Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

涙は・・・・

涙は 君のために 僕が作ってあげられる 世界で一番小さな 海です 寺山修司「なみだは にんげんのつくることのできる いちばん小さな 海です」のアレンジ。「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださった!元「koebu」田辺千鶴さんが歌ってくださった! T…

美女の食堂

誰かと一緒だったような気がする。あの夜、ひとりではなかったはずだ。空腹でもないのに食堂に入った。かなり酔っていたらしい。「美女の舌びらめのムニエルをくれ」ほんの冗談のつもりだった。美しいウェイトレスだったから。「はい。かしこまりました」な…

崩落の響き

三年前の冬、雪山でなだれに襲われた。悪夢のような崩落の響き。僕は奇跡的に助かった。しかし、恋人は死んでしまった。なぜそうなったのかわからない。あれから僕は登山をやめた。今、新しい恋人が僕の横で眠っている。やすらかに幸せそうに眠っている。雪…

突然の舞台

拍手に迎えられ、舞台に立った。埋めつくされた客席。期待のまなざし。やけに照明がまぶしい。司会者はいなかった。案内をしてくれる人も。頭の中が真っ白だった。何も思い出せなかった。「あの、私は何をすればいいのでしょうか?」この質問は大いにウケた…

赤い花

かつて 地の果ての 戦場で見た その草は 雨水では 育たないのだ 血を 与えなければ 枯れてしまう それも 人の血 でなければ 夏の終わりに 一輪の花が 咲く その脈打つような 血色の 花弁 ちょっと 掘りおこして みたくなる そんな赤い花が もしも 咲いていた…

深海魚

深く暗い 海の底 恐ろしい水圧に耐え すっかり眼は退化して あまりに恥知らずな その姿醜い 醜い 深海魚 それでも生きてる 死にたくない寂しい 寂しい 深海魚 誰も知らない隠れ家は 沈没した 豪華客船 難破船 王冠 腕輪で飾っても どうせ誰も見てくれぬ 季節…

夏草の宿

そこは海辺のようであった。または山奥のようでもあった。どちらでもないような またはどちらでもあるような・・・・ あやしげな表札があった。何が書かれてあるのかわからない。表札かどうかもあやしかった。でも、泊まれるはずだと思った。根拠など何もないの…

戦いの印象

長い長い戦いが続いた結果としてほとんど人の言葉が話せなくなり、獣の鳴き声しか出せなくなった仲間たち。銃弾に傷めつけられた穴だらけの家を敵が中まで侵入してこないように男たちが寝ずの番をしている。ただし、もう敵は一人しか生き残っていない。マシ…

化石の町

化石の町には 化石の民(たみ)が住み 生きた化石として 地層に埋もれている 化石の公園には 化石の花が咲き 琥珀(こはく)の虫が 砂の花粉を運んでいる化石の少女が 太古の夢を見ても 楽しい思い出は すでに風化しているあなたが化石の町に もしも迷い込んだら…

遠い海の深い底

遠い海の 深い底 貝の中の 綺麗な真珠 真珠の中の 眠れる少女波に揺れる 月の杯 「飛べないかもめは かわいそう」 媚(こび)を売るのは クラゲの娘 「飛べるかもめは つまんない」 憂鬱(ゆううつ)に笑う ヒトデの息子夜空に浮かぶ 星座の帆船(はんせん) 星の…

時の墓場

夜 眠れなくて 目覚まし時計の 時を刻む音が 闇に響く どうしても 眠れなくて 目覚まし時計を 押入れの中に 放り込む このまま 眠ってしまえば 押入れの中は 闇に葬られた 時の墓場 元「koebu」yukinekoさんが演じてくださった!白い悪魔さんが動画にしてく…

毒りんご

闇にひそむ魔女は 呪文を唱える 醜い老婆 頭蓋骨の割れ鍋で グツグツ煮ては ニタニタ笑う コウモリの羽 トカゲの尻尾 処女の唾液 黒猫の腋毛 血に汚れた 札束 商人の 二枚舌 ドクロの杖で かきまわし 煮汁を塗れば 毒りんご 舐めれば 生きて腐り 食べれば 腐…

天女の嘆き

天女の衣(ころも) やぶれはて悲しい思い出 砂の数叶(かな)わぬ願い 星の数鬼の角(つの)に 帯かけて 松葉みたく ゆれましょか 元「koebu」yayaさんが演じてくださった! Heavenly Maiden's Lament The clothes of heavenly maiden are broken There are as ma…

最後の一葉

病室の窓から大きなイチョウの木が見える。窓辺に座ってスケッチブックを開き 鉛筆で写生を始める。太い幹を描く。細い枝を描く。 一枚一枚、葉を描く。それから水彩絵の具で彩色する。幹を塗る。枝を塗る。 一枚一枚、葉っぱを塗る。まだ秋になったばかりな…

美女との遭遇

これは実話なのだけれど 僕が高校を卒業して上京したばかりの頃 ある電車に乗ったら、信じられないくらいの美女を見つけた。ふと気づけば 彼女の目の前のシートに腰掛けている自分がいた。いくら一目惚れでも 見知らぬ他人に声をかける勇気はない。そうなの…

夜が泣く

いまにも泣きそうな 本当に泣いてしまいそうな そんな夜がある。みんなが楽しそうでも いくら君が笑わせようとしても なおさら泣けてくる。そんなやるせない どうしようもない もう泣くしかないような そんな夜がある。 「ゆっくり生きる」はるさんが動画に…

三人の妻

深夜に帰宅すると 妻が一人になっていた。「あなた、おかえりなさい」三人の妻の声がひとつに重なって聞こえた。その女は三人の妻の誰でもなかった。だが、三人の妻の誰とも似ていた。「誰だ、おまえは?」「あなた、また酔ってるのね」たしかに酒は飲んでい…

拒絶

あんたなんか あんたなんか 見たくない 聞きたくない 考えたくない もう知らない やめてよ あっちへ行って まったく どういうつもり それ以上 近寄らないで いいかげんにしてよ もう 昔は そんなじゃなかった どうして 変わっちゃったの だから 抱きつかない…

まどろみ

名も知らぬ 森の奥にひっそりと 身を横たえる湖の 緑の水面さながらに 静かに眠れる幼子の 夢見る愛しい横顔を ただぼんやりと 眺めているだけでああ なんだかもう 死んでいるよな いないよな 生きているよな いないよな そんなこと もうどうでもよい とそん…

夜の静物画

枝に串刺しの 月明かり 蔓草(つるくさ)に縛られた 石像の両腕 それら群像に 首はない 荒れ果てた庭園 泥沼の池 亡霊も凍る 崩れ果てた宮殿 金獅子(きんじし)の紋章は 王家の末裔(まつえい)か 屋根の上の まわりもせぬ風見鶏(かざみどり) 朽ちた階段 落ちた手…

美しい女

美女が哀願するのである。その美しい瞳を潤ませて。その美しい唇を震わせて。「わたし、もっと美しくなりたいの」美しい声だ。聞き惚れてしまう。「わかりませんね。あなたはとても・・・・」「ええ、そうなんです。美しいのです」ますますわけがわからない。「…

爪痕の残る

暴風 豪雨 嵐の如く 君過ぎて 首に 背中に 脇腹に 深く 鋭く 爪痕の残る 「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!元「koebu」藍猫 雪姫花さんが演じてくださった! Scars RemainWindstormHeavy rainAs a stormYou are overOn the neckOn my back…

パントマイム

「お客様のご要望なら、どのような演題でも パントマイムで完璧に演じてみせましょう」そのように豪語する美しき女芸人が あなたの目の前の舞台の上に立っている。その小劇場の観客の一人であるあなたは 彼女にやってもらいたいパントマイムの演題を まるで…

泥棒会社

これは雑誌で読んだ実話なのだが泥棒会社があったのだそうだ。事務所があり、社長がいて、社員がいて表向きは平凡な会社を装っているが彼らは泥棒して稼いだ利益によって給料を得ていた。泥棒という手段による会社の運営にはやらなければならないことがたく…

断頭台

執行人に綱を引かれ、俺は進み出た。刑場の観衆は待ちくたびれていた。眼前には二本の柱が直立している。見上げると刃先が斜めに垂れている。首穴に頭を押し込まれ、うつ伏せのまま架台に縛られた。鼻先には編み籠が置かれてある。処刑の準備は整ったわけだ…

ギャンブラー

一般に、男はギャンブル好きである。そして、ギャンブル好きの男は女好きである。なぜなら、女そのものがギャンブルだから。その男は天性のギャンブラーだった。ジャンケンでもなんでも負け知らず。苦もなく若くして巨万の富を築いた。この男、ある女に恋を…

あいつ

あいつは、とんでもない奴だ。ずっと昔からいたみたいな顔して不意に目の前に現れる。あんまりまともな人物とは思えない。あいつ、そもそも服装がなってない。今回は、まあ普通の格好みたいだが下着姿だったり、裸の場合も多い。まれに恥ずかしがったりもす…

悪魔の子

両親は心中した。その子を残して。遺書はなかった。その子が燃やしたから。ふたりの大人を死に追いやったのだ。その幼い子が。かわいらしい子だった。絶望させるくらいに。両親は奴隷でしかなかった。あわれなことに。「パパもママも、きらい」ちょっとすね…

五つのゲーム

なんでもないことなんだけど私は女の子か男の子かよくわからない。よくわからないまま私は、とりあえず隣町の女の子だけの学校に通っている。もうひとり、私の友だちで、やっぱり女の子か男の子かよくわからない子がいてその子と私で、どちらか女の子っぽい…

霊園通り

深夜、彼女を荷台に乗せて僕は自転車のペダルを漕いでいた。道沿いに高い塀が延々と続いているのはそこに大きな霊園があるからだ。「ここよ。この通りで人が消えるの」彼女の声は震えていた。タクシーに乗った乗客が必ずこの霊園通りで消えるというのだ。た…