Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

不思議な話

変換ソフト

ここに変換ソフトがある。まだ明確な実体はない。それに現物をば入れると なにやら変換されて出てくる。たとえば、虚礼の年賀状なんぞは おそれ多い喪中はがきとして出てくる。取扱説明書は遺言書となり 変な女は立派な紳士に生まれ変わる。便利か迷惑か、一…

レンズ池

> 村のはずれに池があった。 あまり大きくはなく、丸い池だった。 皆からレンズ池と呼ばれていた。 レンズ池の底はおそろしく深かった。 水は澄んでいるのに 覗いても水の底は見えないのだった。 不思議な池だった。 虫や魚は一匹もいなかった。 いつ見ても…

ピンポンダッシュの怪

「ピンポーン」眠っていると、呼び鈴に起こされる。 玄関ドアを開けると、誰もいない。いわゆるピンポンダッシュ。頻繁にやられるので頭にきていた。そして、今朝もやられた。ところが、どうも変なのだ。「ガチッ」呼び鈴の音が違う。今の呼び鈴を修理する前…

星めぐり

まだ夜明け前だった。二階の窓から出て小屋根を渡り はしごをのぼって大屋根の上にあがった。きれいな流星の雨が降っていた。「宇宙旅行をしたい」願い事を三回つぶやいてみた。すると、一つの流星の軌道が曲がった。白い光の玉がだんだん大きくなる。身動き…

手抜き手袋

通販で指抜き手袋を注文したところ 妙なものが届いた。パッケージには「手抜き手袋」とある。手袋から手の部分を抜いたら 手首の部分しか残らない気がする。いくらなんでも言葉遊びで「袋」だけ ということはあるまい。ところが、それは文字通り まさに「袋…

定消日

本を借りようと出かけたら あいにく図書館が消えていた。(そうか。今日は月曜日か)月曜日は図書館の定消日だった。もともとは定休日だったのが 建物ごと消えるから定消日と呼ぶようになったのだ。図書館があった場所は児童公園になっていた。それらしいブ…

もしもし

あなたに 呼びかけています 今 これを読んでいらっしゃる あなたに あなたは ひょっとしたら 空を飛べるかもしれませんよ だって ほら これは 夢なんですから じつは今 あなたは眠っていて 夢を見ているのですよ これを読んでいる夢です 信じられないでしょ…

秘密の通路

「ここからあたしんちへ行くにはね この通路を抜けるのが近道なんだよ」下校途中、あかねちゃんが言う。「えっ? それっておかしいよ。だって あかねちゃんち、この道をまっすぐのところじゃん」ぼくは算数の図形の話をしたくなる。「そう思うでしょ? でも…

タイム箪笥

ある独居老人が行方不明となり その家の古いt箪笥(たんす)の中から赤ん坊が発見された。その赤ん坊がどうなったかは知らないが 問題の箪笥は今、私の持ち物になっている。「片付け屋」とも呼ばれる遺品整理業者からの流れ物。いわゆる孤独死の汚部屋の遺品…

見えてる少年

その少年には見えてしまうのだ。あやまって普通の人たちが侵入しないよう 選ばれし我々が苦労して隠しておいた秘密の入り口 あれを彼は見つけてしまった。さらに、そこから延々と続く迷路難所を通り抜け こんな奥深く、我々のいる秘所まで到達してしまった。…

謎の博物館

その博物館へは家から歩いて行ける。なのに、なかなか辿り着けない。それほど遠い距離にあるわけではない。最初、散歩の途中で見つけたのだ。こんなありそうもないような場所に まさか博物館があるとは思わなかった。その時、あいにく財布を持っていなかった…

マンモスの坂道

布団に入ったものの眠れずにウトウトしていたら 真夜中、地響きとともに妙な音が聞こえてきた。住んでるマンションの前は急な坂道なのだが そこを何か非常に重いものが通過している気配。大型トラックが通る音とはとても思えない。たとえようのない変な音だ…

狐の神輿

ワッショイ ワッショイ みこしが通る ワッショイ ワッショイ きつねも通る 笛太鼓の音頭とともに 町内会の神輿が家の前の通りを通る。ゆっくり走行するお囃子のトラックの後に 大人神輿と子ども神輿、および父兄の集団が続く。その前後左右には町内会の役員…

小人の頭

庭で草を刈っていたら うっかり小人の首まで刈ってしまった。「いやあ、ごめんごめん」私は素直に謝る。「まったく、気をつけてもらわなきゃ困るな」「だって君たちときたら、あまりにも小さいんだもん」「ふん。そっちが大き過ぎるんだよ」小人は自分の頭を…

細長い廊下

あなたの目の前に扉がある。実際には、そんなものないだろうけど とりあえず、扉があるものとする。あなたは、その扉を開く。扉の材質や形状は問わない。両開きでも片開きでもかまわない。引いても押してもあなたの自由だ。すると、細長い廊下がまっすぐ延び…

読んではいけない本

お父さんの書斎には大きな本棚がいくつもあって たくさんの本が数え切れないほど並んでいる。どれでも僕が勝手に読んで構わないことになっているんだけど ただ一冊だけ、僕が読んではいけない本がある。それは本棚の一番高いところにあって ナンバーキーが付…

余計な家具

独り暮らしだが、目が覚めると余計な家具が増えている。家の中のどこかに勝手に家具が増えるのである。ひどい時など、ちゃんと起きているのに 振り向いたら、そこに見知らぬソファーがあった。困って警察に連絡したところ 「盗難でなければ対応できませんね…

聞き違い

不思議な現象があるものだ。僕が「好き」と言うと 彼女には「きらい」と聞こえるらしい。調べてみたら、なるほど そういう聞き違いやすい発音があるのだそうだ。たとえば、人によって「トッタノカヨ」が「エーアイアイ」に聞こえる。または、犬の鳴き声「ワ…

迷惑な騒音

掘削機で岩盤を蹴散らされるみたいに起こされた。ものすごい騒音だった。近所で土木工事でもやっているのだろう。寝ぼけ眼で時計を見る。非常識な時間帯とは言えない。しかし、うるさい。とても眠っていられない。顔を洗って歯を磨いてトイレに入る。出して…

雪原の足跡

ひとり雪原を歩いていた。目印になるものは何もなかった。山も人家も見えず、一本の木さえない。陽の位置すらつかめぬ灰色の空。まったく何もない世界。色すらない。「おーい、誰かいないかー!」返事はなかった。木霊すら帰って来ない。ひとりぼっち。風す…

大きな犬小屋

とても大きな犬小屋がありました。小屋とは呼べないくらい 大きくてその中に 庭があるほどでした。人の住む家も たくさんありました。川まで しっかり流れています。山だって 立派にそびえています。犬は? もちろんいます! ちゃんと 冬の南の夜空に 輝いて…

白い仔馬

大晦日(おおみそか)の夜、白い仔馬(こうま)が 村にやって来ました。とても不思議な 仔馬でした。わた雪のたてがみ、氷柱(つらら)の脚、雹(ひょう)の目、そして 雪紐(ゆきひも)の尻尾をふり、吹雪(ふぶき)のように駆けるのでした。仔馬は 小さな村を ぐるぐる…

気まぐれな運命

人生に絶望して 踏切に飛び込んだら なぜか不意に 目の前で電車が脱線した。そのため 線路上の僕は助かり、遮断機の前で 律儀に待っていた人たちは 迫り来る車両を 避け切れずに みんな亡くなってしまった。元「koebu」yayaさんが演じてくださった!Whimsica…

お帰りなさい

留守宅かと思い、泥棒に入ったら 女がいた。「お帰りなさい」そのように挨拶されたら やはり、こう返事せねばなるまい。「ただいま」そうして なぜかそれから 流れるように 夫婦生活が始まってしまった。元「koebu」舞坂うさもさんが演じてくださった!Welco…

待ち合わせ

恋人と待ち合わせていた。だが、なかなか姿を現さない。さすがに待ちくたびれてきた。(まさか忘れたわけじゃ・・・)ほとんど諦めかけた頃、ようやく出現した。「ごめんなさい!」「まったく、遅すぎるよ」「だって、仕事が忙しくて・・・」彼女の職業は死神だ。…

朝日の外で

辺鄙(へんぴ)なところにあるためけっして朝の訪れることのない村があってそこでは鶏(にわとり)も時を告げない。そのため突然のように昼が始まり 不意打ちのように昼が終わる。あとはただ眠るしかすることのない漆黒(しっこく)の闇の夜があるばかりである。 …

理想の鏡

どこか誰も知らないところに理想の鏡があるという。理想の鏡はふたつあり、「異性の鏡」と「同性の鏡」があるという。「異性の鏡」の前に立てば、異性の姿が映る。あなた自身のはずなのに、なぜか異性の姿。しかも、あなたにとって理想の異性。あなたは鏡に…

縫い目

じつに裁縫の上手な女だ。衣類、寝具、バッグ、ぬいぐるみ・・・・彼女はどんなものでも縫える。いつも糸と針を持ち歩いている。これがなかなか役に立つ。服のボタンの修理だけではない。裂けた革靴の修理さえできる。ストッキングの伝線だって平気。刺繍の模様…

日記

今日の日記を書く。ほらね。また昨日に戻ってしまった。不思議。理解できない。今日は昨日と同じ。昨日は今日と同じ。夜が明けても明日にならない。そっくりな一日の繰り返し。もう限界。誰か助けて! 昨日の日記を読み返す。ほらね。また同じこと書いてある…

トロッコ

一台のトロッコに男三人が乗っている。そのうちの一人が俺だ。目の前の二人は裸で抱き合っている。たくましい筋肉。日に焼け、汗ばんだ皮膚。片方の男と視線が合ってしまう。ひどく暑いはずなのに寒気がした。「俺に触れるなよ」一言注意しておく。「もし触…