Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2010-01-01から1年間の記事一覧

蝶の沖合

濡れた靴下を脱ぎ捨てて波に揺れる夕暮れの海面をひたひたと裸足で歩いていたら まるで霧に包まれたように無数の蝶の群に囲まれてしまった。こんな遥か沖合まであたりまえのような顔をして歩いてきたりしてはいけなかったのだ。途中で沈むとか溺れるとかせめ…

醜い蛙

お城の近くにおばさんが住んでいました。ひとり暮らしのおばさんは なぜか一匹の蛙を飼っていました。とても醜い蛙でしたが それでも喜んで飼っていました。おばさんは冗談好きでした。「魔法で蛙にされた王子様なのよ」もちろん誰も信じてくれませんが おば…

とかげ

ある不毛の大地に一匹のとかげがいる。とかげの目の前にも一匹のとかげがいる。すぐ後ろにもやはり一匹のとかげがいる。このことはどのとかげについても言える。とかげによるそのような列が実在する。とかげの列は前方に果てしなく続く。とかげの列は後方に…

無視されて

なんとか車道を横断することに成功した。と思ったら、歩道で男にぶつかった。「ちぇっ、ついてねえな」唾を吐き捨て、そのまま男は歩み去ろうとする。「おい。それはないだろ」声をかけたが、男は振り向きもしない。またか。ため息が出てしまう。また無視さ…

寝顔

そこは不思議なところです。柔らかな白い絹のような地面がどこまでも果てしなく広がっていてしかも、その上のいたるところにうつ伏せになったり 仰向けになったりドレスを着たり ほとんど裸だったりいろいろな様子をした女の子たちがおもいおもいに眠ってい…

虫籠の虫

たくさんの虫を飼っていた。でも、みんな坊ちゃんに殺された。竹細工の虫籠ごと踏み潰されてしまった。私の兄の大切な形見だった虫籠。虫の好きな私のために兄が作ってくれた。それを坊ちゃんが壊してしまった。あの坊ちゃんの目が忘れられない。血走って、…

ミーミとミミー

耳の穴の奥に 小人が住んでいる。小人は子どもで ふたりいて 右耳は男の子で ミーミ 左耳は女の子で ミミー どちらもとっても いたずら好き。真夜中、眠っていると 耳の穴の奥から 這い出てきて ウーン と背伸びしてから 耳たぶにぶら下がる。カタツムリの背…

恐竜の谷

小さな谷に恐竜の群があった。雪の降り始めた朝のこと まだ幼い恐竜の子は 不思議そうに見上げたものだ。生まれてはじめて見る雪。骨より白くて、草よりも軽い。たくさんの小さくて冷たい花びら。(みんな、どうして眠っているの?)大きな恐竜たちは目を覚…

立方体の部屋

あなたはひとり そこにいる 床と天井は 正方形 四方の壁も 正方形 ドアも窓もない 立方体の部屋 家具はなく 照明さえない なのに部屋全体が 明るい あなたの影は どこにも見えない 壁も床も天井も 白く滑らか あなたは 息苦しさを感じる見えない出口を 探そ…

昔話

無邪気な子どもたちは 老婆の語る昔話に夢中になっていた。瞳を輝かせ、かわいい娘が尋ねる。「ねえ、ねえ、おばあさん。 それから、お姫様はどうなったの?」老婆は微笑む。「それから、お姫様は王子様と結婚して いつまでもしあわせに暮らしました、とさ」…

水浴び

少年は 水色の羽の蝶を 追っていた 聞こえてくるのは 鳥のさえずり 水の音 針葉樹に囲まれた 宝石のように 愛らしい湖で 水浴びしてる 溶けそうな 肌の色 それとも 鱗のない魚 髪をかきあげ 振り向いた 美しい少女の 目は複眼元「koebu」宏美(ろみりん)さ…

標本箱

鏡の前で、少女の髪を切っていた。カラスアゲハのような、黒く美しい髪。まっすぐな前髪に櫛を当てながら鋏を入れようとしていた。「はやく大人になりたいな」唐突に少女が呟く。せわしなく羽ばたく、その長いまつげ。「大人になって、どうするの?」「うん…

不思議な切手

それを貼りさえすればどこへでも届くという不思議な切手。どんな遠いところでもどんな危険なところでもどんな変てこなところでもその切手が貼ってさえあれば必ず届いてしまうという。天の川のお姫様のところへも火の山にすむ竜神様のところへも会えなくなっ…

紫の姫

青い騎士と赤い騎士が 決闘をします。青い騎士は 賢くて美しい。赤い騎士は 強くてたくましい。勝者は 紫の姫を妃とします。敗者は 死神を友とします。紫の姫ときたら かわいそう。「お願い。どちらも死なないで」美しい紫の涙がこぼれます。「片方だけじゃ…

ンバダ

ンバダ ンバダ ンバダ ンバダドケタ セネガ モゲタ ヘゲナオキセネ コゲタ ヌキシテ ドネガサパニコ モッケルバンダ フッコンバダ ナバダ ンバダ ナバダザッケ ヘネガ モミネ ソゲタドケシテ コネガ ミランダ ユッケムチキタ コゴトワガンダ ブッドルイヤ ヌ…

大いなる兵士

のどかな平和そのものの田園風景。 風そよぎ、木漏れ日は揺れ、鳥が鳴く。緑の海を渡るように草原を渡る、少女。 草原の真ん中で、少女は兵士を見つけた。とんでもなく大きな兵士だった。少女の腰がやっと兵士の小指の太さ。兵士は草の上に仰向けに倒れてい…

崩れる

あは えけけ崩れてね ゆくんだよもりぶでん おしまいなんだ砂のお城が ぽの波にねさらさ らささら ささらささ貝殻 耳たぶ うんずらけぽら ぽとくとね だめなんだトンネル掘って うん トンネル通ってごろごろだ もう倒れてるけじたね うんとけじたわかってな…

「いってきまーす!」「鎖に絡みつかれないようにするのよ」「はーい、わかってまーす」いつものように家を出た。細い鎖が手首に絡みついていた。でも軽いから気にもならなかった。途中、友だちと待ち合わせをしていた。友だちはラクダ。それもフタコブの。…

逆さまの顔

君が悲しげな声をあげた時 あわてて君がつけた顔は 上下逆さまだったから 僕はつい笑ってしまったんだ それについては君に謝るけど でもね 僕は思うんだけど そんな時は そんな顔をすればいいのに元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった!Upside…

リンチ

海岸の波打ち際に首だけ出している。手足を縛られ、砂浜に埋められたのだ。打ち寄せる波が首を越えて顔面を洗う。もうすぐ満潮になる。なったらおしまいだ。じわじわと苦しみながら溺れ死ぬ恐怖。古典的で典型的な血も涙もないリンチ。「畜生ども。いっそ一…

獅子の首

獅子の首が落ちた。でも獅子は気づかずに その首を食べてしまった。食べた後で獅子は気がついた。あれは自分の首だったのだと・・・・ でもどうやって食べたのだろう。食べるための口もないのに・・・・ 獅子は首をひねるのだった。ひねるための首もないのに・・・・元「…

海の王子

もう随分昔のことですが珊瑚の髪を波に洗う海の王子がおりました。王子がヒトデを枕に海面を見上げるとクラゲがいくつも浮かんでいたそうです。「ああ、海の王女はどこにおられるのか」呟きは泡となり、海中をのぼるのでした。夕焼けより美しいという伝説の…

台所の鬼

とある家庭の台所の風景である。異国の人形を大きくしたような少女が手前の調理台の上に仰向けに寝かされ サラダ油か桃の缶詰の汁かわからないがびしょ濡れで天井を見上げて泣いている。その奥にはステンレスの流し台があり まだ洗ってない食器が山盛りにな…

丘へ続く小道

遠い海鳴り、忘れられない記憶。海岸から丘へ這う蛇のような小道があった。目を閉じたまま、僕はその小道を歩いていた。そんなふうに歩くのが好きだったのだ。小道は丘の上の白い家まで続いていた。大きな別荘で、誰も住んでいなかった。こんな秘密の家が欲…

つぶやき

こんなとこに夜が隠れている涙がコロコロ転がるうぶ毛の大地夕暮れの底に沈んでゆく群衆きっと僕たちはまちがっている蝶のことは蝶にまかせておこう眠ってしまったカタツムリ見てしまった夢はしかたないただつぶやいてみただけ元「koebu」takenokonokoさんが…

毒入りの瓶

おれは毒入りの瓶だ。ちゃんと髑髏マークのラベルが貼ってある。 暗い過去を持つ由緒正しき危険物でこれまで多くの尊い命を奪ってきた。 もしおれの言葉が信用できなければ頭の栓を抜き、おれの中身を飲めばいい。 ほんの少し、唇が湿るくらいで十分。苦しむ…

神々の遊戯

「もう準備できたんじゃない?」「うん。そろそろかな」「それにしても、手間かかったね」「なにしろ、立体ビリヤードだもん」「じゃ、みんなを呼んで始めよう」「OK!]宇宙空間に巨大な棒が次々と出現した。そのうちの一本が地球を「ドン!」と突いた。…

泥んこ

なんだろ こけもも よくわかんない スカート制服の高校生女子が うんと 学校と世間との境界を象徴する鉄柵を 乗り越えようとする姿勢で ほら きらめく朝日を うなじと横顔に浴びながら 日に焼けた片足を大胆に伸ばす と 煉瓦通りの歩行者としては 首かしげ …

木の枝の上

僕は熱血野球少年だった。ある朝、バットを持って玄関を出たら女の子が生け垣に絡まっていた。「キミ、そんなところでなにしてるのさ」「なんでもないの」「そんなふうに見えないけど」「ところで、ねえ、知ってるかしら」「なにさ」「あのね、あたしがまだ…

なわとび

男の子がふたり左右に立っている。どちらも見覚えがあるのにどこの子だったか思い出せない。一本の長いなわがふたりを結んでいる。 なわの両端はしっかりと握られ ふたりはなわを振りまわし始める。なわの軌跡は大きな目のように見える。それが目なら瞳があ…