Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ふざけるな

街を歩いていたら、因縁をつけられた。目つきの悪い奴で、性格も悪かった。「なんだ、その曲がった鼻は。ふざけるな」顔面を殴られた。私は、そのまま気絶した。曲がっていた鼻がおそらく反対側に曲がったはずだ。そもそも私の鼻が曲がっていたのは ちょっと…

豚の頭

あたし今、近所のスーパーにいるの。カゴなんか持って買い物してるけど それどころじゃないのよ。野菜売り場、なかなか見つかんなくて。目の前にあるのは精肉売り場かしら。牛の頭や豚の頭や鶏の頭が それぞれ、きれいに並んで売られているわ。どういう仕掛…

引き裂く

おれはひとり、夜道を歩いていた。最寄駅から帰宅の途中だった。おれのいくらか前方に、やはりひとり若い女が歩いていた。暗くてはっきりとは確認できないがハイヒールの靴音がアスファルトに響く。やがて不意に、女が振り返った。そこは街灯の光が十分に届…

誘拐

下校途中の小学生の女の子だった。あんまり可愛らしかったので俺は衝動的に誘拐してしまった。通りすがりに、むんずと小脇に抱え上げ、そのまま自宅まで駆け足で持ち帰ってしまったのだ。しかし、さすがに誘拐はマズかろう。仕方ないので、俺は言い訳として…

少女窃盗団

君も噂ぐらい聞いたことあるだろ? 今世間をお騒がせ中の少女窃盗団について。彼女ら、かわいい顔してやるこたぁ凄い。なんでも盗む。なんでも手に入れる。お金も貴金属も宝石も極秘情報も美少年の童貞だって奪っちまう。警察やガードマンは子ども扱い。学校…

白と黒の山荘

庭には白い犬と黒い犬がいた。白い犬小屋と黒い犬小屋もあるのだった。なぜか白い犬は良い犬で 黒い犬は悪い犬ということであった。それはともかく、ここは山荘である。共同下宿としか思えないのだが 山荘であると主張されたら 宿泊者たるもの認めざるを得な…

尋問

「おまえは事件当日、その時刻にどこにいた?」「首相官邸にいました」「ふざけるな!」「いいえ。ふざけてなんかいませんよ」「まあいい。で、なにをしていたんだ?」「総理大臣を暗殺してました」「嘘をつくな!」「いいえ。本当ですよ」「まあいい。で、…

診療室

女医に首を切られた。うかつだった。白衣の襟(えり)に血の模様が鮮やかに染まった。きれいだった。窓ガラスは粉々に割れ、診療室は妙に明るいのだった。「なかなかなものね。品評会に出せるかも」彼女は大きな目を細め、楽しそうに微笑む。それから、血のよ…

愚痴聞き屋

えー、皆さま。大変お騒がせいたします。こちらは毎度お馴染(なじ)み 愚痴(ぐち)聞き屋でございます。どうにもこうにも やり場のない愚痴はありませんか。誰も聞いてくれない愚痴 聞くに堪(た)えない愚痴 耳にタコの愚痴 よく聞き取れない愚痴 どんな愚痴で…

セミのたたり

右目のすぐ下、頬骨のあたりを指先で擦ると かすかに耳鳴りが聞こえる。アブラゼミの鳴き声「ミーン」の中間部分。ラジオの放送終了後の音にも似ている。これに気づいたのは、ごく最近のこと。上から押さえただけでは聞こえない。左の頬骨を擦っても聞こえな…

互いを疑え

あなたにお願いしたいことがある。協力して欲しいのだ。安心なさい。難しい注文ではないのだから。まず、手相を見るように 自分の片手を眺めていただきたい。それは手である。疑うまでもない。しかしながらあなたに問いたい。その手は常に手であるか、と。か…

翼のある少年

少年はいつも車椅子に乗っていた。彼には両足がなかったのだ。「生まれた時からなかったんだ」少年は僕に話してくれた。「でも、かわりに翼がある」それらしきものは見えなかった。「そう。見えない翼なんだ」少年の瞳はきらきら輝いていた。(ないのは、足…

つまんない話

じつにつまんない話なんだ。まったくもう、つまんなくてつまんなくてヘドが出るくらい。それくらいつまんない話なんだ。内容なんて、まるでないよ。こんなの、聞くだけ時間の無駄だね。もし聞いちゃったら きっと聞いたのを後悔して、落ち込んじゃうよ。それ…

図書館の少年

その少年は本を読むのが好きだった。だから、図書館にいるのも好きなのだった。ある日、少年は家の近所の私立図書館に入った。そこで彼は、奇妙な本を見つけた。書名は「図書館の少年」。児童向けの小説らしい。少年は立ったまま読み始めた。読書好きな少年…

鍋の女

捕えた女を鍋で煮ている。「お嬢さん。湯加減はいかがですか?」「ええと、ちょっと熱いわね」「熱いくらいが、ちょうど良いのですよ」「あら、そうなの?」「そうなんです」近くで太鼓の音がする。「お祭りでもあるのかしら」「そうですよ。あなたを歓迎し…

散る花

散る花の 名は知らねど はらはらと 香り 残せし 今更の恋 「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!元「koebu」yayaさんが演じてくださった! Scattered FlowersI do not know The name of a scattering flowerFall of tearsLeave the fragranceT…

異形の影

眩暈(めまい)と吐き気のする深夜の国道。ドブのように黒いコーヒーを飲みながら 俺は会社の営業用車を運転していた。死にそうなほど瞼(まぶた)が重い。非常識な超過勤務。痛みと疲労と睡眠不足。一瞬の空白。そして、衝撃があった。俺は、あわててブレーキを…

セクシー家電

「喘(あえ)ぎ声が凄(すご)い洗濯機」という動画がかつて話題になったことがある。洗濯槽が回転する時、擦れるのか軋(きし)むのか女性の喘ぎ声に似た騒音が出る洗濯機の話。不況下の苦肉の策であろう。これを応用した独身男性向けセクシー家電を 某家電メーカ…

出会いは突然に

突然、ふたりは出会った。それは、あり得ない出会いだった。僕が死んだはずの彼女に出会った時 彼女は死んだはずの僕に出会った。つまり僕たちは、互いに自分は生き延び 互いに相手が亡くなったものと信じていたのだ。「私、あなたの葬式に出たわよ」「僕な…

観葉植物

近所のホームセンターで女子高生の球根を買った。ほんの冗談のつもりだった。だから、バケツに水を入れて球根を固定しておいたら本当に女子高生が生えてきたのには驚いてしまった。水栽培のヒト型観葉植物である。品種改良とか遺伝子組み換えとかいわゆるバ…

逃げ切れない

あなたは密(ひそ)かに視(み)られてる。ジッと盗撮されている。 あなたはキョロキョロ あたりを見まわす。 それらしき不審人物見当たらない。 それらしきカメラも穴も見つからない。あなたは密かに聴かれてる。シッカリ盗聴されている。 あなたはオドオド 声…

波の枕

誰もいない砂浜。海水浴シーズンにはまだ少し早い。サンダル脱いで裸足になり、波打ち際に立つ。手に持っているはゴム製の水枕。この中に海水を詰めるつもり。海水入りの水枕。なかなか素敵じゃないかしら。海原に浮かぶ夢とか見れるかも。ところが現実、甘…

薄切りの夢

親しくしている方からハムをいただいた。キッチンに立ち、まな板に載せ、包丁で切る。パンに挟んで食べるつもり。切っているうちに どれくらい薄く切れるか試してみたくなった。包丁にサラダ油を垂らす。切り方も工夫する。あれこれ試行錯誤の末、惚れ惚れす…

不思議な扉

それは不思議な扉です。確かに扉はあるのにどこにあるのか誰も知りません。いくら探しても見つからないのです。なのに、ふと気づくとなぜか目の前にあるのだそうです。つまり、そういう扉なのです。その扉は施錠されていません。だから、誰でも開けることが…

誘ってみたら

墓場で出会った彼女はとても魅力的な幽霊だった。駄目もとで誘ってみたら、快く僕に憑(つ)いてきてくれた。普通の多くの人たちには彼女の美しい姿は見えない。せいぜい寒気のようなものを背筋に感じるくらいだ。思い出したくないのか、彼女は幽霊になったい…

あえぎ声

俺は独身。時は真夜中。場所はマンションの一室。隣の部屋から壁越し、かすかに声が聞こえる。俺は耳を壁に押し当てる。「ああ、あああ・・・・」女のあえぎ声が聞こえる。俺は首をひねる。(はて、隣は空き家だったはず・・・・)そっと玄関のドアを開け、共用階段…

いいの?

ねえ いいの? こんなこと していて 本当に いいの? それって やっても やらなくても どうでもいいこと なんじゃ ないの? もっと 他に すべきこと あるんじゃ ないの? せめて そういうのが あるのかないのか 考えてみても いいんじゃ ないの? 元「koebu…

いくつかの鍵

大きな屋敷である。長い廊下がどこまでも続き その両側には等間隔に扉が並んでいる。私は、丸い金属環を片手に持っている。己の尻尾を噛む蛇の意匠が施されたそれは 取っ手の穴を串刺しに、いくつかの鍵を携えて離さない。私は、あるひとつの扉の前に立ち、…

いつか叶う

願い 叶(かな)ったら お話は そこで おしまい。もっと 続き 聞きたいなら もうちょっとだけ 我慢ね。 元「koebu」田辺千鶴さんが歌ってくださった! Someday Come True When the wish is reached the story ends. If you want to hear more continuation it'…

お参りの帰り

近所の稲荷神社に参拝後、迷子になり、家に帰れなくなってしまった。(ははあ。ひょっとすると こいつは狐に化かされたかな)神社参拝の作法というものがある。鳥居(とりい)をくぐる時は礼をする。手水(ちょうず)で手と口を清める。神殿の真正面に立つのは失…