Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2010-01-01から1年間の記事一覧

泣き娘

小さな娘が大きな声で泣いていました。いつまでもいつまでも泣き続けるのでした。村人たちが心配そうに声をかけます。「ねえ、どうして泣いているの?」しゃくりあげながら、娘がこたえます。「だって、みんな、かわいそうだから・・・・」村人たちは顔を見合わ…

怪盗ネチネ

海よりも深い夜にあなたの寝室に忍び込みトカゲのようにあなたのベッドに近づいてあなたの無邪気な寝顔を見下ろしながらさてどうしてやろうかやるまいかこのにくたらしい鼻の頭を削ってやろうかこのいじらしい耳たぶを切ってやろうかあれやこれやと随分悩ん…

友だち

僕と、彼と、彼女。僕たち三人は仲の良い友だちだった。いつも三人一緒、三位一体だった。ある日、彼が駄目になってしまった。救いようのない人になってしまったのだ。僕と彼女は、顔を見合わせて悩んだものだ。どうすればいいのかわからなかった。会話のた…

風に吹かれて

なにしてるの? なんにも 風に吹かれているだけそれだけ? うん それだけどんな感じ? なかなかいい感じだよふうん 君 どこから来たの?あっちから どこへいくの?こっちかな ねえなあに? 君ってさうん まるで風みたいだよふうん元「koebu」アカリさんが演…

水の子

ある山奥にひっそりと小さな村があった。その村をかすめるように 一本の細い谷川が流れていた。ある年の春、谷川のほとりに娘がいた。村の者ではなかった。戦火の都から逃れてきたのだった。娘は長老の家に世話になることになった。娘は働き者だった。この年…

クジラのくらし

生きているクジラのように見えるがじつはクジラ型潜水艦なのである。潮を吹き、身をくねらせて泳ぐがやはりクジラ型潜水艦なのである。大空を飛行することもできるがクジラらしくないから海中を泳ぐだけ。潜望鏡もあるが、なかなか使えない。やはりクジラに…

光と闇

神々がまだ幼かった頃のお話です。闇の女神はいつも暗く沈んでいました。そんな女神に光の神が興味を持ちました。(どうして暗く沈んでいるのだろう?)光の神はいつも明るく輝いていたのです。光の神は女神に近寄りました。 すると、闇の女神は遠ざかるので…

家政婦たち

我が家に住み込みの家政婦たち。彼女たちは紐につながれている。小柄で口の大きな温子は食事の用意。暖めるだけ。複雑な調理はできない。料理の材料は冷子が蓄えている。立派な体格。いびきがうるさい。暑い日は涼子が風を送ってくれる。いつも窓際にいて、…

良い子

あるところに、父のない子がいた。おとなしくて、じつにやさしい子で文句も言わず、母の手伝いをするのだった。「おまえは本当に良い子だね」母に頭を撫でられるのが、得意であった。ところがある日、母のない子に非難された。「おまえなんか、親の良い子で…

犬ぞり

白い道に 雪が降る 犬ぞりに乗って 嬉しくて 彼女 首を振り振り 歌うたう 白い道に あられも降る 犬ぞりの上で 気がふれて 彼女 服を脱ぎ捨て すっ裸 白い道に ひょうも降る そりの上には 犬が乗り 彼女 革につながれ そりをひく元「koebu」nyapipi///aprile…

運動会

さりげなく空は晴れていた。それらしい校舎の前にはグラウンドがあり 運動着姿の少年少女たちがいる。運動会であることを疑う理由はない。「みんな呼んでる。早く行こう」ひとりの少年が走り出した。それを同級生たちが追いかけてゆく。ひとりぼっちになって…

宝石箱

白い指が宝石箱のふたを開ける。「首に巻いてください」 哀願するネックレス「耳にぶら下がってやろうか」 生意気なイヤリング「胸にしがみつきたいな」 甘えん坊なブレスレット「捨てられちゃった」 戻ってきたばかりのリング白い指が宝石箱のふたを閉じる…

忘れたい女

列車は深い闇の底を走っていた。おれは疲れ果て、眠りかけていた。突然、隣席の女が吠えた。驚いたのなんの、猛獣かと思った。「ご、ごめんなさい」思わず謝ってしまった。寝ぼけて迷惑かけたと思ったのだ。体も顔も小さな女だった。「す、すみません」女も…

野戦病院

入院すれば必ず死ぬのであった。退院するのは死体に決まっていた。院内には死に至る伝染病が蔓延していた。皮膚に斑点が浮き出たら、もう絶望的だった。野戦病院という名の傷病兵捨て場なのだった。医師も看護婦もみんな死んでしまった。それでも治療と看護…

闇の隠者

窓を開けたまま眠ると 真夜中、あいつに襲われる。あいつは、するりと部屋に侵入する。あいつは、ふとんの中まで入ってくる。抱きつかれてから気づくのだ。「なんだ。おまえは何者だ」「闇の隠者とでも呼べ」「なにをするつもりなのだ」「なにもしない」「抱…

抜け殻

あちこちに抜け殻が落ちている。注意しなければ抜け殻とは気づかない。壁に向かって立っていたりする。石段の途中に腰かけていたりする。まったく動かないのが特徴のひとつだ。手で触れてみれば誰でも気づく。紙風船のように簡単につぶれてしまうから。無邪…

ロレロ霊歌

キドラ辺境惑星における伝統音楽はいたるところに存在するにもかかわらず同時に見つけるのが困難とされている。ロレロと呼ばれる宗教的な期間に年配者が若者に伝説を語る風習がありそこで歌われるのがロレロ霊歌である。現在では霊的なものは失われてしまっ…

血のつながり

いまわの際の枕元に娘を呼んだ。「もっとこっちへ」「はい。お父さん」「なあ、おまえ」「はい」「いい女になったな」「いやだわ。お父さんたら」「おまえに話しておくことがあるんだ」「なにかしら。お父さん」「じつはな」「はい」「おまえは、わしの本当…

人形の舞踏会

華やかな衣装を身にまとい端正な顔に美しく化粧をほどこして世界中から集まった人形たち 麗しき人形 美しき人形 きれいな人形 かわいい人形 愉快な人形 良い人形とても愛らしい小さな貴婦人たちもっとも等身大のマネキンだっているけど人形たちの素敵な舞踏…

大丈夫?

都会の空はギザギザに切り抜かれている。さも軽蔑するかのように見下ろす高層ビル群。奴らから見れば、おれたちは地面を這う蟻か。最初、それは高層ビルが吐き捨てたツバのようだった。なにか真上から落ちてくるのに気づいたのだ。ぶつかる瞬間にそれが女だ…

湖の雪

湖に浮かんでいたら雪が降ってきちゃった白くてふわふわして夢みたいでとってもきれいだったあんなに濁った空なのにこんなに白い雪湖に浮かんでいてもあったかいよ元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった!Snow on the LakeIf I floated on the …

落ちてた少年

少年が道端に落ちていたのでとりあえず拾ってきちゃった。「ほら、なんか喋ってごらん」「おねえさん、きれいだね」へえ、よくしつけられてるじゃない。「おまえ、捨てられたの? 飼い主は?」「・・・・死んじゃった」いいねいいね。泣かせるね。「おまえ、おな…

月夜の兎狩り

だから僕は反対したんだ。月夜に兎狩りだなんてまさに狂気の沙汰だよってね。それなのに無鉄砲な君は猟銃なんか担いじゃって平気な顔をして家を出たんだ。藍色の嘘っぽい夜空に山より大きな三日月が昇ってゲラゲラゲラゲラ笑ってたっけ。君は月の光にあてら…

監獄の穴

毎日、少しずつ、床下に穴を掘ったものだ。それは監獄から脱出するための穴。よく掘ったものだと、われながら感心する。苦労の末、ようやく脱獄できたわけだ。けれど、外に出たら、もう穴を掘る気はしない。当然だ。なぜなら、穴を掘る意味がない。いくら褒…

鏡の回廊

貴婦人が鏡の回廊を渡っておられました。鏡の回廊の左右の壁には珍しい鏡がいくつもいくつも飾ってありました。ある鏡には、上品なドレス姿の貴婦人がその麗(うるわ)しき横顔とともに映りました。別の鏡には、夢見る表情の貴婦人が裸で歩いておられる姿が映…

浮かぶ穴

夕暮れの冬の空中に穴があった。大人の腰くらいの高さに穴は浮かんでいた。腹を空かせた家出少年が路地裏で見つけたのだ。空中に浮かぶ穴など少年は知らなかった。(食べ物があるかもしれない)少年はやせた片腕をのばした。穴の中にはなにもなく、空っぽだ…

魚眼石

なんと美しい宝石でしょう。ほら、よくごらんなさい。小さな魚が泳いでいますね。石の中に閉じ込められた魚です。もちろん生きています。優雅な姿ではありませんか。もっとよくごらんなさい。この魚の眼は石なのです。美しいではありませんか。これより美し…

探しもの

最初、ひとりで探していたんだ。「なにを探してるの?」「大切なもの。うまく言えないけど」「それって、見つかりそう?」「わからない。難しいだろうね」「ふたりで探したらどうかしら」「君、一緒に探してくれるの?」「うん、いいわよ」それで、ふたりで…

水面の神話

まず最初に水面があった。それは厚さのない鏡であった。水面には表裏の区別はなく そこに姿を映す者はいなかった。音も光もなんにも存在しないので やがて水面はいたたまれなくなった。わだかまりが生まれ 悶え、歪み、乱れ ついに水面に波紋が広がった。限…

妖精の畑

裏山の畑に妖精が生えた。トンボの羽、ハチドリの口、リスの尻尾。妖精でないとしても、野菜でもない。畝(うね)にきちんと並んで生えていた。ニンジンの種を蒔いたはずなのに。「どれ。一本、食べてみるか」引き抜くと、妖精は悲鳴をあげた。根元から赤い雫(…