Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2015-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ママゴト

「ただいま」「おかえりなさい」ぼくは、この遊びをやめたいのだ。「腹へったな」「すぐ夕飯にしますね」最初は、そこそこ面白かった。「お風呂も沸いてますよ」「うん。あとで入る」でも、こんなこと毎日やらされてはたまらない。「ああ、疲れたよ」「毎日…

盗まれた短剣

神殿が荒らされ、秘宝の短剣が盗まれた。それを手にする者 人を刺さずにいられなくなる、という。もし身近に誰もいなければ 己の胸さえ刺す、という。奪われるまで、力尽きるまで それこそ死ぬまで刺し続ける、という。まさに呪われた短剣。おちおち血糊も拭…

緑色の家

その緑色の家は葉っぱに覆われていた。こういう家を見た経験は二度目だったので最初の家の時よりは冷静でいられた。しかし、その玄関らしき暗い穴から 人が出てくるのを見た瞬間、さすがに驚いた。廃屋ではなかったのだ。ちゃんと人が住んでいたのだ。しかも…

人魚姫の夢

寒くも暖かくもない穏やかな昼下がり。黙って浜辺に腰おろし ぼんやり遠い水平線を眺めていた。低く浮かぶ麦わら帽子そっくりの雲。または雲そっくりの麦わら帽子。打ち寄せる波の手招き。幾千もの白い手がおいでおいでする。僕のかたわらには人魚姫。無防備…

ユウタ

「おれ、やったよ」ユウタが立ち上がりながら言う。「えっ? ほんと?」僕はベンチに座ったまま驚く。「うん。やった」ユウタは前の方を向いている。あんな見飽きた風景に興味あるわけないから きっと僕と目を合わせたくないのだ。「いつ?」「昨日、みんな…

秘密の通路

「ここからあたしんちへ行くにはね この通路を抜けるのが近道なんだよ」下校途中、あかねちゃんが言う。「えっ? それっておかしいよ。だって あかねちゃんち、この道をまっすぐのところじゃん」ぼくは算数の図形の話をしたくなる。「そう思うでしょ? でも…

防災対策

失敗や事故や災害、放っておいたら起こって当然。可能性ある限り、未然に防ぐ絶対手段はあるまい。自分たちの判断が正しいかどうか その判断を下すのも自分たちの判断だから。それゆえ安全性の確保には限界がある。最善の防災対策は、起こる可能性を減らすこ…

つまんないこと

そんなつまんないこと、やりたくないな。上手下手とか関係ないよ。第一、面白くもなんともないじゃん。そうまでして達成したいの? 勝つ以外に楽しみないの? 相手が必要なのかな。 ひとりじゃ、途方に暮れるとか。 ああ、そうか。反応が欲しいんだ。歓声や…

大事なもの

あれは とても大事なものだった 今ならわかる 捨ててしまっては いけないものだったのだ あんな大事なもの なぜ捨てることができたんだろう わからない あの時の僕の気持ちが 今の僕には どうしてもわからない あれは もう 二度と手に入らないだろう そんな…

悩ましい声

どこか知らないところへ一緒に行こうと 友人と約束のようなものをしたらしい。そのため、どこか知らない場所で待っているが 彼の姿はなかなか現れない。ところで、にぎやかな建物が目の前にある。不必要なまでに窓や電飾が明るいのだ。何気なく中に入ってみ…

説得の作法

説得するには、まず相手を知ること。観察したり、打診したりする。何を好み、何をきらい、何を望み、何を恐れるか。好ききらい、いかんともしがたし。望みには応じられない場合が多い。そこで、相手の恐れを利用することになる。こちらの目的を相手に伝える…

いけないこと

ねえ、いいかしら。お姉さんといけないことしましょうよ。うん、そうよ。やってはいけないことをするの。ほら、こんなことするのはいけないことよね。でも、やっちゃうわけ。楽しいでしょ。うふふ、そうよ。だって、いけないことができるんだもんね。もとも…

ぶたちちラーメン

知人の男とラーメン屋に入り 注文した品が出てくるのを待っている。ここの店主の娘であるか、または店員であるか どちらか不明だが、その子に知人はご執心なのだ。テーブル席で待つ間に知人と店主が口論となる。いわゆるラーメン論争である。ひとりカウンタ…

野菜家族

ナスがママ キュウリがパパ 妹トマト 僕ピーマン カボチャの土地に キャベツの家が建っている クルマはスイカ バイクはハクサイ 自転車ニンジン 足ダイコン 今朝はサラダで お昼は漬物 今夜は 野菜炒めかな 元「koebu」宏美(ろみりん)さんが歌を合わせてく…

墓参り

お盆の墓参り。親類縁者お揃いで山寺へ。夏の夕暮れ行き来する浴衣姿の家族連れ。坂のぼり、山門くぐり、さらに坂のぼる。盆花で飾られし先祖代々の苔むす墓の群。ロウソクに火を灯し、台の上に。線香も。数珠を手に黙祷。手持ち提灯に火を移す。坂くだり、…

僕のもん

ひとっつも僕の入ってない それは とても僕のもん なんて呼べなくて それこそ そのあたりに転がってる ちっとも珍しくなくて 欲しくもない 石ころとか 風景みたいな どうでもいいもんじゃないかな そういう つまんないもんばっかり 君がまだ 欲しがるってん…

勝手にする

やりたくなければ やらない 起きたくなければ 起きない 食べたくなければ 食べない 言いたくなければ 言わない 興味なければ 見ない 読まない 聞きもしない コウダカラ とか ナントカノタメ とか ソウスルホウガイイ とか まったくもって 余計なお世話 とい…

竜の炎

主人公は異星人との混血児。とても勇敢な少年。かわいらしくて賢い妹 にくたらしくて力持ちの弟を従え 世界の平和を守るという伝説の 竜の炎を求め、冒険の旅に出かけた。孤児の三人を引き止める者はいなかった。父親は辺境の地で戦死した。勇敢な最期だった…

死神の部屋

「生命維持管理室」という立派な名称があるにもかかわらず ここは皆に「死神の部屋」と呼ばれている。ここでは個々の人間の基本的生命バロメーターが管理されている。若々しさ、健康、気分、欲望、やさしさ、理性、などなど。無機質な数値やグラフによって表…

君が語る夢

君が満面の笑みをたたえ 嬉しそうに語るところの君の夢は 僕が頬杖をついて つまらなそうに語るところの僕の現実と 並ぶことも 重なることも 交わることもなく 無限遠点に届くどころか すぐ目の前で 力尽きて消えてしまった。 元「koebu」ちくわ3さんが演じ…

食べ物

食べ物が床に落ちている。料理の途中で落ちたのか 食事の途中で落ちたのか どちらなのか どちらでもないのか さっぱり心当たりがない。それらは大小いくつかあって 色も形も様々。しかも、よくよく観察すれば ごくかすかながら もぞもぞと動いている。まだ生…

どこかの泥沼

どこか知らない場所に沼がある。ただし、その沼を見た者はいない。もともとは水の澄んだきれいな池だった。魚なども泳いでいたそうである。それが今では真黒な泥沼。腐った臭いを周囲に撒き散らしている。魚どころかイトミミズさえも逃げてしまった。なぜこ…

押入れの女

妙に安いな、と思いつつも借りたマンションは どうやら事故物件だったらしい。寝室兼用の和室には引き戸式の押入れがあり おもに寝具を入れておくわけだが、ここに出るのである。寝る前に閉めたはずのふすまが夜な夜な開き 中にいる何者かの眼が、外のこちら…

洗い髪

真夜中 濡れた髪がまとわりつく。ぬらぬら胸を撫で わき腹を這い 両腕をねじりあげ 後ろ手に縛られる。両脚は みじめな形に 拡げられている。口は塞がれ 首はきつく絞められ 声は出せず 息もできない。曲げられた背骨の きしむ音。深く侵入する感触の股間。…

タイム箪笥

ある独居老人が行方不明となり その家の古いt箪笥(たんす)の中から赤ん坊が発見された。その赤ん坊がどうなったかは知らないが 問題の箪笥は今、私の持ち物になっている。「片付け屋」とも呼ばれる遺品整理業者からの流れ物。いわゆる孤独死の汚部屋の遺品…

良くも悪くも

良い時は 全体を見よ それだけではない 悪い時は 部分を見よ 大したことはない 自作自演。 Good or BadWhen it's good, look at the whole thing.That is not all.When it's bad, look at the part.No big deal.

いじめないでね

お願いだから、僕をいじめないでね。今、僕をいじめると、あとで君に仕返しするよ。僕はね、とっても陰湿なんだ。ケンカは弱いけど、泣き寝入りはしないよ。たとえば、そうだね 君の家に火をつけちゃうかもしれない。そりゃ犯罪だけど、つまり追い詰められた…