Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

焚火の輪

宵闇に焚火が燃えている。そのまわりを村人たちが囲み 歪んだ大きな人の輪になっている。炎の上には巨大な鍋がぶら下がっている。鍋の中に何が入っているのか ここからでは見えない。さらに、その鍋を覆うように櫓が組まれ 裸の若い衆が祭り太鼓を叩いている…

踊り場の犬

巨大な百貨店を遵想させる建物。その内部。なぜこんな場所にいるのかわからない。そもそも商品が陳列されてない。エスカレーターもエレベーターもない。百貨店を連想した自分自身がわからなかった。しかしながら階段はあった。とりあえず下りてみよう。すぐ…

君に夢中

君は、人間じゃない。だから女でもない。ただし、化けることはできる。近所のお姉ちゃんにも世界的なJazzシンガーにも。 いつもは角砂糖。 たまに抱き枕。 気が向くと 駅前交差点で ティッシュを配ってる。 他人のフリするのが得意。 泣くのが不得意。そう言…

恐ろしい夢

そこで目が覚めた。夢だったのだ。とにかく恐ろしい夢だった。まだ心臓がバクバクしている。だが、どんな夢だったのか、思い出せない。どうしても思い出せないのだ。はて? どうして思い出せないのだろう? 思い出したくないからだろうか。うん、まあそうだ…

おしゃべりな花

路傍に咲く可憐な花だった。「お願い。あたしを摘んで」そうつぶやいたような気がした。根こそぎ抜き、家に持ち帰った。すぐに小さな鉢に植えてやった。「ありがとう。救われたわ」可憐な声で花がしゃべった。「あそこ、土ぼこりがひどかったの」その花には…

大猫の町

ああ、大変! 小猫に餌をやったら大猫になっちゃった。家の塀を壊して大猫は町に飛び出した。町の人たちを追いかけ、爪で引っかき、踏みつぷし、半殺しのまま食べてしまう。児童公園のジャングルジムの上に逃げても近所の友だちのアパートに逃げても大猫に狙…

踊る人形

真夜中の棚の上こっそり踊るは お古の人形 よい人形小首かしげてかかとをトン トントントントン ふり向いたおめめ合ったら遊びましょ 「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった! Dancing Doll…

散りゆかば

散りゆかば 朱色(あけいろ) 絶えて 葉は緑 やがて実りて 豊穣(ほうじょう)となす 元「koebu」yayaさんが演じてくださった! If the Flowers FallIf the flowers fallVermilion is gone The leaves are greenEventually it will be fruitfulBecome a good har…

黄土色の雪

昨夜ひっそり雪が降ったため 舗装道路は滑りやすくなっている。坂道の途中ではなおさらだ。しばらく目の前を歩いていた婦人を 今やっと追い越したばかり。積雪が奇妙な黄土色をしていたので 屈んで少し掻き集めてみた。ヌルヌルしていて全然雪らしくない。柔…

遠隔操作

諸君、聞いてくれ。我々は未知の何者かによって遠隔操作されているのだ。似たような夢を見るのも、その一つ。同じ考えに囚われ続け 他の考えが浮かばないのも、その一つ。そういう考えは馬鹿げている と判断するのも、やはりそうだ。本来、もっと自由である…

映画館の噴水

高層ビルの地下にある映画館。スクリーンには裸婦の背中が映っている。その女の顔の前には裸の男の腰がある。どうやら成人映画のようだ。上映が終わり、館内が明るくなる。他人に顔を見られるのが恥ずかしい。席を立ち、トイレに向かう。我慢していたつもり…

永遠の球根

やらなければならないんだ。損とか得とか、そんな低次元の話じゃない。仲間が死んでも、その恋人が泣いても皆から非難され軽蔑されてもそんなこと関係ない! 比べられないんだ。絶対にやり遂げねばならないことなんだ。これは永遠に引き継がれるべき問題。数…

麗しき楽団

その楽団の団員はみめ麗しき美女ばかり。見ているだけで得した気分。聴けばもっと得をする。さて本日は、森の広場で演奏会。招待客は小鳥や小鹿、リスや蝶。そして勿論、あなたもね。手作り楽器に即興曲。譜面を見つめる真摯な瞳。揺れる髪と花飾り。端正な…

海の墓場

海の底にいるのに息は苦しくない。おそらくエラ呼吸でもしているのだろうよ。エラがあるかどうかは知らないがな。おれは難破船と難破船に挟まれて身動きできない。すでに物心ついた頃から挟まれていた。いつ物心がついたのか忘れたがな。ここは日光さえ届か…

海の魚

なぜか海中に潜っている。ぼんやりとした淡い光に包まれ 気ままに泳ぐ魚たちの姿を眺めている。呼吸装置を使わなくても息は苦しくない。なぜか両手にナイフを持っている。これを振りまわし、泳ぐ魚を切りまくる。残酷な行為。でも、あまり気にしない。むしろ…

腕相撲

見知らぬ女の子が笑っている。「ねえ、腕相撲しようよ」断る理由が見つからない。向かい合ってテーブルに肘をつく。互いの手と手を組んで構える。彼女の小さな手。腕も細い。どう考えても勝負は見えている。「こっちは二本指でやる」僕は薬指と小指の二本だ…

うつむく少女

画面中央には美少女らしき人物を置きたい。今にも消え入りそうな憂いを含んだ暗めな表情。たとえ顔は見えずとも、ポーズで表現させる。破れた白いドレス。薄い肩と幼い胸が見える。背景は藍色の夜空。少し欠けたばかりの月を浮かばせようか。満月にしてしま…

美しい髪

その昔、たいそう美しい髪の女がおりました。流れるごとく滑らかな黒髪だったそうです。「そなたの髪は天の川より美しい!」などと人々は褒めそやすのでした。ところが、この女は若くして亡くなりました。その長く美しい髪をみずから切り それを結んでつない…

薄暗い部屋

夕暮れの薄暗い畳の部屋で自殺したはずの作家に組み敷かれている。異常な性格であるという彼の噂を思い出す。私は敷布団の上に仰向けのまま彼の顔を両手て挟むように押さえている。彼の首をねじ曲げようとしているのだ。いやな臭いがする。彼に対する嫌悪感…

歌姫

古き良き音楽の都。ここで歌姫は美しい産声(うぶごえ)をあげた。父は骨董品の蓄音機。母は由緒あるパイプオルガン。教会の鐘の音に合わせて泣いたとか。鳥が集まるため、生家は鳥屋敷と呼ばれた。幼い歌姫の声に呼び寄せられたのだ。近所の子どもにいじめら…

隕石

長年の苦労が報われる瞬間であった。「この瞬間のために生きてきた」そう言っても過言ではない。幼い頃からの夢が実現する。探し求めていた真実が見つかる。または命懸けの恋がついに結ばれる。生涯をかけた事業が実を結ぶ。あるいは諦めていた愛しい人に再…

白い旗と黒い服

巨大な岩の上は平らだった。多くの観光客が右往左往している。白い旗を持った女が喋っていた。「このすぐ下には死体置き場があります」どうやら観光案内のようだ。「ですから、下に落ちると死体になるのです」妙な説明だ。ガイドの見習いかもしれない。「皆…

壁の凹み

洞窟を利用して築かれた寺院がある。奥の壁には古代文字らしきものが刻まれ、ところどころに凹みがあり、何事か意味のありそうな気配を漂わせつつ様々な供え物がはめ込まれている。ある物は猿のヘソの緒であったり、また別のある物は髪飾りであったりする。…

イルカの曲芸

イルカなのだが、海イルカではなかった。川イルカでもなくて、陸イルカ。海を泳ぐのが、海イルカ。川を泳ぐのが、川イルカ。そして陸を歩くのが、陸イルカなのだ。スラリと二本脚で立っている。正面から見れば人と区別できない。ただし、背中に大きな背ビレ…

犬のコンテスト

前の大統領は革命軍に拉致され 今の大統領によって銃殺された。その今の大統領にしても やがて反乱軍によって拉致され 次の大統領によって銃殺される と、予想されている。それはさておき 当面の問題は政治なんかではない。昨日の朝、飼い犬が死んでしまった…

犬に噛まれて

工事途中のプレハブ住宅のような建物。開いた玄関から外の景色が見える。奥に道があり、大きな黒い犬が 歩きながら興味深くこちらを眺めている。あんなのに入られては大変だ。ところが、あいにく玄関には扉がない。ともかく入り口を塞ぐべきだろう。建物の中…

いらない少年

その家庭において少年は、自分が 必要とされていない人間だと感じていた。もしも今、自分がいなくなれば この家庭はもっと明るくなり もっと快適な状態になるに違いない。そんな気がするのだった。自分は家族の誰にも愛されていない。いらない子どもなのだ、…

雨宿り

急に雨が降ってきた。窓辺で雨音を聴いていると見知らぬ女が軒下に駆け込んできた。雨宿りだな、と思った。庭も垣根もなく、軒下があるだけ。雨宿りに都合いいのだ。「お嬢さん、家の中に入りませんか」窓から首を出し、誘ってみた。若い女は笑顔でこたえた…

帰りたくないの

その女の髪には花が飾ってある。造花ではなく、本物の花。切り花ではない。頭に生えているのだ。花蜜に誘われ、蝶や蜂が寄って来る。そして、花粉にまみれて飛んで行く。「今夜、帰りたくないの」花弁に似た唇が囁く。「わかるでしょ?」その手相は、まるで…

反抗期

愛なんか知らない。神様なんか関係ない。学校なんか言い訳さ。家庭なんかタテマエさ。他人の殺人事件には興味ない。冒険らしい冒険ほど退屈なものはない。いかにもの謎なんか、解きたくもない。ありふれた夢なんか、見たくもない。幽霊が現れたら怖そうだけ…