Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

悩んでばかりもいられない

何事かについて僕は悩んでいた。そして、窓辺の机に頬杖を突きながら開いた窓から外の景色を眺めていた。草木が生い茂る田舎臭い風景であるいは本当に田舎なのかもしれない。大声で笑ったり叫んだりしながら目の前を制服の女子学生たちが通る。彼女たちが高…

ミダラ王

その男の手が触れるものすべて乱れる。時計に触れると針が曲がって逆回転。定規を使えば折れて曲がって伸び縮み。辞書引けば誤字脱字の上、嘘ばっかり。絵や写真まで乱れてしまう。絵の中の裸婦が卑猥なポーズ。制服写真が水着、水着写真はヌードになる。女…

なくなったもの

目覚めたら、両腕がなくなっていた。これでは目をこすることもできない。頬をつねってみることもかなわない。あるいは夢かもしれないというのに。起き上がろうとしたが、両脚もなかった。これでは起き上がることもできない。助けを呼ぼうとしたら、声が出な…

ブランコ

近所の保育所にブランコがあった。ふたつ並んだブランコだった。ところどころ銀色のメッキがはげていた。ある日の夕方のこと。小さな女の子がひとり 保育所のブランコでゆれていた。初めて見る子だった。白っぽいワンピースに赤い靴。ちょっとブランコに乗り…

カワニナの研究

中学時代、科学部に所属していた。研究対象は伝統的にカワニナと決まっていた。カワニナは小川に生息する巻貝で ホタルの幼虫の餌になる。当時、まだホタルは普通に見られた。川辺にゴザを敷き、毛布や飲食物を用意して キャンプみたいに「24時間観察」など…

「絆(きずな)」とは本来、犬や馬が逃げぬよう 立木などにつないでおく綱のこと。しがらみ、呪縛、束縛を意味していた。人と人との結びつきや支え合いを指すようになったのは 比較的近年のことである。 「すまんがの、死んでくれんかな」 「・・・・もう無理だか…

さよならの前に

これで僕たちは どうしたって 本当に お別れだけど ちょっとだけ ほんのちょっとだけ お願い さよならの前に 微笑んで 「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださった!元「koebu」とうぷさんが演じてくださった! Before GoodbyeIt is really a farewel…

観光案内

観光バスが自宅に飛び込んできた。やれやれ、またか。急カーブの外側に建つ家の宿命か。バスのフロントガラスが大きく割れている。運転手のあんちゃんが笑顔で手を振る。「やあ」おれは笑顔になれない。でも、返事くらいしてやろう。「やあ」バスガイドのね…

君と来た道

君と来た道 遠い道小川のせせらぎ 今はなく 山並みどこへ 消えたやら君と来た道 遠い道 「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださった! 元「koebu」yayaさんと合唱! The Road That Came with YouThe road that came with youDistant roadThere is no …

渚の恋

街は人の心を閉鎖する海はそれを解放するだから渚で芽生えた恋をそのまま持ち帰るのは至難の業 元「koebu」yayaさんが演じてくださった! Love at the BeachThe city closes the person's heartThe sea frees itSo It is hard to bring home the love That g…

希望のない家

この家を訪れる者すべての希望を捨てよ。門もないのに金棒持った門番がいる。玄関には靴を履いたままの足首が並ぶ。廊下を駆け抜けるカマイタチの群。居間にいるのは観用植物になった鉢植えの妹。キッチンに入れば冷蔵庫を齧るあさましき弟の姿。浴室の窓か…

煮星

星を煮ていたら、戦争が始まった。いわゆる世界大戦の勃発だ。核兵器や生物兵器まで使ってやがる。やれやれ、物騒なことになった。とりあえず、火力をあげる。煮崩れるが、まあ仕方ない。だから煮星料理は苦手だ。いっそ焼き星にするのだったな。 元「koebu…

家庭教師

僕は双子の家庭教師になった。顔も体つきもそっくりなふたりの女の子。いわゆる一卵性双生児の姉妹だ。しかも、どちらも登校拒否児。双子はなんでも知っているので僕はなんにも教えることがないのだった。どんな問題でも自分たちで判断できた。そうとしか思…

保育器の中

黒く巨大なドームが街を覆っている。有毒な太陽を人々から隠すために。あるいは人々が隠れるために。内側へ照射される波長の揃った光の束。奇怪な映像が人工の夜空に展開される。商品広告、またはスクリーンセーバー。真っ白な壁より落書きの壁を好む輩。「…

羊の群

ひとり、帰り道を急いでいた。ただし、急いでいた理由は思い出せない。街灯の配置により、右側が明るく、左側が暗い。ふと、暗い側を歩いている自分に気づく。かなり疲れているらしい。おや、向こうから騒がしい声がする。ああ、羊だ。毛並みのそろった羊の…

キノコの薬局

額にキノコが生えてきたので あわてて近所の薬局へと走った。深夜営業の薬局の主(あるじ)とは顔なじみだった。「あんた、運が良かったよ。もし鼻だったら」「キノコが鼻に生えたら、どうなる?」「そりゃ勿論、女の子に笑われます」嬉しそうな主の笑顔。こっ…

ビーカーの火

白い粉が紙袋の中に入っている。おそらく小麦粉であろう。その粉をビーカーの中に入れ 線香のように数本の試験管を立る。どうやら化学実験をしているらしい。部屋に友だちがやってくる。なにごとか話してから彼は立ち去る。おかげで白い粉のことは忘れてしま…

いらっしゃい

ようこそ。 いらっしゃい。 ここなら なんでもできる。 あなたの望むまま。 望まないまま。欲しければ なんでもある。 いらなければ なんにもない。 なにもかも あなた次第。なにをしたって かまわない。 どんなことだって 許される。 許せないなら それもよ…

眠れぬ美女

彼女は不眠症ではない。まるで眠ったことがないのである。生まれてからずっと起き続けている。おそらく育児は大変だったはずである。両親とも若くして亡くなっている。疲労すれば眠くなるであろう。しかし、彼女は疲れを知らない。小さな海なら、端から端ま…

内緒話

ねえ、ちょっと耳貸してくれる? ううん、ひとつでいいの。ふたつはいらないの。あのね、これは内緒の話なの。絶対に誰にも聞かれたくないの。あら。もちろん、あなたは別よ。あのね、あのね、あのねのね。困ったわ。ううん、違うの。なんだか恥ずかしくなっ…

浮気の調査

俺は、しがない探偵だ。男を尾行している。浮気の調査だ。久しぶりの仕事である。しかも、かなりおいしい。ターゲットは世界的な大企業の会長。その会長夫人からの依頼なのだ。男の浮気現場を押さえることができれば服も買ってやれない俺の婚約者になんとか…

エスカレーター

増改築が繰り返された複合ビル。わけのわからない店があちらこちらにある。百貨店をひっくり返したような景観。ここに私がいるのは帽子を買うためだ。帽子なんか嫌いなのに、おかしなこと。いつしか私は迷子になっていた。エスカレーターがいたるところにあ…

夢うつつ

真夜中の病院。女性看護師が悲鳴をあげ そのまま転がるように廊下を走り去った。目が異常に冴え、暗闇のはずなのに明るく見える。手鏡を覗いてみると、両目が炎のように光っていた。病室の闇に浮かぶ青白いふたつの炎。新米看護師でなくても驚くはずだ。交通…

ルール

白い制服の男に呼び止められた。「君、女の子の足首をつかんだそうだな」失礼な気はしたが、私はうなずく。若い女性の足首は、私の趣味なのだ。「しかも、頬ずりまでしたそうじゃないか」あの柔らかな肌触りがよみがえる。そのため、つい頬の筋肉が緩んでし…

飛翔

僕はなんだか飛べそうな予感がする。ほとんど走るような調子で歩き出すと前方へ落ちるように傾いた地面から徐々に足が離れてゆくのがわかる。飛行機の翼みたいに両腕を横へ拡げ、両脚をまっすぐ後方へ伸ばしてみる。落ちもせず転びもせず膝を擦りむくことも…

雪女

ひとりの旅の僧侶が吹雪(ふぶき)の山を歩いていた。昼なお暗く、天狗(てんぐ)や山姥(やまんば)が棲むという。冬ならば、雪女が袖(そで)を引くという。「お待ちなされ。そこなお坊様」背中を凍らせるような冷たい声がした。振り返ると、白装束(しろしょうぞく…

火の酒

どうだ、おまえ。こんな酒、見たことなかろ。なんでも火の国の地酒なんだと。羨ましいか。すげえうめえらしいぞ。のん兵衛にはこたえられん酒なんだと。飲めるんなら、火の中でも飛び込むとか。だから、一口でも飲んだら危険なんだと。もう飲むことしか考え…

喉にナイフ

ナイフの刃を喉に当てられている。身動きできない。動けば殺される。「あんた、私が怖いのかしら」正直なところ怖い。もう失禁してる。だが今、彼女に嫌われるのはもっと怖い。退屈な奴と思われるくらいなら死んだ方がマシだ。「怖くないと言っても、信じな…

氷の音

深夜に飲み水を切らしてしまったので冷蔵庫の冷凍室から氷を取り出して陶製の器に山盛りにして机の上に置きしばらく氷がとけて水になるのを待っていた。するとほんのかすかではあるけれどコソコソと内緒話をしているようななんとも不思議な音が聞こえてきた…