Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

アコーディオン

もの悲しくも切なくも腕なくし脚萎(あしな)えし傷痍(しょうい)軍人白装束(しろしょうぞく)の楽団のアコーディオンの音かつて同郷の友と上野の森にて不意に聴かされり 「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださった!元「koebu」宏美(ろみりん)さんが…

婚約者

僕の婚約者が僕ではない男と心中をした。結局、ふたりは死んでしまった。それはそれでいい。ありそうな話だ。 ところが、その男にも婚約者がいた。もちろん、僕の婚約者とは別の女だ。お互いに婚約者に心中されたわけだ。 初対面は病院の霊安室だった。お互…

意識の欠落

僕は学校帰りに自転車で転んで 頭を強く打って 気がついたら 黒い犬がいて になっていて制服のスカートが破れ 私は 手が悴(かじか)んで とても困ったことに そんなこと「ああ、お願い。 やめて!」 どうして辺鄙(へんぴ)な 軍艦なんかでも、 片目の人形がこ…

包丁を持って

俺は包丁を持って歩いていた。若い女が立っていたので、包丁で刺した。胸が大きかったので、胸を狙った。女は口をパクパクしながら倒れた。俺はかまわず、包丁を持って歩き続けた。中年男が立っていたので、包丁で刺した。腹が出ていたので、腹を狙った。男…

天の渡し

天の川を小舟で渡っていた時のお話です。風はなく、ほとんど波もありませんでした。川面に目をやると、魚が泳いでいました。これはまた珍しい事があるものです。近づいて来たので姿がはっきり見えました。どうもそれは魚とは違うようです。二の腕まで水中に…

石段の途中

恐ろしく長い石段だった。その石段を俺は上っている。どこまで続くのか、上は霞んで見えない。足が疲れたので、途中で休むことにした。石段に腰かけ、ぼんやり見下ろす。どこから続くのか、下も霞んで見えない。やがて下の霞の中から片腕の男が現れた。さっ…

鬼は誰?

目隠しされて 「鬼さん、こちら。手の鳴るほうへ」君の声がする。その声のするほうへ手を伸ばす。でも、届かない。一歩、二歩、進んでみる。三歩、四歩、まだ進む。それでも届かない。「鬼さん、こちら。手の鳴るほうへ」その声は、君? 「どこにいるの?」…

石蹴り

公園で子どもが石蹴りをしている。地面に丸や四角の線を引き 石を蹴りながら片足になったり歌ったり笑ったりしている。石なんか蹴って、いったい子どもは何が楽しいというのだろう。ふと見下ろすと、俺の足もとに蹴りやすそうな石が落ちていた。なんとなく俺…

家出

「そんな子はうちの子じゃない。 出て行きなさい!」母に怒鳴られ、僕は家を飛び出した。西山の向こうへ陽は沈もうとしていた。その夕陽を追いかけるように僕は歩いた。(僕は悪くない。間違ってなんかいない!)母があとをついて来ているのは知っていた。振…

歩く練習

たそがれの公園。「なにしてるの?」たずねる少女。「歩く練習」こたえる少年。「池の底を?」「水面を」「まさか」「本当さ」「うそつき」「まず右足を水面に」「歩けるもんですか」「右足が沈む前に左足を」「そんなの無理よ」「あれ?」「ほらね」「おか…

ヴァイオリン

わたくしは縄梯子(なわばしご)を伝い 二階のベランダから忍び込みました。お嬢様は大変驚かれたようでありました。「わたくしのことは気にせず、演奏を続けてくれたまえ」そう伝えましても、お嬢様は驚かれ続けているご様子で上品な口を心持ち下品に開いたま…

森の鬼ども

キノコ採りに人喰い森に分け入り すっかり道に迷ってしまった。もともと道らしい道はなく けもの道というか鬼の道に迷ったのだ。「おい、こっちだ。人の匂いがするぞ」人喰い鬼どもの声がした。絶体絶命のピンチだ。「いたぞ。逃がすな!」必死になって逃げ…

待ちぼうけ

待つのはきらい 消えたくなる 泣くのもきらい 捨てたくなる こんなことするため ここにいるんじゃない こんなことしたいため 生きてるんじゃない 元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった! Waiting in VainI do not like to wait.I want to disa…

Mystery

殺人現場は血の海で 漂う膨れた全裸死体 浮いては沈む指紋の波が 血塗りの壁に打ち寄せる 穴だらけの密室 凶器は殺し文句 目撃者は剥製の虎 密告者は義眼の猿 手作りのアリバイ 子ども騙しの偽証 不謹慎な動機 不透明な殺意 容疑者はあなた 被害者もあなた …

織姫の糸

織姫の 糸は切れぎれ さなきだに つのる想いぞ 雪の降るらん【 彦星の牛 】彦星の 牛はとぼとぼ 歩めども 近くはならじ 天の対岸~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「さなきだに」の意味:「それでなくてさえ」「ただでさえ」「ゆっ…

ブーメラン

空は晴れていた。僕は嬉しくなり 空に向かってブーメランを投げる。戻ってくるブーメラン。ブーメランを投げる。 王様の首がとぶ。 まあいいさ。ブーメランを投げる。 親の首がとぶ。 申しわけない。ブーメランを投げる。 恋人の首がとぶ。 ごめんね。ブーメ…

氷の階段

靴音が聞こえる。踊り場で休んでいるというのに。それにしても長い。長すぎる。誰が築いたのか、この階段。石段も石壁も厚く、硬い。すでに破壊は試みた。そのため両手は砕けてしまった。両足も痛む。呼吸も苦しい。立ち上がれない。石の床が冷たい。氷のよ…

日没の前に

私は走っていた。そして、焦っていた。この先にある目的地まで、私は どうしても日没までに辿り着かねばならない。けれど、それは死を意味していた。日没を過ぎれば、友の死。日没の前であれば、私の死。どちらも耐え難い。できれば、どちらも避けたい。そこ…

雨が降ったら

彼女、雨が降ったら酒を飲む。すぐに川に変身してしまう。ボロボロの傘が流れて来る。競技用のプールも流れて来る。ついには海まで流れて来ちゃった。このままでは溺れちゃう。もう川のままではいられない。彼女、立ち上がり、教会へ行く。懺悔室で告訴する…

蟻の巣

道路工事の穴を見下ろしていたら背後から突き落とされた。まったく悪い奴がいるものである。穴の底で働く労働者たちは人ではなかった。額から触角らしきものが伸びていた。そのうちのひとり、現場監督であろうか 僕を食事に招待したい、と言う。とても断れる…

招待状

忘れた頃に招待状が届く。死への誘いである。返信ハガキだったので辞退する旨を書いて投函する。昔は愛の招待状なども届いたものだが近頃は滅多に来なくなった。ちっとも相手にしなかったからもう相手にされなくなったのだろう。 元「koebu」猫煙◇ダイヤさん…

操り師

好きな子がいるんだね。わかるよ。泣くんじゃない。諦めちゃいけないよ。いいかい。このあたしを信じるんだ。大丈夫さ。あたしが失敗したことあるかい? そりゃそうさ。もっとも、成功するにはおまえの勇気が必要だけどね。まず、その子の体の一部を手に入れ…

あやしい美術館

家の近所に古臭い美術館がある。あやしい美術館と呼ぶべきかもしれない。奇妙な作品ばかり展示されているのだ。たとえば『散歩させる犬』着衣の犬と鎖でつながれた裸婦の絵。散歩道には糞まで描かれてある。それから『不潔な自画像』額縁が立派な、しかし汚…

中世の舞踏

あのね魔女でないなら、水に浮いてはいけないの。でもね水に沈んだら、溺れて死ぬわ。ともかくそうして魔女にされてしまった、私。さらに今度はみんなの前で、裸で踊らなきゃいけないの。どういうことかと言うと魔女は踊り疲れると、尻尾を出すんですって。…

陽気なネズミ

ネズミがネコに恋をした。ネズミはネコの前に出て「ボク、アナタが好きです」愛を告白した。「あら嬉しいわ」ネコは喜び「アタシも、キミが好きよ」ネコはネズミに近寄るとニッコリ微笑みそのまんま食べちゃった。 元「koebu」摩マクロ黒さんが演じてくださ…

遺言はない

大富豪の伯父が亡くなった。少しくらい遺産が入るかなと期待していたら メイドが届いた。「初めまして。新しいご主人様」なるほど、確かにメイドだ。伯父の家で見かけた記憶がある。「あらあら! これはまた・・・・」俺の部屋はひどく散らかっていたのだ。「と…

瞑想

古い寺院の奥、僧侶がひとり。海より深く、瞑想にふけっている。そこへ野生の虎が現れる。僧侶は虎の侵入に気づかない。近づいて 僧侶の鼻を舐める虎。まだ僧侶は気づかない。虎は僧侶の頭に噛みつく。それでも僧侶は気づかない。やがて寺院の内は血の海とな…

小指の約束

「ほら、きれいな淵だろ」「深そうね。きっと浮かばれないわ」「まず沈まないことにはね」「なに言ってるの?」「さあね。寝言かな」「魚になった夢でも見ているの?」「そう。二匹の魚が泳いでいるんだ」「そのうち一匹の魚は、私?」「そうだろうね」「溺…

頬叩き

寝床に入り、ウトウトしていると突然、頬をピシャリと叩かれる。痛くはないけれど、驚いてしまう。近くには誰もいないので気のせいかな、とも思うのだけれどもあまりにも生々しすぎる。こんなふうな見えない頬叩きがいままでに4回ほどあってあっ、またか、と…

約束

約束通り、彼女は現れた。「会えて嬉しいわ」彼女の笑顔は透けていた。その向こうに景色が見えるのだった。「・・・・よく来れたね」「だって、約束だもん」ああ、約束なんかするんじゃなかった。「君、気づいてる?」「なんのこと?」やっぱり彼女、気づいてな…