Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

サピアの流れ

遥(はる)か遠い見知らぬ土地に サピアという名の川がある。そこにはイメージとか印象とか いわゆる想念のようなものが流れている。その水をすくって飲めば 心乱れ 身を浸(ひた)せば 鱗(うろこ)生え、魚になる。サピアの流れは雄大で 蛇行(だこう)を繰り返し …

野宿

しばらく帰らないつもりだった。ある夏の朝早く、ひとり家を出て 海を目指して歩き始めた。ちょっと心配ではあるが 日暮れ前には海岸へ辿り着けるだろう。歩きやすい靴を履き 眩しいので、サングラス。日射病予防として頭にタオルを巻く。肩に水筒 背にはリ…

氷の花

凍った岩肌に 骨が喰い込む 肉を破り 血に染まった指の骨 吹雪(ふぶき)は背に爪を立て 男の耳を噛み切る 鼻毛が凍り 音を立てて涙が割れる 垂直の崖を抱(いだ)き 男は喘(あえ)ぐばかり 男の望みは 山頂に咲くという 氷の花 それに触れる者は 幸せになるとい…

トントコトン

トントコトンが歩いていたら途中でトコトントンに出会ったよ。「やあ。トントコトン」「元気かい。トコトントン」一緒にトントコ、トントン、トコトントン。仲良くトコトコ、トントコトン。トコトコ、トコトコ、お馬が通る。トントン、トントン、ノックする…

ざまあみろ

女が眠らない夜は男が眠れない夜。あるいはその逆か。は。まあ、どっちでもいいけどさ。約束してたのに女に逢えなかった。若くもないくせにまだわかってない。約束なんかするから破られる。信じたりするから裏切られる。そういうもんだよ、世の中は。酔っ払…

ベルトコンベア

俺は工場で働いている。なぜなら、俺の目の前には ベルトコンベアが静かに流れているから。この状況に置かれていては ともかく流れ作業をするしかあるまい。それにしても、よくわからないものが色々 よくわからないなりに流れてくる。俺の傍(かたわ)らには様…

のろま

なにごともゆっくりです。はやく話せません。ゆっくり話すと、言葉になりません。というか、誰も聞いてくれません。だから、文字で書きます。こうして、ゆっくり書きます。ここまで書くのに百年かかりました。話すより遅いかもしれません。考えていると、百…

ほどけない帯

彼女は若くて賢くて美人。大富豪ゴルディアス家の一人娘。「私を抱きたかったら、この帯をほどくことね」彼女の着物をきつく締める帯。その結び目は複雑怪奇。これまで多くの殿方が挑戦してきた。しかし、その結び目をほどいた者はいない。帯を切ろうとして…

白痴の太鼓

白痴はいつも太鼓を叩いていた。近くにいれば必ず太鼓の音がした。太鼓を叩いていなければ眠っているのだった。きっと太鼓を叩く夢でも見ているのだろう。いつも白痴はどこか旅していた。太鼓が唯一、白痴の道連れだった。白痴だからほとんど言葉は話せなか…

雨が降る

君が泣きそうだから 僕は笑いそうになる僕が笑いそうだから 君は怒りそうになる君が怒りそうだから 僕は泣きそうになるそれで やっと僕たちは 一緒に泣くことができるまるで 傘を持ってるから 雨が降るみたいに「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださ…

ニャー

ねえ、君。ご存じかな? 「ニャー」という名の鍵盤楽器を。見た目、ほとんどアップライト・ピアノ。もっとも、アップライトの中古ピアノを改造したのだから 当然と言えば当然だけどね。つまり、僕が作ったんだ。「ニャー」の命名も僕。じつは、こいつなんだ…

運河

たくさんの異国の船が運河を渡る。ありとあらゆるものが運ばれてゆく。美しく、いかがわしく、危険なものまで。この運河がなければ大陸を迂回(うかい)するしかない。想像しただけで、吐き気とめまいがする。誰が運河を作ったのか、いまだ謎のままだ。「昔ね…

火の鳥

火の鳥 私は不死鳥 いやでも死ねない 生きてゆくしかない いろんなことがあったけど いろんなことがあろうけれど いつまでも終わりがないのなら いっそ始めなければ良かったのに そう思うのです 元「koebu」ロンチーさんが演じてくださった!「note」ハナウ…

盲目

きれいは 汚くて 汚いは きれいやさしさは きびしくて きびしさは やさしい美しいのに 醜くて 醜くても 美しいそういうふうに見えるから 見えなくて 見えないから 見えてくる元「koebu」◇ゆぅる◇さんが演じてくださった!「note」ハナウタナベさんが歌ってく…

風の抜け道

あなたは風 吹き抜ける さわやかな 一陣の風さあっと駆け寄り 短いスカート はためかせ クルクル回って 長い髪を 巻き上げるわたしは そんなあなたの ささやかな 一本の 抜け道でありたい「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださった!元「koebu」ホノ…

Jellyfish

わたしはクラゲ 骨がない ふわふわ ほわほわ 漂って 生きてる意味も わかんない同名の短い器楽曲に合わせ、自作自演。元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった!元「koebu」田辺千鶴さんが歌ってくださった! JellyfishI am a jellyfishThere is …

依怙地

ある依怙地(いこじ)な女の子の物語。 どうでもいいような 瑣末(さまつ)なことが気になって 彼女、なかなか眠れない。あたし、愛されているかしら?それとも、嫌われているの?もしかして、憎まれてる?ひょっとしたら、無視? いつまで考えても わかんない。…

レクイエム

私は貴方(あなた)を殺し 貴方は私に殺されました。でも、私が貴方なら 私はこう言うでしょう。貴方は私を殺し 私は貴方に殺されました、と。所詮(しょせん)、言葉はたとえです。そこに真実はありません。死が死体のどこにもないように 悲しみもまたありませ…

ともしび

その光は 明るいけれど まぶしくはなく 温かいけれど 熱いほどでもない日中は 知らんぷりして 暗くなって やっと気づくような そんな おとなしい 弱気な 小さな灯(ひ) 消さないよう 驚かさないよう そおっと 寄り添って そおっと 手を かざして それから そ…

一個のパンと男と女

パンは一個しかなかった。 それを男が食べてしまった。 もう食べ物は残っていない。 女は泣きながら死んだ。 やがて、男も死んでしまった。パンは一個しかなかった。 それを女が食べてしまった。 もう食べ物は残っていない。 男は怒り狂い、女を殺した。 や…

Runaway

彼女は逃亡者 名を偽り 顔を変え 命を守る彼は追跡者 名を呼び 顔を歪め 命を削る元「koebu」yayaさんと共演!RunawayShe is runawayShe lies for her nameChanges her face And keeps her lifeHe is a pursuerHe calls her nameDistorts his face And sharp…

眠らないで

ここに どうして あんたが 夢を 重ねて ゆくわけ ゆかないわけ で なんだって お好み次第 きゃはは う 手に手を とって 足に足 とって 彼女と 彼は あんたと あたし カナリヤ 鳴くから 見て 見てってば 意味が ないと 明日も ナイト 一晩中 わかって ないの …

ペチャンコ

私は、もうダメ。ペチャンコだ。完全につぶれてしまった。針の折れた安物の画鋲(がびょう)みたい。ああ、みじめ。立ち直れない。骨も肉も内臓も、みんなグチャグチャ。両手なんか、ウチワみたい。これでは顔も洗えない。もっとも顔だってきっと座ブトンみた…

静かな海

ここは静かな海。潮騒(しおさい)さえ聞こえない。なにしろ海水がない。昔は眩(まばゆ)い海原が広がっていたのであろうけれども 今は干乾びた海底が剥(む)き出しになっているばかり。そんな名ばかりの海の前 やはり名ばかりの渚に座り、私は目を閉じる。本当…

水の泡

ブクブク ブクブク 水の泡 あんたは ブクブク 水の泡 あんたの苦労も 水の泡 あんたの使った 時間と費用 水の泡 あんたの作品 水の泡 栄光 信頼 実績 尊敬 名誉も 地位も 水の泡 なんでも かんでも 水の泡 みんな みんな 水の泡 ブクブク ブクブク ブクブク …

目覚めたら

あわてて目覚めたら、そこは戦場だった。ミサイルがまっすぐ飛んできた。すばやく地面に転がって衝突を避ける。あるいは、素手でもつかめたかもしれない。それほどミサイルはゆっくり飛んでいた。そのミサイルを狙い、光線銃で撃つ。なぜ光線銃を所持してい…

廃墟を走る

廃墟を走っている。荒涼としたモノクロの迷路。崩落したアリの巣を連想させる。働きアリはどんな気持ちで走るのか。そんなつまらない疑問が浮かぶ。きっと走るしかないから走るのだろう。ともかく、廃墟を走っている。生き残るために競走している。ある定め…

鬼の面

大きな家に、かわいらしい坊やがいた。ある日、ひとり土蔵で遊んでいたら鬼の面を見つけた。鬼の面があるという話は聞いていた。家宝として秘蔵されている、と。これをかぶると人の心が読める、と。さっそく鬼の面をかぶるや、坊やはそのまま家を出て、近所…

歩道の絵

かわいらしい男の子がひとり、色々な色のクレヨンを使って歩道の真新しい石畳に絵を描いている。その無邪気な瞳。折れてしまいそうな細い指。それにしても、奇妙な絵。男の胸にナイフを刺す女の絵。血の色のヘビが歩道を這っている。不思議そうに見下ろす通…

吹雪の夜に

寒い冬の夜。窓の外は吹雪(ふぶき)。でも、家の中は炬燵(こたつ)にストーブ、春のように暖かい。しみじみと幸せを感じていた。すると突然、家の屋根が吹っ飛んだ。どっと闇と雪と暴風に襲われた。照明器具もなにもかも天井ごと持っていかれた。呆気にとられ…