Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2015-04-01から1ヶ月間の記事一覧

野菜の路上販売

その町には商用で訪れたはずなのに なぜか故郷の町になっている。丁字路のような場所で野菜が売られている。スイカやカボチャ、長ネギや白菜など。舗装された路上だが、クルマが通る気配はない。一台の一輪車の上に大きなキャベツが一つ。 ところが、よく見…

そら君の冒険

長く寒かった冬が終わり、ようやく 北の大地にも待ちに待った春が訪れました。ぽかぽか暖かい日差しに心うきうき。はるさんちのそら君は冒険の旅に出かけるつもりです。夜ふかしはるさん、ただいまお昼寝中。今が旅立つチャンスです。苦労してこしらえた秘密…

台所の若妻

若妻が台所で 料理をしているまな板たたく 包丁の音の 心地良さ指を切って 赤く染まる 青野菜 なんて素敵な ドレッシング 魚を三枚におろす 錆びた釘抜き 骨が砕ける その痛々しい音響 カビの浮く味噌汁 泡立つ醤油 母親直伝 殺意を秘めた隠し味 若妻は初々…

夜の闇の記憶

夜の闇を恐れなくなったのは いつの頃からだったろう 太古から綿々と続く おぞましき体験の集積であろうか 形定まらぬ恐怖の対象が無数に蠢(うごめ)いていた あんなものがいるかもしれない こんなものがいそうな気がする そんな恐ろしいところに顔をさらした…

鯉のぼり

市立図書館の分館へ行く途中、無数の鯉のぼりが地元の川をさかのぼっていた。川下も川上も、遠く見えなくなるまで どこまでも錦鯉の群が続いていた。端午の節句が近いからではあるけれども いやはや、ご苦労なことである。いかにも川をさかのぼっているかの…

アニマル交響楽団

私は老いさらばえた指揮者である。長年、地元の交響楽団を指揮してきたが そこを引退してからは趣味で動物たちを指揮している。クマに楽器を演奏させるサーカスみたいなのではなく 持ち前の発音発声の特技を活かしてやるのだ。スズムシの鈴の音、ウグイスの…

卍の浴槽

家の中から彼の声がする。「窓が明るかったら入っていいよ」ところが、どこにも窓がないのだ。ただし、壁板の隙間から光が漏れている。これが窓であろうか。それで、そのまま家に入ってしまったのだが なぜか玄関を通り抜けた記憶はない。広くて薄暗い浴室に…

むく犬

ある夏のとある海水浴場。水着の蜜蜂たちとパラソルの花畑。海水浴と日光浴を楽しむ老若男女の群。「見てよ。こんなに焼けちゃった」「あらあら。真っ赤じゃないの」「紫外線が強いのね」ある浜茶屋の日陰に白い犬がしゃがんでいた。むく毛の大きな犬だった…

勝負のゆくえ

「負けるが勝ち」逆に言えば「勝つは負け」なんでもかんでも勝とうとするは愚かなり。見栄がそう。意地がそう。最初に勝って甘え、最終的に負けたりする。部分に勝とうとするあまり、全体で負けたりもする。だから、勝つばかりが能でない。負け方こそ上手な…

猫の魔法瓶

ある寒い冬の夜、ある交差点において 大型トラックの窓から魔法瓶が捨てられた。それを拾ったのはホームレスの乞食。魔法瓶が欲しかったのだ。乞食が栓を抜くと 魔法瓶の中から仔猫が出てきた。なんということはない。魔法瓶ごと捨て猫だったのだ。乞食には…

牛車がゆくよ

牛車(ぎっしゃ)がゆくよ ノロノロと すだれ下がった屋形の中にゃ やんごとなき姫君 おわします 平安の世の作法なれば 後ろから乗って 前より降りる これ知らずして 源義仲(みなもとのよしなか) 後ろから降りて 笑いものになったとか 牛飼童(うしかいわらわ)…

黄昏どき

黄昏(たそがれ)どきの庭に 女がいて そそりながら 立っている なぜなら太もも 見えそで見えぬ 汚れゆく空を 指さし 「落ちてきたの わたし」首を傾け えくぼ浮かべる その手招きに 誘われて 黄昏どきの庭に 下り立たば そこにはもう 誰もいない 元「koebu」…

兎の殺意

狼と犬と兎が 一緒に暮らしていました。狼は 兎を襲いたいのですが、犬が許しません。犬は 兎と遊びたいのですが、狼が邪魔をします。ある夜、こっそり兎が 狼に囁きました。「あの生意気な犬を 殺して欲しいの」すると兎は 狼に襲われてしまいました。傷つ…

明るい廃村

山奥の廃村は草木に埋もれていた。どこまでも明るく どこまでも静か。ああ、楽しい。ここは誰もいないから。汗に濡れた服は脱ぎ捨てよう。裸踊りしたってかまわない。のどかな風景、クルクルまわる。山も川も雲も、なにもかも。おや、あれはなんだろう? 視…

戦場へ赴く

戦場へ赴(おもむ)かねばならない。兵士として軍隊に組み込まれ 敵軍の兵士を殺すことを強いられる。殺さなければ逆に殺される。いとわしいことだ。銃で撃たれたり、爆弾に吹き飛ばされたらそれこそ死ぬほど痛いはず。正気ではいられない。正気の沙汰とも思え…

抱きしめたい

抱きしめたい ただし 彼女ではなく または 彼でもない 抱きしめたい あいにく あなたではなく ましてや 私自身でもない 抱きしめたい たまらなく 愛しい気持ち ひたすら 慈しみたいという欲望 抱きしめたい けれど 誰でもなく やはり どれでもない 元「koebu…

さびしがり屋

えーと、もしもし。あの、私、会員登録したばかりの者なんですが そちら、さびしがり屋さんですよね。話し相手になってくださる、と聞いたのですが・・・・ ああ、そうですか。良かった。助かりました。私、ひとりでいると、さびしくてさびしくて もう死にそうに…

ブランコのリフト

いくつものブランコが並んでゆっくり流れてくる。スキー場にあるリフトの列を連想させる。ただし、ここはスキー場ではない。山の斜面はないし、雪もない。ゆっくり移動するブランコの列を除けば ありふれた駅前広場である。どうも状況が呑み込めないものの …

Carnaval

美しき 孔雀(くじゃく)の尾羽(おばね) 颯爽(さっそう)と なびかせ 開き 悩ましく 踊るは Samba(サンバ)の Carnaval(カルナバル) 腰をくねらせ 胸ゆすり あふれんばかり 笑顔の下で サソリも毒蛇も 喰らうとか 元「koebu」yayaさんが演じてくださった! C…

涙が生まれる

それは あいまいなまま不意に 生まれそのわけはあとから 考える 願いが叶った時 叶わない時 苦労が報われた時 報われない時 一緒にいたい相手と会えた時 その相手と別れなければならない時こみあげてくるものにじむものその粒の数で その想いを量れはしない…

竜の正体

竜は どこにいるのでしょう? 快晴の空に 竜はいません。普段、竜は 小さくなって 雲の中に隠れています。隠れている雲が 大きくなって 黒くなると 竜の子も 大きくなって 大人の竜になります。風が強くなったら それは竜が吐く息です。雨が降ったら それは…

トラの毛

昔、トラの毛は 真っ黒でした。カラスの羽の色と いい勝負でした。「もっと明るい色に してください」トラは 神さまに お願いしました。すると 神さまは 断りました。「そんな願い、いちいち叶えていたら きりがない」けれども トラは 諦めません。いつまで…

増殖の始まり

君の指先が僕の胸に突き刺さり そのまま背中に突き抜ける。ここからでは見えない血のマニキュア。爬虫類を連想させる長い舌が傷口を這い 未熟な鳥肌に一枚ずつウロコを移植する。泡に包まれ、粘液を分泌しながら 足を絡ませるカタツムリ。君の無表情な複眼と…

夕暮れの気配

なんとなく目が覚めた。レースのカーテン越しの窓の外、ぼんやり薄暗い。夕暮れの気配である。(寝ながら考え事をして、そのまま眠ってしまったのだな)そう思った。(それとも眠ろうとしていて眠ったんだっけ?)どうもよく思い出せない。トイレに行き、キ…

玄関ドアの前

ドアチャイムが鳴ったので玄関へ向かう。普段なら「なんでしょうか?」とまず問うものだが この時はなぜかそのままドアを開けてしまう。玄関ドアの前、共用階段の踊り場に 貧相な顔の若い男が立っていた。彼はこのマンションの同じ住人。 だが、その名前がす…

クルマの運転

クルマに同乗している。視野いっぱいに道路が映っているので 助手席にでもいるのだろう。複雑な組み合わせの交差点では 対向車と衝突するのではないかと不安になる。それにしても運転手とは偉いものだ。しきりに感心する。運転手は若き日の親父のようである…

分担しよう

どうも恋愛が苦手だ。正直なところ、よくわからん。どこがわからんのかと言うと その面白さがわからん。恋愛を面白さで捉えてはいかんのかもしれんが 実際のところ、つまらんことは考えたくない。やはり気持ちは大事だ。その気なければ長続きしない。だから…

ひとり

咳をしても くしゃみをしても ひとり 鼻をかんでも あくびをしても ひとり 顔を洗っても 食事をしても ひとり ゲップをしても 屁をこいても ひとり 小便しても 糞しても ひとり 歯をみがいても 風呂に入っても ひとり 寝ても 起きても ひとり 笑っても 泣い…

重いもの

重い 重い 頭が重い 眠ればいいのに 考える 重い 重い 義理が重い やりたくないのに せにゃならん 重い 重い 愛が重い ほっときゃいいのに 気にかかる 「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださった!元「koebu」yayaさんが演じてくださった! Somethin…