Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2011-08-01から1ヶ月間の記事一覧

廃人回収車

毎度お騒がせいたしております。こちらは廃人回収車です。ご家庭でご不用となりました痴呆老人、処分にお困りの長期ヒキコモリ、手の付けられない腐女子などどんな廃人でも無料でお引取りいたします。もう動かなくなった死人、壊れたケガ人、病気がうつるか…

撃つぞ

おい、待て。止まれ。こら、逃げたら撃つぞ。よしよし、動くなよ。死に急ぐことはない。何者だ、おまえは。ふん、言いたくないのか。その自信はどこから来る。ここか。ここか。まだ言いたくないか。そらそら、これでもか。ほほう、たいしたもんだ。ちょっと…

花嫁人形

ある村に、人形が大好きで 人形遊びばかりしている女の子がいた。人形のように愛らしい子だったが あまりに人形と親しみすぎたためか とうとう本物の人形になってしまった。両親の悲しみはいうまでもない。死んだわけでもないので葬式はあげられず 生きてい…

夜の三つ編み

真夜中に 女が髪を編んでいる 憂鬱と軽蔑と恥じらいと 憂鬱と軽蔑と恥じらいと 憂鬱と軽蔑と恥じらいと 夜の三つ編み ほどけない ほどけない 夜の三つ編み 元「koebu」アカリさんが演じてくださった! Night BraidIn the middle of the nightThe woman is kn…

夜の隙間

夜が始まって夜が終わるまでのどこかで彼女は跡形もなく消えてしまった。すうっと音もなく切り開いた夜の隙間からするりと音もなく抜け出たかのように。「逃げたのではなく、隣の部屋に移動しただけ」そう言わんばかりの鮮やかな手口。彼女に見えて僕には見…

糸電話

「もしもし、きこえますか?」「もしもし、きこえますよ」幼い兄弟が糸電話で遊んでいる。「いま、なにしてますか?」「でんわでおしゃべりしてます」「それはえらいですね」「どういたしまして」たわいない会話である。「そちらはどこにいますか?」「こち…

あべこべの世界

あべこべの世界、なかなか簡単ではない。「愛しているから、あなたを抱けないの」突然、恋人があべこべの人になった。「でも、抱きたいの。だから、殺すの」そんなふうに説明されても理解できない。死にたくないので彼女から逃げた。拾った石を手に彼女が追…

駅のアナウンス

駅のホームで電車を待っていた。どこか遠くへ私は行くつもりだった。やがて、合図のチャイムが鳴った。「お待たせしました。まもなく2番線に」さわやかなアナウンスの声。「目玉焼きがまいります!」到着したのは、大きな目玉焼きだった。恐竜の卵かな、と…

鳴き猫の扉

この家の玄関の扉を開ける時 軋んだ音がする。その音が猫の鳴き声そっくりなのだ。知らない客は驚いて キョロキョロする。いくら探しても どこにも猫の姿はない。その昔、扉に挟まって猫が死んだのだろうか。この扉を閉める時にも軋んだ音がする。なぜだろう…

砂漠の狐

昔、砂漠に戦争があった。砂漠には狐が棲んでいたが 彼らは砂漠に残った。戦争は長く続いた。狐は砂を掘り 昼間は砂の中に隠れて過ごした。争いは避けなければならない。争いに巻き込まれてはならない。かすかな音さえ聴き逃してはならない。耳だけが彼らの…

墓前の指輪

行き交う人の姿もない夕暮れ近い外人墓地。墓石の列が夕日に赤く染まっていた。そのひとつの白い墓の手前で私は美しい指輪を拾った。 「ねえ、お願い。はめて欲しいの」ふと、そんな声を聞いたような気がした。 ふざけて左手の薬指にはめてみた。不思議なく…

真夜中の遊園地

皆様にお知らせいたします。当遊園地はまもなく閉園時間となります。出口が見つからないお客様は 閉園時間を過ぎますと 永遠に出られなくなる可能性がございますので くれぐれもご注意ください。と申しますのも 真夜中の遊園地は大変楽しいのですが それに比…

門番

それはそれは立派な門であった。絵にも描けないほど立派だった。つい入ってみたくなるのだった。「いらっしゃいませ」高過ぎず低過ぎず、じつに感じの良い声だった。「お待ちしておりました」おそらく門番とでも呼ぶのだろう。その男に家まで案内された。意…

ヘグナムシ

あやしげな物を売るあやしげな店であやしげな店主が教えてくれた。「この水槽の中にヘグナムシがいるのです」それを聞いて驚かないわけにいかない。外に待たせていた連れを急いで呼んだ。連れは正体不明のあやしい虫である。「なんだい?」小さな虫だが、し…

ミミムシ

子どもというのはおかしなことを言う。「あっ、ミミムシ! ミミムシ見つけた!」娘に抱きつかれ、耳を引っ張られた。休日の昼下がり、居間で読書中のことだった。せっかく物語に夢中になっていたのに。鋭い痛みが両耳の付け根に走った。「ほら。とっても大き…

母子像

雄大な海を見下ろす崖の上に 不釣合いに見える母と子の姿があった。美しい夫人が醜い赤ん坊を抱いていた。夫人は遠い水平線を見詰め そんな母親を赤ん坊が見上げていた。ところが不意に、夫人はめまいに襲われ 意識を失って崖の上に倒れてしまった。赤ん坊は…

花いちもんめ

買ってうれしい 花いちもんめ まけてくやしい 花いちもんめ となりの姉さん ちょっと来ておくれ 靴がないから行かれない 裸足でいいから ちょっと来ておくれ 服がないから行かれない 布団かぶって ちょっと来ておくれ 布団がないから行かれない しょうがない…

冬の夜の目

さびしい夜道をひとり歩いていました。ときおり冷たい風が吹き抜けてゆきます。両親の待つ家に急ぎ帰るところでした。こんなに時刻が遅くなってしまったのできっとひどく父に叱られることでしょう。もう子どもでもないのに いまだに私は父が怖いのです。ふと…

明日になれば

「明日は、なにして遊ぼうかな」天井を見上げたまま僕がそう呟くと お父さんが水をさすのだった。「いくら待っても、明日は来ないぞ」寝耳に水とはこのことか。僕は上半身を起こす。「どうして?」「どうしてもさ」お父さんは背中を向ける。僕は途方に暮れる…

夜道

夜の見知らぬ街角を曲がると 遠近法に従いつつ街灯が並んでいる。ほとんど人通りはない。地蔵を背負った老婆とすれ違うくらいだ。笑ってしまいたいほど寂しい夜道。音もなく霊柩車が車道を滑ってゆく。靴音が重なり合うように響く。振り返っても、そこには誰…

究極の辞典

ある図書館に完全無欠の辞典がある。この辞典の言葉の定義は完璧である。図や写真は一切載せず 曖昧さを残すことなく 言葉だけで言葉を定義している。勿論、誤植や落丁などの不備は皆無。意味不明の言葉があれば、見出し語で引く。そこにまた意味不明の言葉…

花の色

「ほら、見て。この花」「おっ、赤くなった」「不思議でしょ」「どうなってんの?」「あなた、へんなこと考えたでしょう?」「えっ? ・・・・考えてないよ」「この花、人の心が読めるのよ」「ほう」「そして、恥ずかしがると赤くなるの」「へえ」「とっても不思…

寝物語

うん、一緒に寝ようよ。ううん、なんでもないんだ。ただ寝ながら話をしたいだけなんだ。ひとりで寝るのが怖いわけじゃないよ。小さい頃はそういうこともあったけどね。もう平気さ。子どもじゃないんだから。まあ、あんまり大人でもないけどね。返事したくな…

恋の痛み

ニッコリ笑って彼女が僕の胸を刺した。まさに悩殺的。切っ先が心臓まで届いた。「な、なぜ?」「何故って聞くの?」僕は必死にうなずく。「恋はね」彼女、ナイフをねじりながら「殺すか、殺されるかよ」・・・・し、知らなかった。元「koebu」田辺千鶴さんが演じ…

ネズミ少女

とても信じてもらえないだろうけど僕の妹はネズミに育てられたネズミ少女だ。生まれてすぐ、妹はネズミにさらわれたのだ。屋根裏に運ばれて、そこで大きくなった。ちょうど僕の部屋の真上あたり。そんなこと、僕、全然知らなかった。大きなネズミがいるんだ…

恋人の溜息

エレクトロニクスの進歩はすさまじい。なんと最新式の電子秤(ばかり) は微妙な感情の重さまで量(はか) れるという。「おれたち、別れる時期を逃(のが) しちゃったな」いやがるようなことばかり言って恋人から溜息(ためいき) を吐(は) き出させることに成功し…

花火と少女

夜空に咲く花火 それを見上げる少女 どっちを見てるの? どっちも見てるの 花火と少女 儚(はかな)くも 美しく元「koebu」GOD@怪演隊さんが演じてくださった!Fireworks and a GirlFireworks blooming in the night skyA girl looking up at itWhich do you …

君の顔

空に浮かぶ雲の形が君の横顔に見える。部屋の壁紙の汚れも君の顔に見える。末期症状だね。そのうち他人の顔が君の顔に見えてその人を君と思い込んで好きになったりするのかな。いつまでも気づかないふりをして・・・・ ※最後の一行は元「koebu」nanatsukiさんの…

僕は病気なんだ。全身がだるくて、頭も重い。悪いことばかり考えているせいだと思う。ママが心配して、僕の額に手を当てる。「今日は学校を休みなさい。熱があるわ」優しいママの声が、どこか遠くで聞こえる。学校?なんだろう。僕は思い出せない。ママは黒…

狼なんか怖くない

狼なんか怖くない。 だって 狼なんか 見たことない。幽霊なんか怖くない。 だって 幽霊なんか おどかすだけ。もっと怖いの知ってるよ。 ほらね、 人間の方が よっぽど怖い。 元「koebu」アカリさんが演じてくださった! I'm Not Afraid of Wolves I am not a…