Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

駆け落ち

駆け落ちは、愛し合う二人が 一緒になることを許されない事情がありながら 同棲生活をするため、親元から一緒に逃げること。身分や人種を理由に結婚や交際を親から反対されたり 二人の一方または双方が既婚であったり 望まない結婚を親に強要された場合など…

空に向かって

どうにも腹の立つことがあって おれはむしゃくしゃしていた。おれは空に向かって叫んだ。「バカヤロー!」すると、空が返事をした。「なんだと?」おれはポカンと口を開ける。なんにも言えない。空が追求する。「強い悪意を感じたぞ」おれは我に返る。「す、…

熱気球に乗って

熱気球のゴンドラに乗って 僕は雲ひとつない大空に浮き上がった。バーナーの炎に熱せられ 青色のエンベロープが小さな地球みたいに膨らんでいる。熱気球操縦士技能証を習得して、最初の単独フライト。しっかり浮遊許可の届けも出した。どこにも邪魔者はいな…

黄泉の声

交差点の横断歩道の前で信号が変わるのを待っていると たまに声がすることがある。「なんで待つのよ」ビルの屋上とか高いところにいると やはり声が聞こえることがある。「ちょっと落ちてみたら」 ある日、踏切の前で電車が通過するのを待っていたら やはり…

振り子時計

生家には大きな振り子時計があった。小さな子なら入り込めるほど大きかった。観音開きの扉を開け、時計の奥に潜り込む。ただし途中、振り子に触れてはならない。振り子が左右どちらかに寄った瞬間を狙う。もし振り子に触れたら、気が狂ってしまう。そのよう…

高いところ

私は宇宙飛行士。カモメではない。地球周回軌道上の有人人工衛星 いわゆる宇宙ステーションの中にいる。現在、私の生活空間は、ほぼ静止しており ぼんやりと風船みたいに赤道上空に浮かんでいる。無重力に浮遊しながら、私は考える。まったく、こんなところ…

高原の歌姫

私は「核の申し子」なのだそうだ。この高原には、あの大国の 核廃棄物の処理場が多く点在している。私が生まれ育った土地の近くにもそれがあり 私の声が人と違うのは、そのせいだと言うのだ。甲状腺異常だ、と。子どもが大気中の放射性ヨウ素を吸い込むと 甲…

今度こそ

弓道の基本動作に「射法八節(しゃほうはっせつ)」がある。足踏み:的に向かって両足を踏み開く。胴造り:両脚の上に上体を安静に置く。弓構え:矢を番(つが)えて弓を引く前の構え。打起し:弓矢を持った両拳(こぶし)を上に持ち上げる。引分け:弓を押し弦を…

主のいない館

どこかにある古い館。あなたが玄関のドアを叩くと 執事らしき男が嬉しそうに出迎えてくれる。「いらっしゃいませ。お持ちしておりました」長い廊下を渡り あなたは広い居間に通される。「ここでしばらくお待ちください」居間の壁には大きな肖像画が飾ってあ…

子どもたちの時間

お医者さんごっこをするというので タケシ君の家に僕たちは集まったんだけど なんだか話が違っていた。「さて、具合はどうですか?」「ちょっとオナカが痛むんです」「そうですか。では、診察しましょう。 まず、服を脱いでください」「はい、センセ」タケシ…

事件の真相

あの事件の真相を申しあげます。当時、あの事件は世間を大いに騒がせました。そもそも事件そのものが異常でした。あまりに異常なので、これは事件ではないのではないか という意見すらあったほどです。しかし、あまりに話題になってしまったため いまさら事…

穏やかな日

えてして穏やかな日に事件は起こる。まるで退屈を紛らわすかのように・・・・発端は119番通報だった。「江戸川にね、変なもんが流れてるんですよ」川から引き上げられたそれは、確かに変なものだった。死体には違いないが、人間や獣のそれとは違う。あえてどうし…

熱いうちに撃て!

あんたは死刑囚。目隠しされ、杭に縛られ 標的ですよ、と言わんばかり。この俺は死刑執行人。制服を着て、ライフル銃を持ち 撃ちますよ、と言わんばかり。あんたに恨みはないが これが俺の仕事だから、勘弁してくれ。普通は三人ぐらい執行人がいてよ、恨みや…

笹舟

笹の葉を 折って切って 切って挿し 折って切って 切って挿しお舟できたら 川に浮かべて 流すだけうまく浮かべば よいけれど どこまで流れて ゆくのやら元「koebu」田辺千鶴さんが歌ってくださった! Bamboo-Leaf Boat A bamboo leaf Fold and cut Cut and in…

ジャングルジム

三丁目の児童公園には子どもがいない。この場所で子どもの失踪事件が続いたため 「ここで遊んではいけません」と親や教師が指導するからだ。「おれ、ジャングルジムでね、 ケンジと一緒に遊んでたんだよ」近所の子、マモル君が教えてくれた。「そしたらね、…

なんでも質屋

おれは質屋に入った。どうしても現金が必要だったからだ。「おや、先生。いらっしゃい」質屋の主とは顔なじみだった。「じつは、相談なんだが」おれは主の目をまともに見ることができなかった。「なにか売りたいのだが、なにも売るものがないのだ」母親は、…

小春日和のインディアンと天国の門

「小春日和(こはるびより)」とは、晩秋から初冬にかけて 移動性高気圧に覆われた時などの温暖な天候のこと。 「小春」とは陰暦10月。 現在の太陽暦では11月頃に相当し、 この頃の陽気が春に似ているため。 英語なら、“Indian summer”が近い。 「インド人の夏…

魔女裁判

魔女であると容疑をかけられた人間はまず審問官の前に引き出されることから始まる。まず告発文の朗読。内容は、たとえば胎児を殺して食ったとか、魔法の秘薬を作ったとか、呪いをかけて災いを招いたとか。容疑者は、私は魔女ではありません、陰謀だ、などと…

余計なお世話

市立図書館から借りた推理小説を読んでいたら その本の途中にボールペンで書き込みがあった。ある登場人物の名前を四角く囲み、下手糞な字で [ こいつが犯人 ]世の中には親切な人がいるものだ。ぜひとも、厚くお礼を申さねばなるまい。というわけで、これを…

待ちくたびれて

いつまで待っても、あの人は来ないのだった。行く行く、と言ってたくせにまったく来る気配がないのだった。ただ待っていても仕方がない。世間で流行(はやり)のゲームをやってみた。ある目的を達成すれば勝ち。できなければ負け。なかなか面白かった。だが、…

辿り着けない場所

その輝ける場所は 同じ志を持つ者にとって栄光である。その聖なる場所は 同じ夢を抱く者にとって希望である。「また負けたよ」「そうか。おまえもか」「どうしても勝てねえ」「まったく、強い奴が多すぎるよな」「くそっ。もう諦めようかな、おれ」「おまえ…

折れた氷柱

僕が幼かった頃の ある大雪の年のこと。僕が外で遊んでいて 雪玉をつくって 屋根に向かって投げたら 一本の氷柱(つらら)に当たって 根もとから折れて それが下で雪かきしていた お爺ちゃんの頭に刺さりました。お爺ちゃんがビクンとして それから枯れ木のよ…

太陽ヨットレース

第一回太陽ヨットレースは熾烈を極めた。光が鏡に当たって反射すると、鏡に圧力が加わる。これを光圧と呼ぶ。太陽ヨットは、太陽からの光圧を推力源とする宇宙船のこと。誤解されることが多いが、太陽風で飛ばされるわけではない。太陽風は、太陽から吹き出…

諦めなさい

私はピコモラゲを抱えて審査会場に向かった。準備に三年、制作に丸一年かけた苦心の作である。トータルの費用も相当なものになった。革新的な発想、大胆かつ精緻な構造、有益性と娯楽性、あらゆる観点において歴史的な大傑作。自惚れても当然であろう。審査…

歴史介入者

産院で息子が生まれた。と喜んでいたら、歴史介入者が現れた。「この子は将来において、恐るべき犯罪者になります。 大人になる前に粛清せねばなりません」政府発行の身分証明書を提示しながら説明するのだった。「タイムトンネルを通って未来から来ました」…

秘密基地

雑木林を抜けると、ちょっとした広場があった。近所の子どもたちの遊び場だった。寺の裏山なので、墓場から続く小道もあった。この広場の端に小さな家を建てた。丸太や枯れ枝で組んだ掘っ立て小屋だった。ささやかながらも、秘密基地なのだった。あれは梅雨…

明日の魔女

カリエは、小さな魔女。王立魔法学校初等科の劣等生です。魔法の定期試験では失敗ばかり。試験官による口頭での出題。「このトカゲをヘビに変身させなさい」しっかりヘビの変身呪文を唱えたはずなのになぜか恐ろしい姿のドラゴンが現れます。もう試験会場は…