Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2011-11-01から1ヶ月間の記事一覧

行列

遅れて到着したら、すでに行列ができていた。私はあわてて行列の最後尾に並んだ。行列は建物の角を曲がって続いており ここからでは先頭まで見えなかった。余裕を持って家を出たのに 途中、電車を乗り違え、しかも しばらく気付かず遠回りしたため 予定より…

死んだ子の年

ええ、そうなんです。私はもうこんなですけど、まだ今でも 死んだ子の年を数えております。ええ、そうなんです。あの子はほんと、かわいそうに 生まれてすぐに死んでしまいました。ですから私、あきらめきれなくて・・・・あの子がまだ生きているとしますと 今年…

垂直の関係

おれは浴室の床に裸で立っている。彼女は浴室の壁に裸でしゃがんでいる。つまり、おれたちは垂直の関係にある。湯煙の中、おれは彼女を見上げる。「いやーっ! あっちへ行って!」壁の彼女は天井ぎりぎりまで逃げる。なに、あせることはないのだ。どうせ浴室…

水の物語

うららかな春の 朝早く 裏庭の小池に 気づかれないように そっと近寄り さっと水面を めくってみましたら すっと消えてしまいそうに ささやかな 淡く切ない水の物語が しっとり濡れて にじんだ文字で ひっそり書かれてありました。 それをこっそり 読んでし…

ギター即興曲

焚き火 囲んで ギター 弾けば 古き歌など 聞こえます。切ない恋も ありました。 儚い夢も ありました。あれも これも みんな みんな みんな パチパチ はぜました。元「koebu」田辺千鶴さんが歌ってくださった!Guitar Improvisation SongIf you play the gui…

ドラマーな妹

僕が塾から帰宅したら 小学生の妹が居間でドラムを叩いていた。「ただいま」普段、そんな挨拶などしない。きっと驚いたからだろう。「おかえり」スティックを鮮やかに空中で回転させ 最後にドタタンと叩き、妹は演奏を中断した。「なにしてんだ?」「見れば…

絡まる糸

「愛してる、って言って」彼女が糸を吐く。「愛してる」その糸が僕に絡まる。「愛してる、ってやってみせて」僕は彼女にやってみせる。「愛されてるのね」彼女の糸が僕を操る。「私も」そして、僕を縛る。「愛しているわ」彼女が僕を食べ始める。元「koebu」…

空気が読めない

比喩(ひゆ)でもでもなんでもなく 本当に空気に文字が書いてあった。[ つまんないから、もう帰りたい ]情報処理技術の進歩というものは凄まじいものだ。教育の荒廃なのか世代格差なのか 場の雰囲気を理解できない人が増え、トラブル頻発。それを回避するため…

暗闇のガラクタ

暗い洞窟のような場所である。土に埋もれた鉄橋の下を連想させる。なにかを求めてここまで来たはずだ。しかし、思い出せない。ガラクタと呼ぶべきものが散乱している。食べ物であれば完全に腐っている。道具や機械であれば使い物にならない。仲間も一緒だが…

昆虫と植物の関係

二十歳の頃、大発見をしたような気がして 眠れないほど興奮したことがある。 昆虫は変態成長をする。 たとえば蝶なら、卵、幼虫、サナギ、成虫となる。 これが植物の生長とそっくりなことに気づいたのだ。 被子植物の生長点部分は、種子、芽、つぼみ、花とな…

昆虫記

草の葉の上で てんとう虫があぶら虫を食べていた。あぶら虫は泣きながら訴える。「なぜ私を食べるのですか?」でも、てんとう虫は返事をしない。(尻からでなく、頭から食うんだったな)そんなことを考えている。草の葉の裏側では クモのおばさんが編み物を…

怖くて

私の目の前を歩いているあなたはひょっとして私ではありませんか?思わず声をかけそうになって途中で怖くなってやめてしまった。だって、ほら、その瞬間に背後から声をかけられそうな気がして。元「koebu」田辺千鶴さんが演じてくださった!元「koebu」Akira…

幻獣エゾルグ

幻獣とは伝説でしか存在しない動物。剥製も骨格標本も化石さえ存在しない。エゾルグはじつに不思議な幻獣である。まず、どんな姿なのかよくわかってない。腰でつながった一卵性双生児の人魚だとか翼のある双頭の龍なのに豚鼻であるとか鶏頭牛尾だとか、口が…

空っぽ

別れ際に恋人から刺された。驚いた。けれど痛みはなかった。彼女の後姿が小さくなってゆく。ありふれた別れの言葉さえなかった。どうしてこんな仕打ちを受けるのか 納得できる理由は浮かばなかった。とりあえず胸からナイフを抜く。ありふれた安物の果物ナイ…

崖っぷち

少年は崖っぷちに腰かけていた。その背後には 平原が果てしなく広がっている。奈落の底を見下ろせば 目眩する高さ、吐き気する深さ。上昇気流に逆らい、吸い込まれそうな えぐれているようにさえ見える断崖絶壁。どれほどの時が過ぎたろうか。不意に少年は立…

馬の花園

花園を背負ったような馬が庭にいる。飾り立てられ、玄関の前に佇んでいる。その花園はまばゆいほどに輝き さる高貴なる令嬢の顔を有している。やがて、こちらへ馬は歩んでくる。なぜか、僕のところにやってくる。おそるおそる手を差し出すと 馬は僕の指を舐…

美しい花

この花の名前は知らない。けれど美しい花だと思う。初めて咲いたときは 小さくてつまらない花だと思った。でも、球根を譲ってくれた知人は言う。「もしも君が、花を美しくしたかったら 雄しべをね、すべて切ってしまうといいよ」それで僕は、ピンセットを使…

兎の罠

巣穴から子兎が頭を出した。自慢の長い耳。どんな音でも聞き分ける。風のざわめき、鳥のさえずり、猟師の足音。「くれぐれも罠には気をつけるんだよ」巣穴の奥から、母兎の声がした。「もう子どもじゃないよ。罠なんか平気さ」子兎は巣穴を飛び出した。日差…

生け女

たくさんの花が咲いている。さまざまな色と形、香り漂う女たち。どこかしら美しさを認められると 手足や首をスパスパ切られ 器に挿され、生け女にされる。生け女には良質の素材が求められるが だから長く生かせるというものでもない。腕の長さ、ヘソの位置の…

津波

船は流されていた。計器に教えてもらうまでもない。それは体感でわかる。船長は甲板に立ち、遠くへ目を凝らす。東の水平線の上に黒い断崖が見える。あんな方角に陸地があるはずはない。断崖ではない。あれは波だ。大波。いや、津波だ。最大級の大津波だ! な…

トンネルの出口

街灯はなく、夜道は暗かった。新月なので、夜空に月の姿はなく 曇っているのか、星の光も見えなかった。隣町から帰る途中、トンネルがあった。短いトンネルだが、今夜は長かった。歩いても歩いても出口に出ないのだった。おかしい、と思った。どうしたんだろ…

蛸の寓話

海底の岩穴に一匹の蛸(たこ)がいました。じつに大きな蛸でした。しかも大変な大食いでいつも腹を空かせているのでした。蛸が棲む岩穴のまわりには海老や貝などの殻の山ができています。いくら食べても満足できないのでした。もう岩穴の近くに食べ物はありま…

絵の中の部屋

私の部屋の壁には絵が飾ってありました。それは女の子のいる部屋を描いた絵でした。黄色い壁、緑色の絨毯、薄紫色のカーテン。開いた窓からは青い空が見えます。女の子は床に立っていて かわいらしいピンクの服を着ています。ある朝、その絵をなにげなく見る…

わかる?

わかる? わかんない? だいたい、わかる人って わざわざ説明しなくても わかってくれるよね。わかんない人は いくら説明しても わかってくれないし。つまり、説明なんか ちっとも意味ないわけだ。そりゃまあ わかるかわかんないかわかんないような 境界線上…

本当におもしろいこと

本当におもしろいことは きっと単純で ごく身近なことで お金なんかほとんどいらなくて つまらないことなんか気にせず そこそこの勇気を持って ときには悩んだり ちょっとした工夫をしながら 見栄なんか張らず 我慢とか無理をせず あたりまえのことをあたり…

汚れた人形

冬の浜辺の 砂に埋もれた人形を 繰り返し撫(な)でるは 波の白い 手と手と手服汚れ 髪乱れ 腕千切れ それでも唇は 奇妙に微笑(ほほえ)んでいる持ち上げれば 細き首は折れ ガラスの目玉 ボトリと落ちる 傷心の君を 胸に抱(いだ)けど 灰色の砂 ただ零(こぼ)れる…

数学的収束

任意の解析的連接層に同値関係が与えられ、初期超平面との交わりの近傍において、一種の調和次元としての再起事象依存と解の依存領域が完全に同系であるなら、重複対数の法則に従い、虚軸と実軸は境界張り合わせによる共鳴錯乱の結果、共通の帯領域でコンパ…

落星

ある夜 星が落ちてくるの 幼い頃に見た 雪のように いくつも いくつも いくつも 大人になった日の 涙のように地面に落ちたら 穴があくの 家に落ちたら 家が燃えるの 山に落ちたら 山が消えるのはしゃいでいるのは 子どもたち 無邪気な瞳が キラキラ 光るたく…