Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

許せない

この人である私が あの人であった という場合はない とは否定できまい たまたま この人が私であって あの人が私でなかっただけ 私がこの人ではなく あの人である可能性はあったのだ だから 私は許せない あの人にあんなことをする別のあの人を 私があの人で…

おうちにいるの

おそとは あんなに あかるくて あんなに ひろくて あたたかい なのに あたしは おうちに いるの おうちは とっても くらくって とっても せまくて おまけに さむい ひとりっきりで かいわも なくて だあれも こなくて どこへも いかない なのに あたしは き…

狐の神輿

ワッショイ ワッショイ みこしが通る ワッショイ ワッショイ きつねも通る 笛太鼓の音頭とともに 町内会の神輿が家の前の通りを通る。ゆっくり走行するお囃子のトラックの後に 大人神輿と子ども神輿、および父兄の集団が続く。その前後左右には町内会の役員…

小人の頭

庭で草を刈っていたら うっかり小人の首まで刈ってしまった。「いやあ、ごめんごめん」私は素直に謝る。「まったく、気をつけてもらわなきゃ困るな」「だって君たちときたら、あまりにも小さいんだもん」「ふん。そっちが大き過ぎるんだよ」小人は自分の頭を…

細長い廊下

あなたの目の前に扉がある。実際には、そんなものないだろうけど とりあえず、扉があるものとする。あなたは、その扉を開く。扉の材質や形状は問わない。両開きでも片開きでもかまわない。引いても押してもあなたの自由だ。すると、細長い廊下がまっすぐ延び…

バイクに乗って

僕はバイクに乗って どこへ行こうとしていたのだろう。やぼったい原付バイク いわゆる農道バイクを押しながら 中学生だった僕は真夜中、こっそり家を抜け出したのだ。ただでさえ近眼乱視なのに 親父のサングラスまで無断で借りて 深夜のツーリングとは まっ…

新聞記者と青空

おれは新聞記者だ。環境汚染やゴミ問題を扱いながら 新聞を売ることでゴミを増やしている。うしろめたい気持ちでいっぱいだ。今、おれは自動車整備工場の敷地にいて ぼんやりタバコなんかふかしている。白い煙が青空に消えるのを眺めている。つまり、仕事で…

赤い蝶

あまりにも遠い夏休みの思い出。半ズボンで、麦わら帽子をかぶって 林を縫うように山道を歩いていた。手には捕虫網と虫かご。小さな昆虫図鑑も持っていたかもしれない。いたるところに清水が湧いていたから 水筒は持っていなかったはず。暑かった。アブラゼ…

鼻水を飲み込む

秋の花粉症の季節。冷夏のせいか、PM2.5混じり毒花粉のせいか いつもより症状がキツイ。検索していたら、興味深い記事を見つけた。水を口に含んで、しばらく待ってから飲み込む。これを繰り返すと 、鼻水を喉へ流す癖が身につくそうな。もともと鼻水の大半は…

歩道橋

幅広い車道を挟む形で両側に幅狭い歩道があり その片側の歩道を歩きながら、私は思う。(クルマなんか、なくなれば良いのに)そうすれば、ゆったり安心して歩ける。向こう側にも簡単に渡れる。排気ガスと騒音をまき散らしながら 車道のクルマの流れは途切れ…

正直なところ

胸の内を正直に明かせば、今 ことさら何かをしたい、というわけではないのだ。眠くもないし、空腹でもない。好きな時に眠れるし、好きな時に飲み食いできる。若くないから欲望は薄く、体力もない。出かけたくもないし、誰かと遊びたくもない。あらかた体験や…

たたむ達人

「とにかく面倒臭がらずに続けることですね。 放っておいたら悪くなるばかりですから」彼女はたたむのがうまい。「では、そういうことで」話も仕事も人も、なんでもたたんでしまう。かくいう私もすっかりたたまれてしまい 手も足も声も出せない。それはとも…

アイスクリーム

こじんまりとした白っぽいオフィス。出入り口付近に置かれたデスクに腰かけ ぼんやりとしているだけの私がいる。早朝であろうか、女子社員が数人いて それぞれなにやら仕事をしている。コンピュータに向かっていた女子社員が ううんと背伸びをして 「よし。…

読んではいけない本

お父さんの書斎には大きな本棚がいくつもあって たくさんの本が数え切れないほど並んでいる。どれでも僕が勝手に読んで構わないことになっているんだけど ただ一冊だけ、僕が読んではいけない本がある。それは本棚の一番高いところにあって ナンバーキーが付…

幽霊の作り方

現実には存在しないはずなのに その存在を意識させるものを「幽霊」とする。道化師がパントマイムで壁を撫でる動作をすると、観客は存在しないはずの壁があたかも目の前にあるかのように感じる。同じくドアを開ける動作をすれば 見えないはずなのにドアが開…

くさめ太夫

春や秋 寒さ暑さの 変わり目に くしゃみなんぞくさめ太夫(だゆう)が しておじゃる 一に ほめられ クシュン 二に ふられ クシュン クシュン 三に ほれられ クシュン クシュン クシュン 四に 風邪 クシュン クシュン クシュン クシュン または 花粉症ではある…

デフレ扇状地

情報および情報サービスのデフレが止まらない。Webにおける無料または低価格な情報サービスの充実が リアルでの有料情報サービスを黙殺してしまった。引きこもっていても、動き回らなくても やり繰りすれば事は済んでしまう。メールで済むなら実際に会って話…

少女積み木

遊び仲間も おもちゃもなくて 手持ち無沙汰な 日曜日 女の子集めて 魔法をかけて さまざまな意匠の 木片に これを重ねて 積み上げて 少女積み木して 遊ぶのだ 彼女はここで 君はここ この子はどこに のせようか 立てよか倒そか 裏返し こんな隙間に 入るかな…

隣の恋人

僕の恋人 と呼べる人は 壁を挟んで すぐ隣に住んでいる。寝室も隣 台所も隣出入り口も ベランダも 二つ並んで お隣同士。なかなか すてきな 距離関係。いつも一緒じゃ 息詰まる。つかず 離れず お隣同士が ちょうど良い。 自作自演。 Lover Next DoorThe per…

笑えない

わたしは あの人たちのように 笑えない。あの人たちのように 自然で じつは 自然ではないのかもしれないけれど ともかく あんなに 自然な感じには 笑えない。 自作自演。 I Can't LaughI can't laugh like them.Maybe it's as natural as those people And n…

夕暮れの雷鳴

夕暮れの 夕立に 眠れそで 眠られず ウトウトと まどろみつ はて 何事か 思い出せそな 忘れし頃に 怒鳴られたよに 雷鳴の鳴る 自作自演。 Thunder of Twilight To shower at dusk Slepty but not sleepy Vaguely and slightly sleeping What is it? By the t…

消えたトランプ

トランプが見つからない。二十年以上も前に買った「不思議の国のアリス」のトランプ。かわいらしくて素敵な絵柄だったから捨てるはずない。なのに、おもちゃ箱の中に入ってない。押し入れを掻き回したり、床板を剥がしたり 頭の中の記憶を掘り起こしたりして…

奇形児たちの徘徊

成長促進剤やら添加物の影響で異常児や奇形児が増えている という噂である。しかし問題は、それらを放任したままにしておく当事者の 精神の異常であり、奇形であろう。などということを考えていたら 窓の外が騒がしい。共同ごみ置き場のごみの出し方がひどい…

海を渡る君

君はオートバイで海を渡る。船で渡っても、あんまり意味がないから。同じ理由で、君が乗る船は空を飛び 君が乗る飛行機は地中を潜る。しかしながら、それらにも深い意味はない。自転車で虹を渡ろうと、衛星軌道を進もうと ほんのちょっと奇妙な印象を与える…

置き手紙

どうぞ私を捜さないでください。私はあなたから姿を消します。あなたの知らない場所へ隠れます。だから私を捜さないでください。ふたりが別れてはならない理由も 一緒にいなければならない理由も 少なくとも私には見つけられないのです。あなたの都合など理…

段ボール箱

彼女は段ボール箱なのだった。宅配便とかで届いた荷物の梱包材を捨てもせず 部屋の片隅に溜めておいたら、生まれてしまったのだ。「困るなあ」僕が呟くと 「そうよね。困るわよね」波状の断面をゆがめ、彼女は悲しげな顔をした。途端に心がざわつく。「いや…

折り紙

気まぐれに 鶴を折ろうとして 折り方をすっかり忘れていることに 今 気づいた 三角に折ったり ひし形に折ったり きれいにたたんで裏返したり おしまいに 息を入れて膨らませたり 幼い頃 なにが面白くて折り紙をしたのか と言うと なんでもない一枚の紙が た…

毒抜き

追われている。そんな気がする。なんとしても逃げなければならない。そいつの裂けた口には鋭い牙が並んでいる。きれいな穴の列を頭蓋骨にこしらえるはず。そいつの歪んだ手にはおぞましい爪が生えている。傷口を開いて血まみれの心臓をえぐり出すはず。なの…

危機管理室

「指導教官殿、下半身が自白しそうであります」何を口走っておるのだ、おれは。そもそも、目の前で悩ましく美脚を組み替えるミニスカ美女に 心を奪われている場合ではないのだ。「あら、とても苦しそうね。我慢はカラダに毒よ」うう、その通り。早く楽になり…

駆逐せよ!

ウケよくて 親しみやすく 目立っているがつまらない 挨拶(あいさつ)みたいに どうでもよさそな 噂(うわさ)のように どこにでもありそな 世の流れに タダ乗りしてるだけの ニセモノども マガイモノども 目障(めざわ)りなだけで なんの貢献(こうけん)もせぬ 唾…