Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2010-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ようこそ

ようこそ ようこそパパは金持ち ママ美人弟は賢くて 妹かわいくておまけに私ときたら 狂ってるなんて素敵なマイファミリー!庭には五本脚の犬がいる屋根には三日月刺さってる玄関の扉は逆さまで廊下の真ん中 穴がある居間はプール 寝室クール台所なんか どこ…

原子力発電所の幽霊

廃墟になった原子力発電所に幽霊が出るという。昔、放射能漏れ事故により、多くの人命が失われた場所だ。「やっぱり、おまえだったのか」「ああ・・・・」「どうして幽霊に」「ああ、被曝して・・・・」「まだ怨んでいるのか」「ああ・・・・」「おまえ、なんだか幽霊ら…

鼠の檻

狭い檻の中にたくさんの鼠がいる。動かないのも動きまわっているのもいる。動かない鼠は檻の隅に丸まり 自分自身の前脚を齧っている。出血はない。すでに前脚は死んでいる。この檻の中には逃げる場所がない。檻の隅で逃げたつもりになるしかないが 動きまわ…

夜の虹

雨上がりの夜空を眺めてはいけない。夜の虹が架かっているかもしれないから。「あら、きれいな虹」「うそつけ。真夜中だぞ」「ほら、あそこ」「どこだよ。見えねえよ」「どうして見えないのよ」「おい。変だぞ、おまえ」「あんなに輝いてるのに」「透けてる…

迷い

気づかないふりをしていた。黙ってうつむいたままの君がそこにいるのに なにかに心を奪われまるで君なんかそこにいなくて昨日のことなんかもうすっかり忘れてしまって 意味のない笑みをいやらしく 横顔に浮かべながらなにも気づかないふりをしてむしろ見せつ…

不吉な声

カラスの鳴き声で眠りから覚めた。かなり近くでカラスは鳴いている。いつも私は頭を窓へ向けて寝るのだが カラスは外のベランダにいるらしい。スズメやハトならともかく なぜカラスがこんな近くにいるのか。寝たまま考えるのだが、よくわからない。眠りから…

泥棒

逃げてゆく 逃げてゆく誰か あの泥棒を 捕まえて 金庫は 破られたけど 盗まれるものなど なかったはずなんにもない 空っぽの 金庫はじめから なんにも 入ってない 真っ黒な 覆面をして 足跡も 指紋も残さず 去ってゆくあいつを 誰か 捕まえてお願い だから …

背後霊

私は背後霊である。ただし、背後霊の背後霊である。つまり、ある生者の背後に背後霊がいて その背後霊の背後に私がいるのである。ゆえに私は背後霊の背後霊なのである。生者が自分の背後霊に気づかないように 背後霊も自分の背後霊に気づかない。理屈はよく…

四季

ねえさんは 街で春を売ります。にいさんは 海で夏と遊びます。いもうとは 野で秋をひろいます。おとうとは 山で冬に抱かれます。 なにが楽しいというのでしょう。 なにが悲しいというのでしょう。 いつも季節は めぐるばかりです。 「ゆっくり生きる」haruさ…

勃木

父が怖くてしかたなかった。 酔ってない父の顔をあたしは思い出せない。 あたしと弟は毎日のように殴られていた。母だって信じられなかった。謝ったり泣いたりするだけの女だった。なぜ父と別れないのか不思議でならなかった。だから、あたしは弟を連れて家…

空の手ざわり

視界の下半分に大空が広がり 私は雲ひとつない青い空を歩いている。 視界の上半分を大地が覆い 私の頭上、逆さまになって浮いている。 遠い山があり、近くには家もある。 近くといっても、とても高い。 いくら飛び跳ねても手は届かない。 あんなに高くて、し…

幽霊の診察

次の患者は幽霊だった。「先生、どうも具合が悪くて・・・・」若いナースが床に倒れた。どうやら気絶したらしい。悲鳴をあげ、みんな逃げ出した。だが、私は医者だ。患者を見捨てて逃げるわけにはいかない。それに、腰が抜けて立てないのだ。おそるおそる幽霊の…

なくした顔

顔をなくして しまったの。 どこかに落として しまったの。 さがしたけれど 見つからないの。 こまってしまって 泣きたいの。 でも 顔がないから 泣けないの。 あんたの言葉 思い出すの。 「おまえの顔なんか 見たくない」 あんまりだなって 思ったけど そん…

拷問

おそれおおくも王様の命令である。素直に白状しろ。いやか。ほほう、そうか。ならば、これより拷問をおこなう。まず、こいつの婚約者を連れて来い。来たか。おお、なんと美しい!さっそく裸にしろ。やれ、かまわん。こいつの目の前でうんと辱めてやれ。そう…

夜が笑う

弓なりに月が裂け、ニヤリと夜が笑う。 鳴く猫の気持ちが今宵は犬にもわかる。闇に浮かぶ街灯の下、少女が泣いている。鬼に見つけてもらえなかったかくれんぼ。靴を片方なくして少女は家に帰れない。街灯に群がる蛾の羽ばたきを真似て路地裏の闇から手品師が…

肝試し

学校で肝試しをすることになった。この夏に転校してきたばかりなので 同級生に臆病者と思われたくなかった。夜、ひとり校門を出て裏山に登った。山寺の墓場があり、その一番奥に 大きな地蔵が立っているはずだった。暗くて足もともわからなかったが それらし…

光の雪

光の雪が おりてくる光の雪が おりてくる 冷たくもなく 温かくもないそんな 光の雪が君の肩に 降りつもる きらきら さらさら 光の雪が 降りつもる 「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった!…

仙女の泉

ある山の麓(ふもと)に泉があった。ただの泉ではなかった。湧き出る水を飲めばどんな病気でも治る。そういわれていた。仙人も山から飲みにおりてくる。そんな言い伝えさえあるほどだった。「けほん、けほん、けほん」ある晩、山の仙女(せんにょ)が麓までおり…