Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2011-01-01から1ヶ月間の記事一覧

断絶

世界は、意識である。意識されなければ、世界はない。世界は、現実ではない。意識された現実は、すでに現実ではない。現実は、表現である。表現されなければ、現実はない。現実は、世界ではない。表現された世界は、すでに世界ではない。つくねさんが演じて…

砂時計

これは祖父の遺品のひとつなの。石の中に埋め込まれた砂時計。ほら、貝の化石も一緒に埋まってる。今、最後の砂が下に落ちたところ。「それじゃ、また明日ね」彼との電話を切る。その時間だから。ほんの少ししか話せなかった。でも、やっぱり切る時間だな、…

証明

現実が想像の世界であることの証明。まず、現実が想像の世界でないと仮定する。すると、非想像世界を想像することになる。つまり、これは空想である。次に、現実が想像の世界であると仮定する。すると、想像世界を想像することになる。つまり、これは認識で…

戦車

あたたかな日差し、おだやかな空。小鳥さえずり、兎がピョンと跳ねる。そよ風に菜の花がのんびり揺れている。絵のような、のどかな春の田園風景。それらを無視して、戦車が進んでゆく。厳しい装甲板と砲塔。威圧する砲身。巨大な鋼鉄の芋虫が、不気味に地を…

空き缶

砂浜の波打ち際朽ちた流木のすぐ近く陸に寄せる波に押し上げられたり海に戻る波に引き下げられたりそれが気持ちよくてやめられず他人の視線など気にする余裕もなく笑ったり叫んだりしながら繰り返し繰り返し繰り返し心ない人に捨てられた空き缶みたいにいつ…

笑い話

よくできた笑い話である。それを聞いて笑わぬ者はいない。愚かな者も賢い者も笑い出す。子供も老人も一緒に笑う。男だろうが女だろうが、みんな笑う。いくら聞いても笑ってしまう。ついつい思い出して笑ってしまう。おかしくて仕事なんか手につかない。産業…

遊びの輪

ひとりぼっち昼休みの校庭のすみっこでなまいきな男の子たちかわいい女の子たちがつくるにぎやかな色のおもしろそうな形の遊びの輪を校舎の壁にもたれてポツンと眺めてた。楽しそうだった。なにが楽しいのかよくわからなかったけど楽しそうだった。ぼくが近…

ノラ娘

「おとなり、息子さんがいたでしょ?」「ええ、タカシ君だっけ」「昨日、ノラ娘に襲われたんですって」「まあ、怖い」「お尻を噛まれたらしいの」「それだけで済んだの?」「教えてくれないの。恥ずかしいんでしょ」「最近、多いわね。ノラ娘の被害」「だっ…

歩道の哲人

とある朝、駅から会社への出勤途中でのこと。上半身裸の男が歩道にあぐらをかいて座っていた。ボサボサの長髪、垢だらけの日焼けした背中。いわゆる「浮浪者」に違いない、と思った。広いとは言え、わざわざ歩道の真ん中。通勤通学の人通りが激しいというの…

古い校舎

僕が通った小学校は木造二階建ての古い校舎。その端の一階に音楽室、その真上に図書室があった。図書係をやっていた僕。その日、当番だったので遅くまで図書室にひとり残っていた。いつの間にか窓の外はすっかり暗くなっていた。もう帰るつもりで本を本棚に…

剣の舞

よく斬れる剣であった。竹や木など、風のように斬る。岩や骨なら、水のように斬る。そんな剣が舞い始めた。畜生も大臣も、おかまいなし。首がとび、血潮がはねる。森は荒野、街は屠殺場となる。「この世に切れぬものなし」舞いながら、剣は豪語する。「いや…

秘密の隠れ家

雑木林を抜けると、広場があった。近所の子どもたちの遊び場だった。寺の裏山なので、墓地から続く道もあった。この広場の端に家を建てた。丸太や枯れ枝で組んだ掘っ立て小屋だった。ささやかな秘密の隠れ家なのであった。あの夏の日、にわか雨が降り出した…

使者の踊り

隣国との間に戦争が続いていた。永遠のように長い戦争であった。その隣国から、使者がやってきた。美しい瞳の小柄な少女だった。国王謁見の席で、使者の口上。「踊り終わる時、ついに平和ぞ訪れん」そのまま使者は、静かに踊り始めた。それは素晴らしい踊り…

貯水池の鴨

信濃川のすぐ近く 水力発電所の貯水池に鴨(かも)の群があった。適当な間隔を置いて水面に浮かんでいる。少なくとも一千羽はいるものと思われた。私は欄干(らんかん)にもたれ、鴨の群を眺めていた。やがて、灰色の空から雪が降ってきた。持参の折りたたみ傘を…

完全犯罪

ある男がある女を殺した。死んだ女は人類最後の女性。人工出産の技術は、まだ確立してない。やがて人類は絶滅するしかない。人類史上最悪の犯罪であった。しかも完全犯罪。殺したのは人類最後の男性。この男を裁く者はいない。「ゆっくり生きる」haruさんが…

トンネルと自転車

まだ少年だった頃、自転車で砂利の坂道を下るのが好きだった。車軸潰しの激しい振動がたまらなかった。急カーブでもブレーキは使いたくなかった。それが自分で決めたルールだった。いつ転んでもおかしくなかった。あの日も自転車に乗っていた。坂道を上るの…

くすぐり魔

靴音が信じられないくらい大きく響く。街灯もまばらな暗く寂しい新月の夜道。若い娘がひとり通るには危険な場所だった。角を曲がったところで抱きしめられた。闇に隠れ、待ち伏せていたのだ。悲鳴をあげる暇も与えられなかった。脇腹に潜り込む指先、その素…

竹やぶ

近所の神社を囲むように竹やぶがある。市の保護指定を受けているだけあって さすがに並の竹やぶではない。竹の柵に続いて、竹で組まれた門がある。そこから中に入ると、別世界が広がる。雑木林と違い、寒いくらい静かだ。重なり合った細い葉で日光が濾過され…

百人の軍隊

どこにも敵はいないのだった。のどかな小さな村があるばかり。そよ風とうららかな日差しがふさわしかった。それでも、なぜか軍隊があるのだった。百人の兵士と十台の戦車を有するなかなかたいした軍隊であった。ところが、敵がいないのだった。どうにも格好…

洗礼の雨

大事な試合に負け、その帰り道。体がだるく、とにかく疲れていた。頭痛もひどかった。それにしても情けない試合だった。(くそっ!) 自己嫌悪で気が滅入る。出るのは溜息ばかり。見上げると、空模様まであやしい。ポツリ。冷たいものが額に当たった。手にも…

真夜中の電話

真夜中に電話の音で起こされた。暗かった。寝ぼけていた。ありもしない目覚まし時計を探した。なにやらガラスが割れた。手を切ってしまったらしい。ぬるりとしたものを手のひらに感じた。起き上がってみた。なにかに頭をぶつけた。ひどく痛かった。地団駄を…

山頂の城跡

少年時代の終わりの夏だった。ひとり、城跡へと続く山道を歩いていた。城跡と言っても、山頂には形跡すらない。立て札がなければ誰も気づかないだろう。山頂に着いたら裸になるつもりだった。きっと素晴らしい解放感だろう。山菜採りの季節でもなければ人は…

いやな女

ねえ、あんた。そう、あんたよ。あら、逃げなくたっていいじゃない。ホント、臆病なんだから、もう。そう、あんたに話があるの。別にたいしたことじゃないのよ。あんた、あたしのこと好きでしょ?なにキョロキョロしてんのよ。意気地がないんだから、ホント…

サーカス

昔 サーカスが町にやってきた 大きなポスターが 町中に貼られ 大きなテントが 丘の上の公園に張られ にぎやかな音楽が あちらこちらに響いて トラの火の輪くぐり お姉さんの空中ブランコ 巨大鉄球内を走りまわるオートバイ ゾウはいたのだろうか 体の柔らか…

反射

おれがやったんじゃねえ。信じてくれよ。いや。全然おれがやってねえ、とは言わねえ。やったのはおれだが、やるつもりはなかった。このおれのからだが勝手にやったんだ。つまり、その、反射みたいなやつだな。ほれ。膝をたたくと足が上がるじゃねえか。あれ…

高原の花火

深夜、こっそり家を抜け出た。中学の同級生数人と待ち合わせ みんなで地元の高原に登った。仲間のひとりが見慣れぬ避妊具を持っていた。夜の高原で女の子に出会うかもしれない。そんなことを想像していたらしい。高原へ続く真っ暗な山道は、当然ながら 女の…

退屈

突然、同居人が叫ぶ。「ああ、退屈で退屈で退屈で 人殺しでもしなければ脳が腐りそうだ!」もう、手遅れかもしれない、と私は思う。確認しておく必要があった。「想像では不満なの?」「だめだ。全然だめだ。想像では罪を感じない」「想像力が不十分なのでは…

遊園地の姉妹

まだ上京したばかりの頃、週に土日の二日間だけ 浅草の遊園地「花やしき」でアルバイトをしていた。その日は「バスケットボール」の担当だった。三個のボールをゴールに投げ込むと ゴールした数により賞品がもらえる。あまり人気のないコーナーだった。幼い…

エリコちゃん

エリコちゃんがスケッチブックにエリコちゃんの絵を上手にかきました。クレヨンでかいたエリコちゃんの自画像。ママの手鏡を見ながら苦労してかいたのでとてもかわいらしい女の子にかけました。それなのに、それをかいたエリコちゃんはあまりうれしくないの…

ラジオ体操の聖火

小学生にとって楽しいはずの夏休みの日々はつまらないラジオ体操から始まるのだった。朝早く起こされ、近所の広場に集められ ラジオから流れる演奏と掛け声にあわせ 体を動かして、なにが楽しいのか。カードにスタンプもらって、なにが嬉しいのか。それはと…