2010-01-01から1年間の記事一覧
恋人の脚に根が生えてきた。きれいだった彼女のふくらはぎが今では見る影もない。「木になってしまうんだね」僕がそんなことを言うから彼女は淋しそうにうなずく。針葉樹に似てきた緑の髪がゆれる。そんな動作さえ苦しそうだ。すっかり痩せて、木の枝のよう…
昔、小学校で映画の鑑賞会があった。 錦鯉の話で、粗筋は以下の通り。主人公の少年の家は錦鯉を養殖していた。稚魚が成長して美しい模様を備えれば錦鯉として高く売れる。しかし、つまらない模様の鯉は「テンプラ」と呼ばれ 売れないので天ぷらにされて食べ…
あんまり汚れてるからとにかく洗ってやることにした。泥だらけの足。手なんか血まみれだ。わけのわからないものが背中に付着している。髪もひどい。坊主にするしかない。「くそっ! どうしたらこんなに汚れるんだ」こすってもこすっても落ちやしない。さすが…
彼女は美人だった。九つ年下だった。スタイル良くて、背が高くて、胸は大きかった。本物のモデルさんみたいだった。聞き飽きてるだろうとは思ったけどまるでモデルみたいだね、って言ってやった。ちょっとおかしなコだった。ううん。すごくおかしなコだった…
「ねえ、お母さん。見て、あの人」幼い娘が声を震わせ、指さした。それは性別さえ区別できない人だった。アゲハチョウに似た格好をして、歩道にしゃがんで横笛を吹いていた。その瞳のように美しい調べだった。母親はしばらく黙って聴いていた。それから娘の…
毛糸の帽子をかぶり毛糸のマフラーを 首に巻く。寒い 冬の晩だった。猫になって 家を出て犬になって 夜道を歩いた。途中、路上駐車のクルマから 小銭を盗んだ。深い意味はない。盗めるから 盗んでみただけ。やがて、家のシルエットが 見えてきた。同じ中学に…
爆弾を抱えたまま 授業を受けていた。教科書と鉛筆と消しゴムがおもな材料の 手製爆弾。机上の小型コンロで、魚を焼くように 爆弾を焼く。やがて教室に 危険な臭いが立ちこめる。「たまらないな」神経質そうな教師が 神経質そうに窓を開ける。校庭とポプラ並…
やめておくれと その手をのけりゃ ほんにやめちゃう いやな奴ふたりあそこで 別れたとても どうせ濡れてよ 通り雨手さえにぎらず つれない素振り ゆうべしたこと 忘れたのぽたぽたぽたと しずくが落ちる なみだにしては ちと赤い「ゆっくり生きる」haruさん…
あいつと一緒に丸木橋を渡っていたら 背中を押されて谷川に落とされてしまった。落ちる途中で気を失ったくらいだから かなりな落差があったはずだ。気がつくと、私は谷川を流されていた。あいつの罠にまんまとはまったわけだ。二人だけで山歩きしようなんて…
さあさ、おもちゃの兵隊が やってくるぞ。あの勇ましい鼓笛隊の行進が 聞こえないか。 チイタカタッタ タカタッタ チイチイタカタ タカタッタ弱い者いじめの悪い子を 捕まえにきたんだ。おもちゃの王国に連れてかれたら 大変だ。おもちゃの森は、ゼンマイ仕…
授業中であった。一番前の席の女子生徒が手をあげた。「先生」「ん? なんだ」「私、飛び降りてきたいんですけど・・・・」教室がざわついた。「おまえもか・・・・」「すみません」「・・・・仕方ない。無理するなよ」「ありがとうございます」彼女は教室を出ていった。…
おいら猫舌 猫背の犬 犬歯隠して 猫の目キラリ三年の恩を 三日で忘れ マタタビ舐めて 猫まねき犬小屋の床で 爪を研ぎ 月夜の晩に 吠えたり しない 「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!元「koebu」makotoさんが演じてくださった! Sunoが作曲…
彼女をサソリと呼ぶのにはわけがある。彼女がサソリと呼んでくれと頼むからだ。理由は不明だ。蠍座生まれでもない。内緒だが、彼女は乙女座だ。「あたしにはね、毒があるのよ。猛毒」ついに脳にまで毒がまわったようだ。「あたしに触れたら、命の保障はない…
彼女、びっくり箱を開けてびっくりして 死んじゃった。びっくり箱の中には、彼女の死体。彼女、びっくりしてしまった。のんきに 死んでる場合じゃない。彼女、びっくりして 息を吹き返す。「ああ、びっくりした!」なんて人騒がせな、びっくり箱。元「koebu…
南極大陸に一頭の白熊がいた。 すっかり老いぼれた雄の白熊だった。なぜか氷原に一本の棒が立っていて 白熊はその棒のまわりを歩きまわっていた。くたびれたようにぐるぐるまわっていた。いつまでも飽きずにまわり続けていた。南極の空にはオーロラが美しく…
誰も見たことのない 海 はるかな 水平線 透明な 潮の香り 汚れを知らぬ 波 真っ白な 砂浜に 初めてしるす 足跡 この星が誕生して なん十なん億年 過ぎたか 知らないが まだ 誰ひとり この海を 泳いだ者はいない 今 私が泳ぐ 元「koebu」栗さんが演じてくださ…
嫁いだ家はとんでもなく大きいのだった。代々続く豪農の家だとは聞いていた。けれど、その大きさは想像を絶していた。嫁いでからそろそろ一年たつというのに いまだに全体像がつかめないほどなのだ。この家には多くの家族が暮らしている。迷子になって泣いて…
森の奥に宮殿がある 異国風な丸屋根 大理石の柱 螺旋の階段をのぼってごらん 飾り窓がまわる シャンデリアがまわる 宮殿がまわる 森もまわる 踊り子のように くるくるくるくる 目がまわる そんなかわいらしい森の宮殿 元「koebu」眠り猫さんが演じてくださっ…
妻は出産のために入院中だった。 自宅となるはずの家は新築中だった。私は、その建築現場をぼんやり眺めながら つまらぬことを考えてしまうのだった。家を建て、子どもを育てる。その子どもが大きくなり、やがて家を出る。結婚して、親になって、つまり孫が…
水石(すいせき)の山を望み海泡石(かいほうせき)の入り江に佇(たたず)む条痕(じょうこん)の空に浮く白雲母(しろうんも)黒曜石(こくようせき)の鳥が舞う園石(えんせき)に班晶(はんしょう)の花が咲き大理石(だいりせき)の彫像(ちょうぞう)煙水晶(けむりすいしょ…
そのドレスを着る者は美しくなれるという。花の妖精が虹と朝露で織った七色の生地を七人の魔女が七年かけて縫いあげたもの。これを着れば誰でも絶世の美女になれる。どんな醜い女でも、たとえ死にそうな老女でも。「よう。朝から景気いいな」「ふん。好きで…
はるか遠い昔海と陸とが戦争をした。いつか海は断たれ陸は割れてしまった。海の捕虜は湖になり陸の捕虜は島になった。はるか遠い昔海と陸とが戦争をした。いまでも海岸線では小競り合いがあるという。 元「koebu」田辺千鶴さんが演じてくださった!Sunoが作…
胸騒ぎがして目が覚めた。二階の部屋を出て階段を下りてみる。なんとなく様子がおかしい。廊下を進んで一階の居間を覗いてみる。パパもママも起きていた。「どうしたの?」目をこすりながら寝ぼけた声で尋ねた。「起きちゃったか」「うん」「どうやら火事の…
ほら ここんとこをねいいかい こうやってえいって むいちゃうんだで こいつをつまんでほら みてごらんどうだい すごいだろ でも まだまだこんなもんじゃないよもっと すごいんだからううん だいじょうぶそんなことないからしんぱいないってなんというかな え…
殺風景な氷原を歩いていた。白夜の空の下には氷原しかなかった。歩いても歩いても殺風景な氷原をただ歩き続けるしかないのだった。まるで立ち止まっているみたいだった。それでも黙々と歩き続けた。疲労感はなく、空腹なのに食欲も湧かない。さびしいとも思…
屁をひらせては並ぶ者のない女がいた。その音色の妙(たえ)なること その香りの芳(かんば)しきこと まさに神技とまで称(たた)えられた。全国から挑戦者が跡を絶たなかったが 放つ音の大きさはともかく 調べに趣(おもむき)のないこと甚(はなは)だしく 香りにお…
夕陽が校舎を赤く染め やがて藍色の黄昏が訪れる・・・・ くたびれた職員室。教師がひとり。「先生。遅くまで大変ね」入口から女子生徒が顔をのぞかせる。「なんだ。まだいたのか」「うん。大会が近いから」汗に濡れた頬。擦りむいた膝小僧。「あまり無理するな…
意地悪な砂男は 砂に埋もれて 眠ってしまった 眠れ 眠れ 深く 眠れ羊たちも眠くって 柵にもたれて 眠ってしまった 眠れ 眠れ 静かに 眠れ眠り姫も眠くって 夢の中でまた 眠ってしまった 眠れ 眠れ やすらかに眠れ 「note」yayaさんが演じてくださった!元「k…
地面に糸が落ちていた。ありふれた白い糸であった。ただ、おそろしく長いのだった。どこまでもどこまでものびている。その糸の端を持って引っ張ると スルスルと糸が引きずられてくる。途中で切れそうな気がして 手に巻きつけながら糸の先を追う。そのうち、…
ようこそ 船酔いお嬢さん 錨(いかり)を上げたら 水兵さん 両手もあげてもらおうか そうとも そうよ ご覧の通り 恐れ多くも 俺たちゃ海賊 片目は義眼 片足ゃ義足 五つの大陸 六人の女 七つの海に 八つの災い 殴って泣かせ 奪って殺す 海に捨てりゃ 鮫(さめ)の…