Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

タイル渡り

待ち合わせ時刻には早かったので 時間つぶしに近くの公園に寄ってみた。地面にはすべてタイルが敷かれてあり 見た目のきれいな公園だった。心を落ち着かせるなら土の地面だがタイルの地面は心を躍らせてくれる。赤や青や緑、色とりどりのタイルを眺めている…

見知らぬ夏

ある夏の昼下がりのことでした。縁側に見知らぬ猫が寝ていました。寝てるふりをしていたのかもしれません。裏庭では見知らぬ犬が吠えていました。野良犬でない証拠に首輪をしていました。枕もとには見知らぬ女が座っていました。随分と心配そうな顔をしてお…

花占い

やわらかな春の風が吹いています。 小鳥のさえずる美しい草原で女の子が花占いをして遊んでいます。 「ひとつ、ふたつ、みっつ、・・・・」そのかわいらしい声。 「好き、きらい、好き、・・・・」そのあどけない瞳。 「大好き、大きらい、大好き、・・・・」飽きもせず…

生卵の夕暮れ

崩れそうな塀の上、キツネ顔の少女は首にヘビを巻いている。「今、何時?」「昨日の今頃かな」「なら、昨日の今頃は何時?」「明日の今頃じゃないかしら」お日様が割れて中身が海に垂れ落ちる。どことなく生卵の黄身に似てるのはきっと夕暮れが近いせいだろ…

ミイラとダンス

屋根裏部屋でミイラを見つけたのは かくれんぼして妹と遊んでいた時だった。それは干からびてホコリにまみれていた。「ミイラさん、見ーつけた!」妹は無邪気な声で叫んだものだ。奇妙なことに、ミイラは首を振った。「やれやれ、とうとう見つかったか」年代…

コイン

あなたと私 コインの表裏 背中合わせの ふたりの関係 あなたが出たら 私は隠れる あなたがまわると 私もまわる ドブに落ちるのも きっと一緒 「note」yayaさんと共演!元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった! CoinYou and I areCoin front and…

暖炉の前

赤々と燃える暖炉の前、男の子と女の子が遊んでいます。「シュッシュ、ポッポ、シュッシュー」「ああ、やっと汽車が入ってきたわ」「プシュー、プシュー」「さあ、これから遠くへ旅立つのだわ」「お嬢さん。お荷物をお持ちしましょう」「あら、素敵な方。ど…

色紙を切るように あなたが私を切ってゆくじょき じょき じょきあら そんな形にじょき じょき じょきああ そんな角度に 錆(さ)びついた鋏(はさみ)の 切ないほどの冷たさ元「koebu」まゆさんが演じてくださった!元「koebu」108(イレハ)さんが演じてくださっ…

鬼ごっこ

寺の小僧が指を立て、大声で叫んだ。「鬼ごっこするもの、この指とまれ!」すぐにいろんなのが集まってきた。妙に鼻が高いの。手に水掻きがあるの。角を生やした鬼の子までやってきた。とりあえず、この鬼の子が鬼になった。「鬼さんこちら、手の鳴るほうへ…

枕歌

ひざまくら かしてやったに それっきり かえしておくれな うでまくら Pillow Song I lent my knee pillow But I've not heard from you Please return it With your arm pillow

高い塔の上の泥棒

高い塔の最上階に三人の泥棒が住んでいました。階段が壊れていたので誰も訪れず また誰も住んでいないものと思われていました。年若いのに、三人は立派な泥棒でした。大胆な計画、綿密な準備、巧妙な手口。盗まれたことを相手に気づかせないほどです。時には…

なでしこ

撫(な)でし子の 噂(うわさ) 桔梗(ききょう)や 女郎花(おみなえし)買うや 買わぬの 藤袴(ふじばかま) 萩(はぎ)て 葛(くず)れて 尾花(おばな)かな元「koebu」makotoさんが演じてくださった!「note」yayaさんが演じてくださった! A PinkI heard rumors of a g…

小 人

幼かった頃、僕は小人を飼っていた。ガラス瓶に詰め、しっかり栓をはめ 小人が逃げられないようにしていた。両親にも兄弟にも秘密だった。打ち明けるような友だちもいなかった。飢えて死なないように 小人には砂糖水や果汁を与えていた。いつも夜が楽しみだ…

手毬

撫でられたら 嬉しい やさしくなくても 平気 爪を立てられても 我慢する それが あなたなら あなたが したいなら転がされても いい どこまでも どこまでも 喜んで 転がってあげる あなたが 追いかけてくれるなら あなたが 笑ってくれるなら放り投げても かま…

切り抜き

散歩していると、美しい風景に出会う。たとえば、橋の上から眺める夕焼け。おもむろに鞄からハサミを取り出し 折らなくても鞄に入るサイズでその美しい場面を急いで切り抜く。瞬時に切り抜かなければならず どうしても切り跡が雑になりやすい。だから帰宅し…

おててつないで

ふたりなかよしいつもいっしょおててつないでチョウみたいはねをパタパタひらいてとじる 元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった! Hand in handTwo friendsAlways togetherHand in handLike a butterflyScattering wingsOpen and close

迷惑な趣味

彼女、死んだ真似がとてもうまい。白目むいて、公園で倒れていたりする。わざと服装を乱して、下着とか見せて。または、街路樹の枝で首を吊るとか。遺書まで用意して、足下に置いたりする。真に迫っていて、誰でも騙されてしまう。慌てる人々の反応をこっそ…

ねえ

いつか君が 大きくなって僕とのことを ふと思い出したらいったい君は どんな気持ちに なるんだろうね。 元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった! Hey Someday you grow up and you remember me a momentarily what kind of feeling will you fe…

本の虫

電車に揺られながら読書していた。近所の図書館から借りた本。かつて題名が話題になった小説。権威ある文学賞も受けている。夢中になって読んでいたと思う。その本の見開きに虫がとまった。ハエでも蚊でもない変な虫だった。ページの上を六本脚で這う。地へ…

林檎の樹の下

林檎の樹の下にあなたがいるワンピースが風にゆれている林檎の樹の下にあなたがいる微笑もうとして失敗している林檎の樹の下にあなたがいるわたしが近づくの待っている林檎の樹の下にあなたがいるいるはずのないあなたがいる 元「koebu」makotoさんが演じて…

かくれんぼ

「もういいかい」「まあだだよ」「もういいかい」「もういいよ」「どこだろう」「どこかしら」「見つからない」「どうしたの」「消えちゃった」「見つけてよ」「教えろよ」「しいらない」「もう出てこい」「まあだだよ」 元「koebu」nyapipi///aprileさんが…

裁縫

君の頬に縫い針を刺して絹を裂く悲鳴をあげさせて型紙からはみ出たら切り落として 髪と眉は一本残らず毛抜きして まぶたなんか縫い合わせて ただし片目は見開かせて目打ちして 耳たぶは折り曲げてアイロン掛けて 唇は裁ち鋏で横に切り裂いて 鼻までめくり上…

帰れない帰り道

いつもの駅と違っていた。どうやらひとつ手前の駅のようだ。失敗した。あれが最終電車だったのに・・・・ タクシー乗り場には長い列ができていた。仕方ない。家まで距離はあるが、歩いて帰ろう。知らない道だが、だいたいの方角は見当がつく。まあ大丈夫だろう。…

蛍狩り

やわらかな 闇の底 小さな光の群 愛らしい瞳 夏草の向こう側 いつも君は 無茶をする 僕の気持ちも 知らないで 透けて肌が 見えるから 川に落ちたかと 驚いて・・・・ そんなふうに君は いつも僕を こまらせる だめだよ だめだよ だめだったら 濡れた浴衣は 着替…

人魚の叫び

水平線上に陸地が見えてきた。デッキの上には乗客たちの笑顔があり 乗客たちと一緒に船長も喜んでいた。長かった航海も無事に終わろうとしている。「ねえ、あそこ見てよ」女の子が海面を指さす。「人魚が泳いでいるわ!」船長は苦笑し、そちらに視線をやり …

花火

君が花火を見たいというからふたり高台に登ったんだ。花火なんか見たくなかったけどじつはたくらみがあったから。君を花火を見る君を見たくて。君は浴衣姿裾が風になびくはず。夜空の花火は君の頬を照らすだろう。無邪気な横顔を七色に染め白痴みたいに手を…

影踏み

影はなんでも知っている。ひっそり隠れた耳たぶ。観察する切れ長の目。ほくそ笑む薄い唇。影を葬ることは誰にもできない。昼間どんなに明るくても影は皮膚の内側にも潜むから。「ほら、影を踏んだぞ!」息を切らして男の子が叫ぶ。「嘘よ。踏まれてないわ」…

冷たい雨の夜に

冷たい雨の夜に 君と もつれ合って階段を降りる 「脇腹にナイフが刺さっているわ」ふたり 思わず笑ってしまう 見えないはずの流れ星が 君のサングラスを 斜めに横切る 「願い事、かなったね」ふたり なんとなく黙ってしまう 遠く近い雷鳴 あれは 銃声に違い…

狐狩り

狐の姿が草原に現われた。犬どもが茂みから追い出したのだ。「逃がすな!」猟師が犬どもをけしかけ 六匹の犬が狐をとり囲んだ。狐の退路は断たれた。「お、お助けください」狐が人の声で喋った。猟師はもちろん、犬どもまで驚いた。裸の女が倒れていた。狐で…

ヒポポタマス

ヒポポタマスと並んで歩いてる。装甲車みたいに頑丈で大きなからだ。まったく惚れ惚れしてしまう。背中を叩いても、私の手が痛むだけだ。やさしく撫でたって、感じてもくれない。ヒポポタマスはいたって無口だ。話しかけても無視されることが多い。というか…