Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2016-07-01から1ヶ月間の記事一覧

優しさ比べ

お寺か神社の境内のような庭で 顔見知りの女性が歓声をあげている。たき火であろうか、煙立ちのぼるその上に 若い男が傘を開いてかざし、彼女に何かささやく。嘘っぽいがいかにも優しげな言葉。それに対抗してスコップらしき大きな道具をかざし こちらも嘘っ…

不快な演奏

最初、パソコンのキーボードを叩いていた。ところが、途中から楽器のキーボードに変わった。電子ピアノの音がして、ちょっとした即興演奏。良くもないが悪くもないな、という感じ。そうこうするうち、ふと気づく。目の前の舞台の上で奥の壁を叩く者がいた。…

なんだか予感

なんだかザワザワする。田舎の幼馴染の友人のお母さんに呼ばれて 彼の家へ行ったのだ。その前に別の友人から絵のようなロゴのようなものを描いてくれと頼まれてもいた。 それがなんなのか電話ではよく聞き取れなくて なかなか作業がはかどらない。どうも江戸…

呪いのタピオカ

新宿のパセラというカラオケ店でオフ会があった。そこで熱唱のあまり、アサギちゃんがテーブルの上の飲み物のグラスを倒してしまった。中身のタピオカ入りミルクティーがテーブルにぶちまけられ、床にもこぼれ落ちた。おしぼりでふき取りながらタピオカを指…

豆腐女

あー、そうだよ。あたしゃ豆腐女だよ。珍しくもない大豆の加工品さ。「肌が白いですね」とはよく言われる。他に褒めるところないんだろうね。トチ狂って角に頭をぶつけてくる奴がいる。本気で死ぬ気ないんだろうね。ふん。なめられたもんだよ。芸のない形で…

現場の方針

ここは工事現場。工場内にいるような印象もあるから あるいは工場そのものを建造中かもしれない。ともかく、とてつもなく巨大なものを 大勢の作業員が協力しながら築いている。そこにトラックが入ってきた。床に散らばる機材を避けながら 見事に侵入し、搬入…

映画の撮影

そこそこ大きな建物の中に入る。ここで映画の撮影が行われる予定。そのように認識している。不意に背後で爆発音。監督の合図もなしに唐突に襲撃が始まった。人間離れした姿の集団が玄関の前に現れる。ドアやガラス窓が派手に破壊される。武器を使ったド派手…

したかったこと

彼または彼女が 線を引いている。白地に 黒く細い線を。黙ったまま なんの説明もなく 繰り返し 執拗なまでに 線を引いている。きっと そうせねばならない理由があるのだろう。そして その線の重なりによって 形が生まれようとしている。私またはあなたにはわ…

エレキの大将

彼はエレキギターの演奏が上手だ。飲み屋かどこかで異国の女性客におだてられ 猛烈な勢いでジャカジャカやりだす。そのスピードたるや大したもの。摩擦のためか、指の周囲に火花が散る。いくらなんでも危険であろう。火花は虹のように彼の背中にまで広がる。…

どら焼きの半分

幅広の廊下のような細長い部屋がある。いや実際、そこは廊下かもしれない。どら焼きを半分に切ったようなコタツが置かれ 円周部分に大勢の知人縁者が座っている。切り取った部分が通路になっているためか 直線側の板目の床にはまだ誰も座っていない。なにや…

思い上がり

どこぞの会社の会議室。数人の男女がテーブルを囲んで討論している。会議のようでもあり、研修のようでもある。「あの資料を見せてくれ」すぐ隣の若い男が催促する。いかにも頭が切れそうな面構え。また、それを当然とするような態度。それと思われる資料を…

靴音の響き

友人と一緒に逃げている。工場か学校のような大きな建物の中。遠くから靴音が響く。おれは弱気になっている。「諦めよう。そも逃げる必要なんかない。 仮に必要あるとしても、いずれ捕まるよ」靴音が近づいてくる。おあつらえ向きな出入り口を発見。そこから…

タンポポの風船

タンポポの花が咲いている。毬のように丸い 一輪の白い球体。これに唇を近づけ 女の子をからかうみたいに そっと息を吹きかけてみる。すると ボワッと膨らんだ。びっくりした。よくわからなかったので もう一度 白い花に息を吹きかける。ストローなしでシャ…

バスの窓から

市営プールからの帰りであったか 歩道を歩いていたら呼び止められた。「おーい、おーい、おーい」なんとなく聞き覚えのある声。振り向くとそこにバスあって、その窓から 卒業した高校の元同級生の男が手を振っている。車道は渋滞しており、徐行するバスと並…

インチキな人

僕にはそいつがとてもインチキな人のように思えるのだ。なにやら書類にはいろいろ書かれてあって 要するに、そいつに関する個人情報が載っている。自己申告の履歴書のようなものだ。絵というかマンガにすら見える写真が貼ってある。そいつは愛想よく、いつも…

対局の観戦

将棋のプロ棋戦が行われている。それを観戦しているところ。視界全体が白黒なのは古い実況中継の録画であろうか。対戦している一人、眼鏡をかけた中年棋士が なにやら不審な動作を始める。こちらは彼の背中が見える位置なので 実際なにをしているのか把握す…

助けるなかれ

老人、病人、貧乏人。弱者、愚者、非正規雇用労働者。弱者保護政策は結果的に全体における弱者の割合を増やす。弱者を保護せねばならないために 弱者ならぬ者が負担を強いられるから。上から押しつぶされるように ピラミッド構造の底辺が広がる。一律の義務…

水まきシャワー

目的は忘れたが、ビルの一階に入った。探索していると、店員にみとがめられた。「お客様、どういたしましたか?」「探しているが、見つからなくて困るんだ」店員はどこかへ行き、店長らしき男が現れる。うまく説明できない問答がしばらく続く。疲れて諦めか…

スルメの介錯

江戸時代のようである。ある武家屋敷において、親子であろう 老いた武士と壮年の武士とが向き合っている。 密談であろうか、ふたりとも深刻な表情。かくいう拙者も つい先ほどまでその密談に加わっていた。 途中で用事をことづけられ 意を察して、その場から…

地下室の惨劇 Ⅱ

青い空 青い空 青い空 青い空 青い空 青い空 丸い 太陽 白い雲 白い雲 鳥 「いい天気だわ」 「絵のような空だね」 「ここはどこ?」 出 「出入り口があるよ」 入 り 口 「階段ね」 屋上屋上屋上屋上屋上屋上 「ここを下りるのさ」 階段 階段 「かなり急な階…

乙女の唐揚げ

乙女の唐揚げ 世は情け 雨はハチミツ ダラダラと 心空虚な ドーナツが バームクーヘンに 恋をした そう まるで 薄皮パンの ヘルニアね それとも シュークリームの脱皮かな または 溺れた水ようかん あら いやだわ 頭の中が お菓子畑の謝肉祭 グルテンは 控え…

呪いの手紙

拝啓 初めまして あるいは初めてではないのかもしれませんがともかく、このような不躾(ぶしつけ)な手紙、失礼いたします。もう読み始めてしまいましたね。ああ、かわいそう。かわいそうなあなた。そう、あなたです。この手紙を読んでいらっしゃる、あなた…

ほどほどの健康

健康のために歩く老人が目につく。たしかに健康にはなろう。いくらか寿命は延びよう。しかしながら、いかがなものか。歩きたいなら、歩けばいい。歩きたくないなら、歩くまでもない。老いて具合の悪くなるは自然の節理。新陳代謝によって垢の出る如し。流れ…

口笛の帆船

それは食パンで作られた帆船模型のようである。なかなかおいしそうによくできている。しかし、これを作るためには 口笛の音を犠牲にしなければならなかった。ここは口笛の国。この国において口笛を吹けない状況とは ほとんど言葉が通じないほどの意味がある…

おせっかい

余計な事は せぬ事 させぬ事 その場しのぎの 親切を 安易に 良かれと するなかれ まったくもって ありがた迷惑 おせっかい と言うものだ 甘やかせては つけあがらせて 今が良くても あと大変 自力救済 自業自得 薬が毒で 毒こそ薬 さして悪くも なかりせば …

いずこへともなく

バスのターミナルか駅のホームのよう。 大勢の人たちでひしめき合っている。 私はバッグを持ち、それを持ち替えるためか 飲みかけのココアでも入った缶を床に置く。 缶を置いた場所は若い女のすぐ後ろの足もと。 目を離したすきに女の荷物が覆いかぶさり そ…

ドーワ

僕は家の中、二階の部屋にいる。 留守番をしているのだろう。 ついさっきまで家族がいたはずなのに どこかへ出かけてしまったようだ。 「ドーワ」 階下から男の声がした。 ずっと起きていた気もするが、あるいは その声で昼寝から目覚めたのかもしれない。 …

狂いかけのラジオ

その老人は上司のようなお客なのだった。おそらく、かつて勤めていた会社の上司だったところの今はこの店のお客なのだろう。お客か一般社員か店長かもしれない私は さような彼と伝統的なボードゲームを始めるつもり。さて、いざ対戦する段になって、ゲーム盤…

廃墟マニア

廃墟が好きなわけではない。そも不潔で不便で危険だ。廃墟にまつわるいかがわしさ、背景や謎を想像するのが楽しいだけ。発掘されたばかりの古代遺跡でも なんとなれば殺人現場でもかまわない。貧民窟、自殺の名所、心霊スポットなど 平穏な日常から隔絶され…

だまされている

君たちはだまされている。 こう言われて君は、そうだろうか と思ったのではないかな。 あるいは、そんなことはない と思ったかもしれない。 または、そうかもしれない なんて思ったり。 いずれにせよ、君は思った。 こう言われたために、君はそう思った。 つ…