Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

鹿の肉

冬山に銃声がとどろいた。猟師が鹿を撃ったのだ。ところが、じつに奇妙なのだ。倒れていたのは鹿ではなかった。鹿の皮衣を着た若い女なのだった。猟師は途方に暮れてしまった。どうすればいいかわからない。とりあえず女を担いで自宅に戻った。独り者なので…

高みの見物

高みの見物しておられる方々を こうして低みから見物しておりますと どんなに偉そうなこと いくら申しておりましても 地に足ついていらっしゃらないの よくわかります。元「koebu」宏美(ろみりん)さんが演じてくださった!「Spoon」しんさんが演じてくださ…

大人の遊園地

「ねえ。ちょっと遊んでいかない?」見知らぬ美女に誘われた。遊んでもいいかな、と思った。入場料はとても高かった。それでもいいや、なんて思った。世にも不思議な大人の遊園地。子どもは入場禁止なのだった。脱衣所で裸になり、そのまま鏡の迷路に入る。…

殺す理由

「殺して欲しいの」かわいい顔して彼女がささやく。「お願い。私を殺して」だから、殺してしまった。彼女は死んでからも美しかった。窓から風が吹き込む。このままにしておけない。とりあえず死体を片づけなければ。裏庭に穴を掘り、そこへ彼女の死体を埋め…

目には歯を

一瞬、ものすごい美人だと思った。視線が合い、それを剥がすのに苦労した。位置を変え、再び彼女を盗み見た。ところが、なんだかおかしいのだ。美人じゃない。普通以下かもしれない。今度は別の女性と目が合った。今度こそ、ものすごい美人だと思った。さっ…

地の果ての壁

旅果ての地は、壁の前だった。かすむほどの長さ、めまいするほどの高さ。おそらく鳥でさえ越えられないだろう。こんなもの、いったい誰が築いたのか。拳で壁を叩いたら、ため息が出た。地面を叩くような感触だったからだ。さて、どうしよう。諦めて帰るしか…

コテ茶

なつかしい叔父(おじ)から小包が届いた。叔父は遠い外国で暮らしている。貿易商なのに冒険家のつもりなのだ。小包の中には手紙と異国風の布袋が入っていた。手紙は短かった。「コテ茶だよ。煎(せん)じて飲んでも知らないよ」これだけ。いかにも変人の叔父ら…

桃色の温泉

どうやら温泉のようである。あたりは桃色の湯煙に包まれている。脱いだ記憶はないが裸であった。水音のする方向へ進んでゆく。慎重に歩かなければならなかった。足もとがヌルヌルしているので滑りやすいのだ。やがて桃色の川が見えてきた。川面には船が浮か…

工場地帯

「休むのは自由だが、今月は休むな」「ああ、休む予定はねえよ」「売り上げが足らねえんだからな」「ああ、わかってるって」俺は背を向ける。(ふん。死ぬのも自由だがな)この上司は中学の同級生だった。彼と別れ、工場を出る。やがて、レンガ橋を渡る。古…

マリコちゃん

マリコちゃんが踊っています。上手なのか下手なのかよくわかりません。とにかく踊るのが楽しくて仕方ないみたい。そんなマリコちゃんを眺めている人がいます。椅子に座っているおじいさんです。眺めているのが楽しくてたまらないみたい。そのおじいさんがお…

古本屋

帰宅の途中、古本屋をのぞく。外国語の文法に関する本を探していたのだ。ところが、その古本屋の軒下にある入り口は細かな仕切りのある棚で塞がれていた。それは本棚ではなかった。細長いスプリングやピン、またはネジのようなものが並んでいる。それらを指…

おもちゃの恐竜

友だちの家に遊びに行った。おもちゃの恐竜を見せてもらった。手のひらサイズ、柔らかなゴム製。のそのそ歩いたり、ジャンプしたりする。濡れたものや温かなものが近くにあると 口をすぼめて突いたりもする。指先を舐めて試してみたら キツツキみたいに激し…

ナメクジの小川

しゃがんだまま氷の塊に乗り、人通りの多い商店街を滑ってゆく。ミニスカートのお姉さんばかりが十数人ほどパチンコ店の前に立ち並んでいる。ハイヒールの根を持つ美脚の林を低く縫うように通り抜けながら私はしきりに首をひねる。(なんだろう? 客寄せイベ…

ウサギとタヌキ

あんまりウサギの耳が長いから なんだかタヌキは困ってしまう。「ウサギさん、ぼくの鼓動が聞こえますか?」その長い耳を折りながら ウサギは恥ずかしそうにうなずく。「ええ、大きな音がするわ。 それに・・・・」「他にも聞こえるのですか?」「ええ。ネズミの…

双子の姉妹

「やめて。いけないわ」闇の中で彼女はささやく。「私には双子の妹がいるのよ」ほら、彼女の言い訳が始まった。「その存在を痛いほど感じるの」会ったことさえないくせに。「その妹のことが心配なのよ」彼女の両親は否定しているが。「だから私に触らないで…

恐るべき姉妹

冷酷無比の姉 神をも恐れず 十字架 突き刺す怪力無双の妹 罰当たりにも 仏像 振りまわす神も仏も ないけれど 美人姉妹なら 許そうぞ 元「koebu」yayaさんが演じてくださった! Terrifying SistersThe older sister Who is ruthless Pierces the cross Withou…

大人の嘆き

カワイイなら底浅く カッコイイのは上っ面 無闇な元気は疲れるし 意味ない明るさ 白けちゃう 酸いも甘いも噛み分けた 大人の魅力 今いずこ 元「koebu」舞坂うさもさんが演じてくださった! Adult LamentationIf it's cute The bottom is shallow The cool th…

夢の夢

ゆめゆめ夢よ夢の夢夢見る頃に夢はなく夢ある頃に夢を見ず夢なら覚めよ覚めぬ夢 「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!元「koebu」神之夜行さんが演じてくださった! Dream in DreamDream dream dream Dream in dreamWhen I dream I have no d…

塞がれた唇

唇を塞がれて とても敵わぬ力で 暗い闇の底に組み伏せられ いやらしく抱きしめられ 苦しくて呻くしかなく なにか禍々しいもの 理不尽なものが 喉の奥へ侵入しようと 体の中に潜り込もうと その気配だけで もう息も絶え絶えに 抵抗もできぬまま やがて占領さ…

助けて!

「助けて!」密かに好意を寄せる女性にそんなこと言われたら どんな状況であれ無視できるはずがない。俺は彼女に手を伸ばす。「大丈夫。もう少しだ」彼女は、氷に覆われた岩壁に必死でへばりついている。つまり、我々は登山の最中であり 非常に厳しい状況に…

帰らぬ人

彼は帰宅恐怖症。家に近づくと動悸がする。家の明かり見えると冷や汗が出る。「あなた、おかえりなさい」やさしい妻の笑顔。「お父さん、おかえりなさい」元気な娘の笑顔。「・・・・ただいま」なのに彼は笑顔を作れない。妻と娘を恐れている。ふたりとも足がな…

猫の陽だまり

近所に棲(す)んでる ろくでもないノラ猫どもが 空き地とか 裏庭とか軒下(のきした)とか あっちこっちから せっせと掻(か)き集めて 毛繕(けづくろ)いしながら こしらえたような 猫の額みたいに 小さな陽だまり 元「koebu」とうぷさんが演じてくださった! Cat…

虹の橋

追いかけても 追いかけても 虹の橋は 遠く求めても 求めても 君の愛は 遠い 「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!元「koebu」yayaさんが演じてくださった! Rainbow BridgeEven if I chaseEven if I chaseRainbow bridge is farEven if I ask…

おもちゃ

わたしはおもちゃ 遊んでもらうためにつくられた わたしを使ってたのしんで なんでもいいの どうでもいいの 見つめられたらほほえむわ さわられたら感じちゃう こわれるくらいはげしくね よろこんでもらえたらうれしいわ ねえ 教えて どんなことするの あん…

海の男

おいら船乗り、 海の男よ。「女に溺れるくらいなら 海に溺れるぜ」 なんてね。ああ、 いまさら港にゃ 戻れない。 元「koebu」べーa.k.aびーさんが演じてくださった! The Man of the SeaI am a sailor,It is a man of the sea."If I drown in a woman, I wil…

村娘

おらの村の 娘っこ 野を越え 山越え 帯をゆらして 駆けてゆく 髪をなびかせ 村娘 おべべの裾が はだけたか 猟師の罠には 気をつけな 毒蛇の牙は 抜いちまえ 村一番の 長者の蔵には 米俵 村一番の 娘の胸には 白い餅 食べたかろうて 頬張ってみ 毒味はいらん…

時の手紙

読むものすべて 来(こ)し方(かた)の手紙書くものすべて 行(ゆ)く末(すえ)の手紙さてさて 誰が読むやら 読まぬやら 元「koebu」とうぷさんが演じてくださった! Time LetterEverything you read Letters from the pastEverything you write Letters to the fu…

Come on!

「頑張れ!」と 人は気安く言うけれど なんの権限あって そげな大それた 偉そな事 差し出がましくも いみじくも おっしゃいますやら 今朝は雨 元「koebu」Robin247さんが演じてくださった! Come on!"Come on!" You say at easeWith any authority Do you sp…

武装警官

とある映画館で話題の新作を観ていた。水深が膝くらいしかない浅いプールで裸の若い男女のグループが戯れている。そこへ武装警官らしき軍団が現われ、若者たちを裸のまま拘束してしまう。そして、手袋をしたまま体を撫でまわす。「ほれほれ、どうだ、どうだ…

きこり

森のはずれ、切り株に腰をかけきこりが休んでいました。そこへ、木の実を抱えてリスがやってきました。「きこりさん、お食事はすみましたか?」「いいえ、リスさん。まだですが」「それでは、木の実を食べてくださいな」いくつか木の実を地面に置くとそのま…