Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2010-11-01から1ヶ月間の記事一覧

闇の隠者

窓を開けたまま眠ると 真夜中、あいつに襲われる。あいつは、するりと部屋に侵入する。あいつは、ふとんの中まで入ってくる。抱きつかれてから気づくのだ。「なんだ。おまえは何者だ」「闇の隠者とでも呼べ」「なにをするつもりなのだ」「なにもしない」「抱…

抜け殻

あちこちに抜け殻が落ちている。注意しなければ抜け殻とは気づかない。壁に向かって立っていたりする。石段の途中に腰かけていたりする。まったく動かないのが特徴のひとつだ。手で触れてみれば誰でも気づく。紙風船のように簡単につぶれてしまうから。無邪…

ロレロ霊歌

キドラ辺境惑星における伝統音楽はいたるところに存在するにもかかわらず同時に見つけるのが困難とされている。ロレロと呼ばれる宗教的な期間に年配者が若者に伝説を語る風習がありそこで歌われるのがロレロ霊歌である。現在では霊的なものは失われてしまっ…

血のつながり

いまわの際の枕元に娘を呼んだ。「もっとこっちへ」「はい。お父さん」「なあ、おまえ」「はい」「いい女になったな」「いやだわ。お父さんたら」「おまえに話しておくことがあるんだ」「なにかしら。お父さん」「じつはな」「はい」「おまえは、わしの本当…

人形の舞踏会

華やかな衣装を身にまとい端正な顔に美しく化粧をほどこして世界中から集まった人形たち 麗しき人形 美しき人形 きれいな人形 かわいい人形 愉快な人形 良い人形とても愛らしい小さな貴婦人たちもっとも等身大のマネキンだっているけど人形たちの素敵な舞踏…

大丈夫?

都会の空はギザギザに切り抜かれている。さも軽蔑するかのように見下ろす高層ビル群。奴らから見れば、おれたちは地面を這う蟻か。最初、それは高層ビルが吐き捨てたツバのようだった。なにか真上から落ちてくるのに気づいたのだ。ぶつかる瞬間にそれが女だ…

湖の雪

湖に浮かんでいたら雪が降ってきちゃった白くてふわふわして夢みたいでとってもきれいだったあんなに濁った空なのにこんなに白い雪湖に浮かんでいてもあったかいよ元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった!Snow on the LakeIf I floated on the …

落ちてた少年

少年が道端に落ちていたのでとりあえず拾ってきちゃった。「ほら、なんか喋ってごらん」「おねえさん、きれいだね」へえ、よくしつけられてるじゃない。「おまえ、捨てられたの? 飼い主は?」「・・・・死んじゃった」いいねいいね。泣かせるね。「おまえ、おな…

月夜の兎狩り

だから僕は反対したんだ。月夜に兎狩りだなんてまさに狂気の沙汰だよってね。それなのに無鉄砲な君は猟銃なんか担いじゃって平気な顔をして家を出たんだ。藍色の嘘っぽい夜空に山より大きな三日月が昇ってゲラゲラゲラゲラ笑ってたっけ。君は月の光にあてら…

監獄の穴

毎日、少しずつ、床下に穴を掘ったものだ。それは監獄から脱出するための穴。よく掘ったものだと、われながら感心する。苦労の末、ようやく脱獄できたわけだ。けれど、外に出たら、もう穴を掘る気はしない。当然だ。なぜなら、穴を掘る意味がない。いくら褒…

鏡の回廊

貴婦人が鏡の回廊を渡っておられました。鏡の回廊の左右の壁には珍しい鏡がいくつもいくつも飾ってありました。ある鏡には、上品なドレス姿の貴婦人がその麗(うるわ)しき横顔とともに映りました。別の鏡には、夢見る表情の貴婦人が裸で歩いておられる姿が映…

浮かぶ穴

夕暮れの冬の空中に穴があった。大人の腰くらいの高さに穴は浮かんでいた。腹を空かせた家出少年が路地裏で見つけたのだ。空中に浮かぶ穴など少年は知らなかった。(食べ物があるかもしれない)少年はやせた片腕をのばした。穴の中にはなにもなく、空っぽだ…

魚眼石

なんと美しい宝石でしょう。ほら、よくごらんなさい。小さな魚が泳いでいますね。石の中に閉じ込められた魚です。もちろん生きています。優雅な姿ではありませんか。もっとよくごらんなさい。この魚の眼は石なのです。美しいではありませんか。これより美し…

探しもの

最初、ひとりで探していたんだ。「なにを探してるの?」「大切なもの。うまく言えないけど」「それって、見つかりそう?」「わからない。難しいだろうね」「ふたりで探したらどうかしら」「君、一緒に探してくれるの?」「うん、いいわよ」それで、ふたりで…

水面の神話

まず最初に水面があった。それは厚さのない鏡であった。水面には表裏の区別はなく そこに姿を映す者はいなかった。音も光もなんにも存在しないので やがて水面はいたたまれなくなった。わだかまりが生まれ 悶え、歪み、乱れ ついに水面に波紋が広がった。限…

妖精の畑

裏山の畑に妖精が生えた。トンボの羽、ハチドリの口、リスの尻尾。妖精でないとしても、野菜でもない。畝(うね)にきちんと並んで生えていた。ニンジンの種を蒔いたはずなのに。「どれ。一本、食べてみるか」引き抜くと、妖精は悲鳴をあげた。根元から赤い雫(…

蝶の沖合

濡れた靴下を脱ぎ捨てて波に揺れる夕暮れの海面をひたひたと裸足で歩いていたら まるで霧に包まれたように無数の蝶の群に囲まれてしまった。こんな遥か沖合まであたりまえのような顔をして歩いてきたりしてはいけなかったのだ。途中で沈むとか溺れるとかせめ…

醜い蛙

お城の近くにおばさんが住んでいました。ひとり暮らしのおばさんは なぜか一匹の蛙を飼っていました。とても醜い蛙でしたが それでも喜んで飼っていました。おばさんは冗談好きでした。「魔法で蛙にされた王子様なのよ」もちろん誰も信じてくれませんが おば…

とかげ

ある不毛の大地に一匹のとかげがいる。とかげの目の前にも一匹のとかげがいる。すぐ後ろにもやはり一匹のとかげがいる。このことはどのとかげについても言える。とかげによるそのような列が実在する。とかげの列は前方に果てしなく続く。とかげの列は後方に…

無視されて

なんとか車道を横断することに成功した。と思ったら、歩道で男にぶつかった。「ちぇっ、ついてねえな」唾を吐き捨て、そのまま男は歩み去ろうとする。「おい。それはないだろ」声をかけたが、男は振り向きもしない。またか。ため息が出てしまう。また無視さ…

寝顔

そこは不思議なところです。柔らかな白い絹のような地面がどこまでも果てしなく広がっていてしかも、その上のいたるところにうつ伏せになったり 仰向けになったりドレスを着たり ほとんど裸だったりいろいろな様子をした女の子たちがおもいおもいに眠ってい…

虫籠の虫

たくさんの虫を飼っていた。でも、みんな坊ちゃんに殺された。竹細工の虫籠ごと踏み潰されてしまった。私の兄の大切な形見だった虫籠。虫の好きな私のために兄が作ってくれた。それを坊ちゃんが壊してしまった。あの坊ちゃんの目が忘れられない。血走って、…

ミーミとミミー

耳の穴の奥に 小人が住んでいる。小人は子どもで ふたりいて 右耳は男の子で ミーミ 左耳は女の子で ミミー どちらもとっても いたずら好き。真夜中、眠っていると 耳の穴の奥から 這い出てきて ウーン と背伸びしてから 耳たぶにぶら下がる。カタツムリの背…

恐竜の谷

小さな谷に恐竜の群があった。雪の降り始めた朝のこと まだ幼い恐竜の子は 不思議そうに見上げたものだ。生まれてはじめて見る雪。骨より白くて、草よりも軽い。たくさんの小さくて冷たい花びら。(みんな、どうして眠っているの?)大きな恐竜たちは目を覚…

立方体の部屋

あなたはひとり そこにいる 床と天井は 正方形 四方の壁も 正方形 ドアも窓もない 立方体の部屋 家具はなく 照明さえない なのに部屋全体が 明るい あなたの影は どこにも見えない 壁も床も天井も 白く滑らか あなたは 息苦しさを感じる見えない出口を 探そ…

昔話

無邪気な子どもたちは 老婆の語る昔話に夢中になっていた。瞳を輝かせ、かわいい娘が尋ねる。「ねえ、ねえ、おばあさん。 それから、お姫様はどうなったの?」老婆は微笑む。「それから、お姫様は王子様と結婚して いつまでもしあわせに暮らしました、とさ」…

水浴び

少年は 水色の羽の蝶を 追っていた 聞こえてくるのは 鳥のさえずり 水の音 針葉樹に囲まれた 宝石のように 愛らしい湖で 水浴びしてる 溶けそうな 肌の色 それとも 鱗のない魚 髪をかきあげ 振り向いた 美しい少女の 目は複眼元「koebu」宏美(ろみりん)さ…

標本箱

鏡の前で、少女の髪を切っていた。カラスアゲハのような、黒く美しい髪。まっすぐな前髪に櫛を当てながら鋏を入れようとしていた。「はやく大人になりたいな」唐突に少女が呟く。せわしなく羽ばたく、その長いまつげ。「大人になって、どうするの?」「うん…

不思議な切手

それを貼りさえすればどこへでも届くという不思議な切手。どんな遠いところでもどんな危険なところでもどんな変てこなところでもその切手が貼ってさえあれば必ず届いてしまうという。天の川のお姫様のところへも火の山にすむ竜神様のところへも会えなくなっ…

紫の姫

青い騎士と赤い騎士が 決闘をします。青い騎士は 賢くて美しい。赤い騎士は 強くてたくましい。勝者は 紫の姫を妃とします。敗者は 死神を友とします。紫の姫ときたら かわいそう。「お願い。どちらも死なないで」美しい紫の涙がこぼれます。「片方だけじゃ…