Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2013-05-01から1ヶ月間の記事一覧

転がり岩の秘密

荒れ果てた岩だらけの大峡谷。たまに大小の岩が転がり落ちてくる。一列に並んで転がってきた岩の集団が まるで人が運転する乗り物のように 落ちる寸前、断崖の縁に躊躇(ちゅうちょ)して止まり やがて決心がついたらしく飛び出し 放物線を描いて落下する光…

ゴムの沼地

月夜なのに、どこにも月は見えない。今晩、どこやら秘密の場所で なにやら秘密の集会があるという。それに出席することになっているのに 期待どころか不安で仕方がない。さような個人的心情はともかく 道端に古いロッカーが置かれてある。扉をはずして中に入…

野生のヒョウ

野生の獣たちの話をしよう。一頭の野生の雄のヒョウがいた。こいつが子連れの雌のヒョウに近づいた。そして、しきりに挑発した。ところが、雌ヒョウは乗ってこない。母親としての自覚があるから。そこで雄のヒョウは雌ヒョウの子を殺した。愛くるしいばかり…

幻影の荒野

どうして僕たちは こんな荒野にいるのだろう。にぎやかなのに 淋しくて 楽しそうでも つまんない。なんでもあるのに なんにもなくて なにをしたって なんにもならない。明るいはずが 真っ暗闇で 手探りしなきゃ 歩けない。正しいことが集まって まちがったこ…

熊の置物

残業を終えて、退社するところ。他に社員が二人いて、一緒に外に出る。私はポケットから玄関の鍵を取り出し ドアの鍵穴に差し込み、一回転させる。まるで手応えがない。見ると、シリンダー部分が抜き取られている。いったいどういうことなのだろう。部下の男…

おぞましき告白

私は人を殺したことがあります。夜道で痴漢に襲われた時のことです。私はもう必死で抵抗して暴れました。持っていた傘で男の顔を突いたのです。その石突が男の眼窩に刺さりました。先端が脳まで達して、男は即死。正当防衛で私は無罪になりました。その時、…

検品

いわゆる女子高生であった。つまり、セーラー服を着た少女である。(やれやれ、またか)さすがに疲れが出る。まだ休憩時間には程遠い。だが、やらねばならんのだ。これが仕事なのだから。まず、ざっと全身を目視検査する。幼い表情。顔立ちは整っている。す…

真っ暗闇

はかどらぬ仕事に疲れ果てた。もう深夜だった。少し寒かった。「そろそろ寝よう」立ち上がり、照明を消した。真っ暗闇。何も見えなかった。ともかく手探りで歩いた。あれこれ考え事をしながら。しばらくして、やっと気がついた。まだ扉に手が触れていない事…

彼女は異星人

彼女は異星人だ。それを隠すため、子どもを産む。たくさん、たくさん、彼女は子どもを産む。だから、ほら、もうこの星の半分ほどが彼女の子どもだ。 「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださった!元「koebu」宏美(ろみりん)さんが演じてくださった…

首が痛い

「首が痛い」と冷蔵庫が言う。「どこに首があるんだ?」と問うてみたくなった。 元「koebu」宏美(ろみりん)さんが演じてくださった! My Neck Hurts"My neck hurts."The refrigerator says."Where is your neck?"I wanted to ask.

黒い機関車

黒煙をモクモクと吐きながら真っ黒な機関車が迫りくる。線路はまっすぐ私の胸へと続いている。そうなのだ。私の胸には大きな穴があいている。大きくて暗くて深くてどうしようもない。ああ、本当にもうどうしようもない。列車の振動で頭が痛い。線路の枕木で…

首輪

恋人の首に首輪をつけた。あんまり勝手に動きまわるものだから。牛革の丈夫な奴。鎖でつながっている。その鎖の端は僕が握っていて放さない。「いやだ、こんなの。はずしてよ」「だめだ。はずせば逃げるだろ」恋人としての自覚に欠けていると思う。いい男を…

首の吊り橋

若者がひとり山道を歩いていた。前方には深い谷がある。やがて、吊り橋が見えてきた。たった今、向こう側から老婆が渡り終えところである。不気味なほどに腰が曲がった老婆だった。「あんた、よそ者だな」「ええ、道に迷いまして」「それにしても、大きくて…

口の中の感触

夢から覚めたらしい。そこは会社、または教室のようである。机が並んでいて、人が歩いている。なぜか口の中が異様に感じる。グラグラして、歯が抜けそうだ。そこで、片隅にある洗面台で歯を磨き始める。突然、背後から会社の上司に抱きつかれる。「なにをし…

空白の時間

出勤前に立ち寄るところがあった。電車の切符代を必要以上に払い過ぎたり 閉鎖された改札口を飛び越えたりしながら 混乱した状態で目的地を目差した。そして、空白の時間があった。それから出勤してみると 今日は得意先への企画提案の日である。まだ企画書は…

近所の子

子どもの頃、女の子と遊んでいた。目が大きくて、口が小さくて、髪が長かった。見上げる笑顔が可愛らしかった。ふたり、色々なことをして遊んだ。ただし、いつも家の中に閉じこもって。なぜか家の外では遊ばないのだった。たとえば色紙で鶴を折って、それを…

切り貼り絵

一冊のスケッチブックを買った。それが、そもそもの始まりだった。普通の白い画用紙だけでなくて さまざまな色付きの画用紙があるもの。いわゆるカラースケッチブックだった。折り紙セットを大きくしたような感じ。で、これにペン画など描いてみた。そのうち…

霧の講義

ここはどこだろう?あたりには霧が立ちこめている。正面の壇上の老人は教授だろうか?その証拠でもあるかのように多くの学生が熱心に聴講している。「一般に、位相空間上に座標系を導入する場合 計算結果は座標系に依存しないという性質を」どうも講義の内容…

木登り

私は探していた。太くて丈夫そうな木を。そして、とうとう見つけた。これはまた、随分と背が高い。枝ぶりも立派だ。登りたいくらいだ。無理だろうな。もっと若かったら・・・・ おや、誰か登っているぞ。あんなところまで。まるで猿みたいだ。小さな子猿。「やー…

狐の神様

空を見上げ、狐が呟いた。「狐なんかつまらない。 ぼく、鳥に生まれたかったな」それを耳にしたのが、木の上にいた天狗。「おまえを鳥にしてやるぞ。 どんなのが望みだ」木の上からの声は、まるで天からの声。「ああ、神様ですね。 ぼく、鷹になりたいな」「…

缶詰

迷い込んだ青空市場で買い物をした。いったい何を買ったのか? 夕方、帰宅してから疑問が浮かんだ。それをリュックサックの中から取り出す。缶詰であることは間違いなかった。ただし、印刷された外国の文字は読めない。なにやら神秘的な雰囲気を漂わせている…

金縛り

山の斜面をひとり歩いていた。家族の待つ家に帰るためだった。岩がむき出しの不安定な足場が続く。土砂崩れの跡かもしれない、と思った。滑って転ばぬように注意が必要だった。帰り道をまちがえたような気がしてきた。いくら歩いても家が見つからないのだ。…

壁に耳

部屋の四方は壁に囲まれていた。一番目の壁に耳を当ててみる。 「餌はやるな」 「水は?」 「同じだ」 「換気は?」 「必要ない」 「明かりは?」 「いらん」 「音は?」 「立てるな」 「においは?」 「そのうち勝手に臭くなるさ」息苦しくなってきた。二番目の…

カタログ

そのカタログには 女の子たちの写真が掲載されている。水着姿、学校の制服姿、着物姿など。身長やプロポーションの表示もある。それから、簡単なプロフィール。出身地、生年月日、家族構成、趣味など。なんとなく僕は彼女に興味を持つ。なにを好み、なにを好…

混浴

ひなびた温泉である。見上げれば凍るような満天の星空。冬の夜の露天風呂というやつだ。うら若き女がひとり、湯船につかっている。おそらく都の高貴な娘であろう。その透けるような白い肌。細いうなじや丸い肩が湯気に揺れて悩ましい。いかにも気持ち良さそ…

オレンジ色

今日もまた暑くなりそうだった。少年の頃、夏休みの昼下がり。冷房のない蒸し暑い部屋。友だちなんかいなくて 床に寝転んで天井を見上げていた。暑くてだるくてなにもする気がしない。汗が出てハエがいてセミがうるさくて とても昼寝なんかできそうにない。…

檻の中

雌雄のつがいとして檻に入れられた。「近頃のは、交尾のやり方も知らないのよ」「本当ですか。困ったな」「よく教えてやってね」まったく、檻の外の奴らめ! やり方なんか知ってる。押しつけられた相手とやりたくないだけだ。「危険物は与えないこと。自殺す…

おねだり

やんなっちゃうよ、まったく。彼女、耳たぶ噛みながら囁くんだぜ。「欲しいの。その目玉くり抜いて」もう、とんでもない話だよな。たまらんぜ、まったく。それで、おれ、こんなに目が不自由なのさ。それから彼女、おれの胸毛一本ずつ抜きながら囁くんだぜ。…

あいまい宿

そこは海辺のようでもあり、あるいは山奥のようでもあった。またはどちらでもないのかもしれない。どこでもあってどこでもない、そんないい加減な場所なのだろう。その建物の玄関の柱に掲げてあるのはあやしげな表札だった。なにが書かれてあるのかわからな…

いらない翼

大空を飛べる翼が 欲しい と、君は言う。そりゃ 僕だって 欲しくなる時はあるよ。 もっと自由になりたくてさ。でもね、 それが 逃げるための翼なら 僕はいらない。辛くなったり、 苦しくなったり、 もうどうにも やり切れなくなったら さすがに僕だって 欲し…