…

解剖バサミ

なぜか解剖されている。腹を解剖バサミで切り開かれ そのまま皮を広げられ 寝台の両端にピンで留められている。執刀者はマスクをした女。その切れ長な目に見覚えがある。「どうして血が溢れないのでしょう?」迷惑にならぬよう小声で女に話しかけてみる。「…

見えない明日

(・・・・おかしい)占いお婆は思案顔。(明日が見えない)水晶玉に明日のイメージが映らないのだ。水晶玉に未来を映すのは 未来における現在を映す未来の自分。つまり、未来のお婆が その過去である現在へ向け 水晶玉へ思念を送り込まなければならない。当然だ…

壊れかけた記憶

なにかについて考えなくてはならなくて でも眠くって 仕方ないので 眠りながら考えることにして うとうとうとうと 考えながら眠ったんだけど 意外なことに なかなか良い考えがひらめいて これは眠ってる場合じゃない と あわてて目覚めたのでは あるけれど …

買い物

巨大なショッピングセンター。どんなものでも売っている、と評判だ。食品コーナーなんか見てまわるだけで満腹になる。おそらく疑似加工食品だろうが人魚の刺身や河童の干物まで並んでいる。玩具コーナーの戦争ゲーム盤の隣にはさりげなく核兵器手作りキット…

泡のゆくえ

うたかたの ひとつ ふたつ 見つかって よっつ いつまで もう ななつ やっと ここのつ とうと 割れ 「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった!元「koebu」田辺千鶴さんが演じてくださった! Th…

片想い

「どうしたんだい?」友だちが心配してくれる。「なんでもない」「顔色が悪いよ」君、余裕があるんだね。「・・・・あのね」「うん」「片想いの彼女がね」「うん」君に説明してどうなる。「妊娠しちゃった」どうもなりはしない。「・・・・そうか」君、戸惑うんだね…

片眉の老人

「あっ、落としましたよ!」老人を呼び止めた。歩道に落ちたものを拾ってやる。それは眉であった。真っ白な眉。「これはこれは。すまんすまん」老人に白い眉を手渡す。なるほど。老人の顔には片方の眉がない。「ありがとうな。助かったよ」「いいえ。どうい…

YouTube投稿 第二弾

再びYouTubeに投稿!タイトル:「Tome美術館 ペン画1」作画 & 作曲:Tome館長製図用ペンなどによるペン画:59点BGM:「夢の跡」「夢の国」「迷える羊の群れ」「迷子の音符」「夕暮れのホルン」● ニコニコ動画