Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2011-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ある村に地震があった。小さな地震で、ほとんど被害はなかった。村長の家の裏山がいくらか崩れたくらいだ。そして、埋もれていた壺が転がり出た。「よくも割れなかったもんだ。ひびもない」村長の家に村人が集まり、壺を調べた。「かなり古いな。大昔の土器…

注射の日

小学校の大きな体育館。生徒たちが縦一列に並んでいる。正面には白衣を着た若い医者。看護師は脱脂綿で腕を消毒している。今日は予防注射の日。医者の前に立つと泣き出す子もいる。「大丈夫。痛くないよ」子どもは医者の言葉なんか信じない。「だって、注射…

落とし穴

腰が痛む。腕も疲れてきた。随分と深く掘ったものだ。見上げると、空が丸く小さく見える。いやいや。まだまだ浅い浅い。あの憎い奴を陥(おとしい)れるための穴なのだから。穴の深さは、怨(うら)みの深さ。「待ってろよ。地獄に落としてやる!」満身の力を込…

壊れた家

積み木の家 チョンと押したら 壊れてしまった。カードの家 フッと吹いたら 壊れてしまった。もともと家でも なんでも なかったんだけどね。元「koebu」舞坂うさもさんが演じてくださった!Broken HouseBuilding block houseJust because I pushed it lightly…

許されぬ恋

「いけないことよ」「そんなのわかってるさ」「ああ、駄目だったら」「我慢できないんだ」「そんなことしたら」「ごめん。許してくれ」「まあ。信じられない」「やってしまった」「もう。どうするつもりなの」「自首するしかないさ」「ちょっと待ってよ」「…

憂鬱

胸の内に入りて 臓腑を喰い破るもの 頭の内に潜り 脳を腐らせるもの 腰を折り 背骨を曲げ 四肢を萎なえさせ 首を項うな垂だらせんとする 汝なんじの名は 言うも 憂鬱ゆううつ) 元「koebu」宏美(ろみりん)さんが演じてくださった! DepressionGo inside the…

まどろみて

うとうとと まどろみて とろとろに ゆめうつつ こはいずこ われはたれ とこしえに またせつな うたかたの はるのよい 「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!(haruさん、すまん。同名作品あり、タイトル修正)「note」yayaさんが演じてくださ…

夜の川

真昼の川に落ちたなら 白い魚になるものを 夜中の川に落ちたれば 夜の女になりましょう 魚が いいか 女が いいか 白い魚は 川を泳ぐに 夜の女は 浮世を泳ぐ「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!元「koebu」yayaさんが演じてくださった!Night…

裂けた恋人

ある朝、ベッドの上で目覚めると 恋人のからだがふたつになっていた。双子のようによく似たふたりの少女。どちらも痩せて小さく、かわいらしい。肌の色だけはっきり違っていて 一方は色黒、片方は色白。ふたりを仮に、黒子、白子と呼んでおく。「腹減った」…

知恵の鍵

人影まばらな夕暮れ時の動物園。閉園時間を知らせる音楽が寂しく流れる。浮浪者らしき男が鉄柵にもたれ 猿山の猿を眺めていた。酔っているのかよろめいて 男はなにかを踏んだ。「ん?」拾い上げたそれは 複雑に折れ曲がった鍵のように見えた。わけのわからな…

小さな虫

ピクニックには最高の天気だった。僕と妹、ふたりで草原を走りまわった。僕が鬼になって妹を追いかけ 妹は笑いながら遠くまで逃げた。やっと妹を捕まえると、僕たちはそのまま柔らかな草の上に寝転んだ。笑うと、呼吸が苦しかった。でも、つい笑ってしまうの…

沼の番人

重苦しい吐息のような霧に包まれ 聞こえるのは櫓を漕ぐ音と舟に当たる水音。そして、ときどき気味の悪い怪鳥の叫び。この沼は腐ってる。吐きそうな臭いがする。実際、これまでうんざりするくらい吐いた。忘れた頃、沼の澱んだ水面に死体が浮かぶ。浮かぶ死体…

影法師

私たちは並んで夜道を歩いていた。スポットライトみたいに満月に照らされ私たちはみんな友だちだった。突然、その友だちのひとりが叫んだ。「ねえ、見て! 私たちの影法師」私たちは振り返り、地面を見た。ごく普通の影法師だった。ありふれた輪郭で、口など…

音楽室

夜、学校の音楽室には近寄れない。壁に貼られた大作曲家の肖像画が笑うから。ピアノが勝手に演奏を始めるから。「ふん、笑わせないでよ」「でも、この目で見て、この耳で聞いたわ」「それ、いつの話?」「昨日の放課後。かなり暗かった」「あら。あんた、昨…

ブロイラー

魔法の箱の前 なにもせず 待っている 欲しいものは 与えられるもの だから おまえは ぶよぶよで ぶよぶよぶよぶよ ブロイラー逃げようとして 気がつけば そこにいる 魔法の箱から こぼれる餌 だから おまえは ぶくぶくで ぶくぶくぶくぶく ブロイラー元「koe…

錫杖の音

夜、ふと目を覚ますと どこか遠く、かすかに音がする。場違いな金属の音。風鈴の音ではなく、錫杖(しゃくじょう)の音。錫杖は、頭に鉄の環がついた古風な杖。それを突くと、ジャランと音がする。こんな夜遅く、こんな住宅街を時代錯誤な坊主が歩いているのだ…

樹海の底

樹海に溺れてしまったら鳥か獣になるしかない魚になったら おしまいだ 泳ゲルクセニ ナゼ溺レタノ? 遠くで 君の声がする樹海の底は 昼なお暗く絡み合う 根と根と根と這いまわる 粘菌 ケダモノ! ケダモノ! ケダモノ! 近くで いやあな鳥の声元「koebu」mak…

三人姉妹

伯父の家で夕食をいただいて、その帰り道。姉と私と妹、三人で夜道を歩いていた。父が事故で亡くなり、母は入院していた。私たちは俯いたまま、黙って歩いた。濡れたアスファルトに長靴の音が響く。さっきまで冷たいみぞれが降っていたのだ。この辺りには街…

ゴミ

悲鳴が聞こえた。罵声も聞こえてきた。ああ、またやってる。私は溜息をつく。昨日と同じだ。どうして繰り返すんだろう。玄関を出ると、共同ゴミ置き場に人が群がっていた。お向かいのご主人が、倒れた若者を蹴り上げている。「この野郎! 勝手にゴミを捨てや…

近郊の電車

見知らぬ駅名の見知らぬホームはいつもの乗換駅ではなかった。(まいったな。帰りが遅れてしまう)読書に夢中になり、乗り過ごしてしまったのだ。下車したものの、途方に暮れた。(いったい、どこまで来てしまったんだ?)すでに辺りは暗く、蛍光灯がまぶし…

近道

その場所へ行くためにはいつも 大きくまわり道をしなければならなかった。近道をしようと別の道を歩いてみても 結局、遠まわりになってしまうのだった。ある日、その場所から家に帰るにあたり 初めて通る道を歩くことになった。それは明らかに近道のように思…

最後の審判

おれは偽りのクリスチャン。ここはパイプオルガン鳴り響く教会。おれは深く頭を垂れ 神に祈りを捧げるふりをしていた。やがて沈黙が訪れ、続いて声がした。「不信心者よ。わたしを見よ」見ると、それは神であった。その姿の他はすべて闇であった。「時の流れ…

時間の移動

さあ、過去に戻ったよ。そろそろ着くからね。もうかなり移動したよ。意外だったかな。ほら、どんどん過去に移動しているね。驚いたかい?でも、すでに移動しているんだよ。信じられないのかい。本当さ。嘘じゃない。誰でも自由に時間を移動することができる…

空想の女

とりあえず女になってみる。もちろん美人。いわゆる女盛り。化粧なんか邪魔よ、邪魔。素顔が最高。宝石も髪飾りも、ハイヒールもいらない。裸より素敵な服なんか、どこにもない。「おなか、すいたみたい」つぶやくだけで用意される豪華な食卓。私が食べると…

公園の幽霊

夜の児童公園はさびしそう。遊ぶ子どもの姿はどこにもない。でも、ブランコが揺れている。誰もいないのに、風もないのに・・・おや?白い花束が地面に落ちてる。わたしは気になって、拾いあげた。「それ、きれいな花ね」かすかな声だった。振り向くと、小さな女…

村への遠い道

夕暮れが迫っていた。急がねば。村はずれに首切り地蔵が祭ってある。罪もなく打ち首にされた村人の慰霊だ。道の真ん中、地蔵の首が落ちていた。気味悪いが拾い上げ、戻そうとした。だが、首切り地蔵の首はちゃんとついてる。慈愛の表情。あわてて首を投げ捨…

猫の雑木林

猫は一度こちらを振り返るとそのまま雑木林へ逃げ込んでいった。まるで僕を誘惑するみたいに茂みの奥へと姿を消してしまった。ひとりで足を踏み入れてはいけない、そう大人から言われている場所だった。ひょっとすると、あの猫の罠かもしれない。でも、いま…

誕生日のキャンドルライト

キャンドルライトに ゆれる想い ここから生きて ここまで生きて 蝋燭(ろうそく)の数は 悲しみの数? それとも希望? または後悔 目に涙 ゆれる想いを 吹き消せば またひとつ 私は大人になりました 「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!元「ko…

あのねのね

あのね あのねあのねのねあなたにね打ち明け話したいんだけどあなたにね打ち明ける話なんにもないのあはは あはは あははのは笑っちゃうよね笑うよねあはは あははあははのはなんにもないから笑うだけああ おかしい元「koebu」田辺千鶴さんが歌ってくださっ…

エレベーター

目の前で扉が左右に開いた。ひとり、灰色のエレベーターに乗る。狭くて殺風景な直方体の箱。振り返ると、そこは長方形の闇。そして、ヒステリックな靴音が響く。闇の中から誰かが駆けてくるのだ。あわてて操作パネルのボタンを押した。見知らぬ女の姿が、闇…