Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2012-01-01から1ヶ月間の記事一覧

不釣合いな夢

一個のタイヤだけで一軒の家くらいもあるような 大きな大きな大型トラックには、夢がありました。(ああ。小さなオートバイの姿になって 好きなところを自由奔放に走りまわりたいな)大型トラックはあんまり図体が大き過ぎたので 石灰岩の採掘場から外に出る…

お菓子の家

わたしのおうちは、お菓子の家。「おなかすいちゃった!」板チョコの玄関ドアを食い破って バームクーヘンの居間に入ると クッキーのパパと ショートケーキのママ。「わあ、おいしそう!」わたしが両親のスネをかじり始めると 金平糖の犬を咥えたまま カリン…

浮気なキノコ

妻がとんでもない奇病を患った。夕飯の食卓で妻が文句を言う。「あなた。もっとおいしそうに食べてよ」おれのシメジの佃煮の食べ方に問題があるらしい。キノコの五目炊き込みご飯、ナメコの味噌汁、エリンギのメンマ、マッシュルームの卵炒め、シイタケのオ…

騒がしい

目を覚ましたら真夜中で、窓の外が騒がしい。「殺されるよー! 誰か助けてよー!」そんな老女の叫び声がする。またか、と思う。どこの家か特定できないが この近所の家では喧嘩が絶えない。ときどき物騒な怒声が聞こえる。たまに物の壊れる音もする。印象と…

戻れない

全員が渡り終えると、綱は切られた。吊り橋とともに敵の幾人かが奈落の底に落ちてゆく。「もう戻れない。我々は前に進むしかないのだ」崖に背を向け、長老は厳かに言った。だが、長老は一歩も進むことができなかった。深いしわが刻まれた顔をゆがめ、口から…

高そうな牛

ひとり田舎道を歩いていたら 向こうから一頭の牛がやってきた。大きな牛で、しかも金色に輝いている。思わず話しかけてしまった。「おまえ、高そうな牛だな」「ああ、わしは高いよ」なぜか牛が返事をした。「やっぱりな。なんせ黄金色だもんな」「しかし、あ…

やさしいゾウ

一頭のゾウが歩いていた。歩きながら足もとを見下ろしたゾウは アリが地面にいるのに気づいた。(アリを踏んだら、かわいそう)やさしいゾウは足の下ろす位置を変えることにした。すると、そこにカタツムリがいるのに気づいた。(カタツムリを踏んだら、かわ…

遊びの極意

老犬が猫のところにやって来た。「わしに遊びの極意を教えてくれんかの」猫は日向ぼっこをしていた。「さてね。これでなかなか 遊びというのは奥が深くてね」老犬は猫の隣に座った。「わしは番犬を長年やっておってな、 つくづくいやんなっちまった」猫はあ…

踊れや踊れ

おれは踊りに夢中になっていた。こんなに盆踊りが楽しいものとは知らなかった。笛や太鼓の音に合わせ、体が軽々と動く。(これなら毎年踊るんだったな)今さら後悔しきり。なぜか今年、踊る人数がやたらと多い。毎年、青年団とか少数の踊る阿呆が櫓(やぐら)…

遥かなる空

私は囚人。今、独房の中にいる。昔から囚人で、これからも囚人だろう。どんな罪を犯したのか、もう忘れてしまった。独房は殺風景な部屋。寝台があり、便器があるばかり。唯一の扉には監視窓と受け渡し口がある。定期的に監視され、飲食物を手渡される。扉の…

目覚めの季節

春になって気候も暖かくなった。すると、冬眠から覚めたばかりの蛇が彼女の腹からウジャウジャ這い出てきた。「うわーっ! 凄いね、これ。何匹いるの?」そんな無邪気な質問に答える余裕などない。爬虫類ぎらいの俺はテーブルの上にあわてて避難した。「おい…

流れ星

ぼんやり夜空を見上げていたら 天の川が流れていることに気づいた。本物の川の水のように 星が天の川を流れているのが見えるのだ。「大変! 銀河系が狂っちゃった」天の川は銀河系内の星の集団。北斗七星やオリオン座など 銀河系外の星は所定の位置から動い…

お使いの帰り

お使いの帰りに寄り道してすっかり遅くなってしまった。母さんから頼まれたお使いは隣の村の本家の家まで行って約束のものを預かって戻ること。その約束のものは風呂敷に包まれてるから決して中を覗いてはいけないよ、とのこと。そんなこと言われたら絶対に…

お昼寝

お昼寝をしていたらあたりが真っ青になってお部屋の窓を開けたらおうちが空を飛んでいたのであたしはびっくりしてよろめいたり転がったりしながらなんとか玄関まで歩いてとびらを開いてみたら庭に変なおじさんがいて変なダンスをおどっていたのであたしはこ…

スクーター少女

彼女は 駆け抜ける さわやかな 一陣の風 小さくて渋いヘルメットの端から 脱色した長い縮れ髪を垂らして スクーターを乗りまわす少女がいる。その凛々(りり)しい姿を目撃してスクーターになりたがる大馬鹿野郎も多い。しかしながら君たち、考えが甘い。彼女…

クラリオン星の友人

クラリオン星の友人が地球にやって来た。「やあ。久しぶり」「会いたかったよ。元気そうだね」クラリオン星は五次元世界の惑星なのだそうだ。太陽を挟んで地球と点対称の独立した軌道をとっている。 太陽が邪魔して、地球から見ることはできない。クラリオン…

暖簾のある歯医者

「ごめんください」「へい。いらっしゃい」「歯の治療を受けたいのですが」「こちら、カウンター席にどうぞ」「あの、もしかして、ここ、寿司屋ですか?」「まさか。ご冗談を」「歯医者さんですよね」「見てわかりませんか?」「ええ。ちょっと、あんまり」…

おしまい

おしまいだった。突然、なんの前触れもなく 終わってしまった。「なんだなんだ?」「いったい、どうなってんの?」皆の混乱と動揺が伝わってくる。それはそうであろう。無理もない。「この先は?」「続きがあるはずだ」ところが、先もなければ続きもないのだ…

手をつないで

ひとりでは怖いけど ふたりなら、そんなに怖くない。僕たちは互いに手と手をつなぎ、一緒に森の奥へ奥へと分け入ったのだ。昼なお暗き魔物の棲み家。夜こそ深き謎の迷宮。数々の冒険の末 僕たちは伝説の光る石を見つけた。でも、その石はひとつだけ。それを…

きっと届く

今は授業中。君は僕の目の前に座っている。その愛しき背中。この席を確保するために僕がどれほど苦労したか 君は知っているだろうか。(君のすぐ後ろの席に座りたい)(君のすぐ後ろの席に座りたい)(君のすぐ後ろの席に座りたい)必至に繰り返せば、想いは…

さわやかな目覚め

長い長いコールドスリープから目覚めると 人類は絶滅していた。「あなたが現存する最後の人間です」自動制御の介護ロボットが親切に教えてくれた。空気は悪くない。出された食事にも不満はない。「どうして絶滅したんだ?」「種の寿命だそうです」老衰のよう…

ガラスの宮殿

ガラスの宮殿のお姫様から使者がやってまいりました。「レンガの宮殿の王子様へ申し上げます。 今宵、ガラスの宮殿で行われます舞踏会に ぜひともお越しくださいませ」レンガの宮殿の王子様は使者に言われました。「それはそれは、大変に名誉なお話でござい…

洞窟の十字架

ほんの宝探しごっこのつもりだった。 そんなふうに冒険したい年頃だったのだ。 近所の山の崖崩れがあったみたいなところに 洞窟の穴があった。 その入り口は鉄の扉で塞がれていた。 丈夫そうな錠前も掛かってはいたが 扉の蝶番は錆びて壊れていた。 というか…

異常事態

けたたましく警報が鳴った。続いて、自動アナウンスの声。「この宇宙船は、まもなく爆発します。脱出してください」避難ボートの乗船ゲートに殺到する船員たち。「性別不問。若い順に乗れ!」船長の怒鳴り声がする。避難ボートの定員は乗船者の半数にも満た…

大道芸人

その大道芸人は道端に寝転んでいた。なんの芸も見せていなかった。「おい。なんかやって見せろよ」餓鬼大将のポン次が命令した。寝ていた芸人は片目だけ開け、おれたちを見上げた。「銭はあるか?」「銭なんかねえが、牛ガエルならあるぞ」おれは、後ろ足が…

ほのかな希望

ついに限界に達してしまった。とうとう万策尽きてしまった。エネルギーも食糧も 供給が需要に追いつかなくなった。掘れる地下資源は掘り尽くし 使えるエネルギーは使い尽くしている。喰える食糧も喰い尽くし すでに人肉まで食べ始めている。「ねえ、ママ」「…

モンゴルの馬賊

「遥かなる大平原が見えます」おれには怪しげな身なりの女が見える。「あなたの前世は」その占い師は言うのだった。「モンゴルの馬賊です」「なるほど。モンゴルの馬賊か」「そうです。モンゴルの馬賊です」「すると、そのモンゴルの馬賊の」「そのモンゴル…

やってられない

些細なことから彼女と喧嘩してしまった。「もう、やってられないわ!」そう言いながらベッドから降り立つと 彼女は右耳から下がるイヤリングに指をかけた。そして、それをエイっと引き下げると 彼女の裸身の右側面の皮膚がジジジジジと裂けた。(なんだなん…

ご要望は?

部屋の窓から水平線と地平線が見える。海と草原と山と湖と滝と池だって見える。さらに空には虹とオーロラまで。「どうだい、ここは?」おれはフィアンセに尋ねる。「そうね。なかなか悪くないわね」彼女、あまり嬉しそうじゃない。「なにか不満ある?」「ま…