Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

暴走族

と言っても、おもちゃの暴走族。仲間とミニチュアのバイクを操って深夜に段ボールの国道を暴走するのだ。集団は左右にわかれ、暴れまわる。「やっちまえ! 蹴散らせ!」「ふざけるな! ぶっ殺せ!」狭い室内は修羅場と化す。割り箸の角材、ストローの鉄パイ…

天女たち

清らかな青い風に抱かれ透けるような白い衣をなびかせつつはるか彼方の天をめざして抜きつ 抜かれつ鳥のように 戯れながら蔦のように 絡まりながら愛され 祝福される者の歓喜の笑みを満面にたたえどこまでも どこまでも高く さらに高く信じられない高みまで…

遊女

「ねえ、遊ばない?」子どもっぽい声で誘われた。その顔も幼く見えた。でも、からだは違うと思った。「よし、遊んでやろう」まず、得意のカードを使って遊んだ。ポーカー、ばばぬき、さらに神経衰弱。ことごとく負けてしまった。勝ち誇る女の憎たらしいこと…

海が呼んでいる

帰ッテオイデ 甘く囁く 潮騒帰ッテオイデ 悩ましく手招く 白い波帰ッテオイデ 閉じた瞳の 水平線 元「koebu」yayaさんが演じてくださった! The Sea Calls Come back home To whisper sweetly Shabby noise Come back home Invite troublesome hands White w…

カードの女王

部屋の窓を開けたままにしていたので 隣の家のお姉さんに見られてしまった。レースのカーテンさえ引いてなかった。「ひとりでカード遊び?」まるで肖像画のような窓辺のお姉さん。その腰から下は隠れて見えない。短いスカートならいいな、と思った。「おじゃ…

囲い牛

いつの間にか僕は牛になっている。好かれている僕がなにもしないから彼女を泣かせてしまったという理由でクラスの女の子たちが僕を取り囲み縫い針を手にして僕の体を刺している。チクチクするような痒みを感じるけれどそれらしい痛みはほとんど感じない。他…

狐の嫁入り

やはり、嫁は狐だった。私は厳粛な態度で嫁に言い渡す。「尻尾は見なかったことにしておく」申し訳なさそうに嫁が項垂れる。押し殺せない笑みが私の頬に浮かぶ。「それにしても、うまく化けたものだ」顎に手をかけ、嫁の顔を持ち上げる。「あの女優にそっく…

かまきり

夢中になって交尾をしていたら 彼女に頭を切り落とされてしまった。うっかりしていた。彼女の両腕は鎌になっていたのだ。彼女は落ちた頭を拾い上げ わざと僕に見せつけるように 眉間にシワを寄せて食べ始める。途端に僕は悲しくなる。もっとうまそうに食べて…

毒グモ

二の腕に入れ墨を彫った。初めてなので、怖い気持ちもあり 比較的無難な場所を選んだのだ。派手な色のクモの入れ墨だった。熱帯に生息する毒グモなのだそうだ。こいつに噛まれると悲惨なことになる。三日三晩、踊り狂った挙句に死ぬという。無害なクモよりは…

蜘蛛の巣

あたしゃ蜘蛛 つぶらな八個の眼 いやらしい八本の脚 銀の糸で罠を張り 闇に潜んで待ち伏せるあんたは蛾 おびえた二個の複眼 さまよう二本の触覚 銀の鱗粉まき散らし 月なき夜に囚われる元「koebu」鼓馬さんが演じてくださった!元「koebu」アカリさんが演じ…

ナメクジ

一匹のナメクジがあなたのからだを這っている。突然変異による太くて巨大なナメクジ。気味が悪くて あなたはつかむこともできない。それをいいことにナメクジは わがもの顔で這いまわる。あなたのからだのいたるところを 上から下まで、裏も表も、内も外も …

壊れた恋人

恋人が壊れてしまった。あんなに楽しそうに笑っていたのに。ほんとに壊れてしまった。動かない。どうしてなんだ。まだ新品なのに。あんなことしたからかな。普通だよな。あんなことくらい。でも、ちょっと乱暴だったかな。平気だよな。恋人なんだから。もと…

ニンジン

ぼくはニンジンがきらいだった。でも、おかあさんがおこるから いやなんだけど、むりに食べてみた。そうしたら、甘くておいしかった。どうしてニンジンがおいしいのか ぼくにはわけがわからなかった。「生のニンジンは甘いのよ」おかあさんが教えてくれた。…

鳥かご

手作りのかごから抜け出して あの島へ君は飛んでいった 一枚の羽根を残したのは 形見のつもりなのか しなやかで白くて柔らかい いかにも君の羽根だと思うあきれるほど青い海の向こう 鳥たちの棲む島へ君は帰ってゆく さわがしい羽音 さえずる声 手の届かない…

トトカ湾の氷山

小さなトトカ湾に巨大な氷山が漂着した。それはまるで白い帆船(はんせん)のように見えた。海面下の大きさが想像された。「かまうな。そのうちとける」それが村人たちの意見だった。航行には邪魔だが別に問題なかろう。「ちょっと待ってください」若い彫刻…

畑の沐浴

ある年のこと、ひとりの農夫が 鍬をかついで山の畑に着いてみると 畑の真ん中に大きな木の桶が置いてあった。そして、その桶の中で 見知らぬ若い女が沐浴をしていた。農夫は目を丸くした。「あんた、なにしとるんだ?」裸の女はにっこり笑った。「うふふ。見…

ぬいぐるみ

大きなクマのぬいぐるみ。いつもあたし、これ抱いて寝るの。しっかり抱いていないと眠れない。理由はわかんない。とにかくそうなの。これ、パパが誕生日に買ってくれた。だけど、あんまりパパには会えない。なんというか、いろいろあってね。あたし、さびし…

吹き矢

バスケットを抱え、家に帰る途中 森の木陰から吹き矢が飛んできて 少女の白いうなじに刺さった。あっ、蜂かな。少女は驚いて片手をあげたけど 吹き矢に毒が塗ってあったので そのままの姿勢で倒れてしまった。大切なバスケットも地面に転がった。片手をあげ…

傷口

傷口を舐めてあげる ほら まだ血がにじんでる あんた 野鼠(のねずみ)みたいに怯(おび)えてる あたしのこと なんにも知らない 傷口を塞いであげる こんなの 使い捨ての唇 傷は浅い 舌の先が底まで届く あんたのこと なんにも知らない 傷口を開いてみようか な…

脱皮

深夜、ひとり居間で その家の娘が脱皮をしていた。蛍光灯に照らされ 娘の体は小刻みに震えていた。白い背中がめりっと縦に裂け 割れ目から新しい皮膚が覗いている。娘の脱皮に気づいた父親は 入口の前で立ち尽くしてしまう。娘は裸のまま泣いているようであ…

軽蔑

僕は君が好きだけど 君のすべてが好きなわけじゃなく 好きなのは君だけじゃない。君を盗み見ながら 僕が描くかもしれない似顔絵は きっと君に似ていない。僕は君が欲しいけど 君が望むような僕なら たぶん君なんか欲しくない。君が僕でない誰かと愛し合えば …

ハーレム

世界中から集めた美女が千人。姿かたちが美しいの、表情が豊かなの、愛嬌があるの、気品があるの、麗しいの、賢いの、愚かしいの、アートなの、幼いの、純情なの、生意気なの、年増なの、艶かしいの、変態なの、悪女なの、どうにも手がつけられないの、歌手…

妖精

触れたら魚になり つかんだら泡になる 泣いたって 知らんぷり いじわるな君の性格「浜辺で遊んでると、波にさらわれるよ」 心配するけど どうせ君のことだから 誰にも邪魔されることのない海底で 夢を見ながら 眠っているんだろうね 触れたら鳥になり つかん…

プールの水

わたし、プールに飛び込んだら からだが水に溶けちゃった。一瞬のできごと。きっと消毒薬が強すぎたんだ。それとも水瓶座生まれだから? あら、そうだっけ? ああ、よくわかんない。脳も一緒に溶けちゃったのね。ゆらゆら水面に浮かぶのは わたしの花柄のピ…

君の似顔絵

君の似顔絵を なみだで描いた 君の瞳は 湖面の月 小さな波紋に ゆれて壊れる >元「koebu」yayaさんが演じてくださった! Your PortraitI have painted your portrait with my tears.Your eyes look like the moon floating on the lake.They are easily move…

ライフル銃

細長い沼のように見える川が流れ その土手に沿って壁がめぐらされている。壁は一部爆破され 無残な裂け目ができている。そこから顔を突き出すと 草原の疑似地平線を背景として 墓石のように立ち並ぶ団地の群が見える。これら団地には不特定多数の住民が寄生…

回転木馬

どこかへ行こうと あせりながら おんなじところを ぐるぐるぐるぐると 回転木馬のように いつまでもいつまでも まわっているだけで 繰り返し繰り返し ぐるぐるぐるぐると まわり続けるだけなので おまえときたら いつになっても そこにいて いつになっても …

桑畑の海戦

桑畑の真ん中で教師に見つかってしまった。「なにしてるの? こんなところで」「別になにもしていません」「あら、隠さなくてもいいじゃないの」「僕だけの秘密なんです」「だったら、先生も秘密にするわ」「みんなに話されると困るんです」「約束するわ。誰…

せぬように

うぶ毛の生えた地平線 誰かの指が 散歩する くれぐれも 髪の川に流されたり せぬように 元「koebu」舞坂うさもさんが演じてくださった!元「koebu」yayaさんが演じてくださった! So as Not toThe horizon Where the brunettes grewSomeone's finger walksSo…