Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2011-01-01から1年間の記事一覧

矛盾

完全な矛(ほこ)があった。どんなものでも貫いてしまう。完全な盾(たて)もあった。どんなものでも防いでしまう。どちらも互いの存在が許せなかった。真実を賭け、矛と盾は決闘することになった。どちらが残るか、世界が見守った。矛は盾を貫いた。なぜなら完…

生肉

腐ったと気づいたのは 捨てられた後だった。可能性として あいつが先に腐ったと気づいて あたしが気づく前に捨てたのかもしれない。ありそうな話だ。というか ありふれた話か。どうして食べてもらえないのかなって 随分と悩んだもんだよ。本当に腐っていたの…

万年雪の木

地図にも載ってない辺鄙な場所にとんでもなく大きな大きな木がある。頂上は万年雪に覆われ 雲の上に白く鋭く突き出ている。木の下は日陰となり、夏でも涼しい。と言うか、幹の近くなんぞ寒いくらいだ。木陰に入るには注意が必要。雪解けの水が滝となって降り…

ママの店

いらっしゃい。さあ、どうぞ。なにも遠慮することはないのよ。やりたいように振舞ったらいいわ。裸になりたかったら裸になっていいの。あなたの自由よ。なんでも許してあげる。許されたくないなら許さないけどね。わかるでしょ。ここはそういうお店なの。お…

美女の解剖

これより美女の解剖をおこないます。美女の入手方法について制限はありません。ただし、解剖前に皮膚を傷つけないこと。また、なるべく新鮮な美女を選ぶこと。一般に美女は、とても腐りやすいのです。さて、いよいよ執刀に入りますが麻酔が効かない場合、美…

美女の飼育

飼育できる美女は限られております。血統は重要ですが絶対ではありません。美しくあり続けるための強い意志が求められます。歪んだ鏡を見せつけられただけで本当に顔が歪んだ、という事例さえあるのです。さて、その飼育可能な美女ですが一般に若いほど飼育…

まちがい電話

もしもし。あら、すみません。私、まちがい電話したみたいね。本当に、ごめんなさい。でも、ちょっと待って。あわてて切らなくてもいいでしょ。このまま電話の相手をして欲しいの。もし、そんなに忙しくないのなら。そう、相手は誰でも良かったの。ううん、…

またくそ

また雷が落ちてきた。 くそっ。 頭に避雷針なんか立てるんじゃなかった。また火事だ。 くそっ。 おちおち放火もできんぞ。また「ワン、ワン」吠えてやがる。 くそっ。 変な牛だ。また妊娠してしまった。 くそっ。 おれは女だったのか。また殺された。 くそっ…

泣き兎

あたいは兎 泣き兎赤い目をして 泣いてるの なぜ泣く 兎 笑いなさいなぜかしら 笑っていてもすぐに泣きたくなっちゃうの うそ泣き兎 笑えない笑っていると 空しくて泣いていると 楽しくて元「koebu」makotoさんが演じてくださった!Crying RabbitI am a rabb…

不完全犯罪

夜明け前に帰宅できた。呼吸を整え、なんとか鼓動を鎮める。ゆっくりと汗が冷えてゆく。「とうとう、やってしまった」計画通り。完全犯罪の達成だ。目撃者は皆無。アリバイは完璧。指紋を残すようなばかじゃねえ。盗みじゃねえ。そんな安っぽいもんじゃねえ…

ピンクの豚

僕は、ひとりの友人と一緒に道を歩いていた。あたりに人家はなく、荒野が広がっていた。かなり前から僕たちは空腹を感じていた。重い足を引きずりながら食堂を探していた。道端には、たくさんの豚の死体が捨ててあった。それらは鼻の先から尻尾まで ペンキで…

動物の顔

あらゆる人の顔が動物の顔に見えてしまう。キリンであったり、キツツキであったり。熱帯の珍しいカエルの顔さえ見たことがある。あまりに奇妙な顔が多いので分厚い動物図鑑を購入してしまったほどだ。もちろん最初は驚いた。信じられなかった。ある朝、目覚…

ぼやけた水滴

あの子が笑うと この子が泣くの おめめ閉じたら うなじに ポタリなにしているの どうするつもり コケシが落ちる 虫の音 チリリ誰も来ません どこへも行かぬ ぼやけた水滴 心に ジワリ「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!元「koebu」宏美(ろ…

歯みがき

無理やり引き剥がすように起床した。完全に目覚めた状態ではなかった。口の中が気持ち悪い。歯をみがきたい。なんとか浴室の洗面台にたどり着く。練り歯みがき? そんなの使わん。水だけで十分だ。文句あるか。で、目を閉じたまま歯をみがき始めた。けれど、…

浜辺の風景

長方形の砂浜 隣接する人工芝の美しい公園 晴れた休日のひと時を楽しむ人々 ピクニック気分で海草を食べる家族連れ スイカの隣で頭を割られたお父さん 迷子の坊やをやさしく波がさらってゆく 手首を残して砂に埋められた少年 砂がつかないように白い靴下を脱…

ゆっくり壊れる

ゆっくり壊れる 夜もすがら なんの恨みもあるまいに ゆるゆるゆると ゆるゆるとあやしく乱れる 夜もすがら なんら手柄になるまいに あやあやあやと あやあやと 「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!元「koebu」田辺千鶴さんが歌ってくださっ…

鼻つまみ

あいつは臭い。あいつは汚い。あいつは村一番の嫌われ者。 村の者、鎮守の神よりあいつを恐れる。年頃の娘は無論、古女房まで家に隠す。老婆や幼女、さらには雌犬や雌鶏まで隠す。あいつは村の恥。あいつは村の鼻つまみ。あいつが歩けば、野に枯れ草の道でき…

やすらかな眠り

やがて訪れるであろうところの やすらかな眠り それが実際にやすらかである必要はなく 眠りですらなくともかまわないやすらかな眠りである と思えば または そう思えるなら それでいいのである「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!Peaceful S…

漂流

大海原の真ん中あたり 小型の救命ボートが漂流している。「喉が渇いた」髭だらけの男がうめく。「あんたのせいよ」乱れ髪の女がなじる。「うるさい!」「どっちが」夫婦のようである。女は赤ん坊を抱えていた。「乳は出ないのか?」「あんたの分まではね」「…

運命の悪戯

私がこうして書いていて あなたがそうして読んでいる。どうしてこんなことが そんなことになるのか なんだか不思議な気がする。もし私がこうしなくて もしあなたがそうしなかったら そこにはきっと また別の世界が広がっていたはずなのだ。そんなふうに いく…

裸で散歩

真夏の真夜中、灯りもつけず書斎にひとり。昼寝をすると眠れなくなるのは知っていた。それでも、暑くて明るすぎる昼は眠い。それで、こんな真夜中に目が冴えてしまう。あれこれ、色々なことを考えていた。そのうち、裸で散歩したい気分になってきた。裸で人…

バスの受け身

バスに乗っている。もうすぐ終点に着くはずである。降車するなら前から三番目の席が良い。そのことは過去の経験から知っていた。だが、前から三番目の席は塞がっている。過去の経験を活かせないとは残念だ。前方より大型トラックが突っ込んでくる。バスの運…

爆薬

「これは大変だ」「博士。どうしました?」「どうにもこうにも動けないのだ」「すると、研究は失敗ですか?」「いや、成功だ。だから、大変なのだ」「超高性能爆薬は完成したんですね」「そうだ。惑星なんか一瞬で消滅する」「すごい。博士、おめでとうござ…

爪の絵

高名なる爪彫師(つまほりし)に白い手首を贈ります。 細い華奢(きゃしゃ)な指たちが泳いでいます。 いったい誰の髪を撫でたのかしら。 それとも誰の背中を傷つけたの。 ほら、ひどく懐かしい気がしませんか。思い出の指輪の跡が残っているみたい。 あら、まさ…

なんでもない

あら、なにを期待しているわけ? あんたを喜ばせるつもりなんかなくてよ。あたしが勝手に喋ってるだけ。だから、べつに聞かなくたっていいの。まあ聞いてくれても、かまわないけどさ。新聞を隅から隅まで読む人みたいにね。そう、まったく変な人がいるわよね…

夏の少女

ひとり、炎天下を歩いていた。地上には夏がのさばっていた。熱気のために風景は歪んで見えた。木々は枝を垂れ、葉は焦げ臭かった。猫が倒れていた。死んでいた。犬が倒れていた。死んでいた。人が倒れていた。やはり死んでいた。まだ生きているだけ幸運なの…

姿見

嫁入り道具の箪笥に貼りついた姿見が ある朝、めりめりと音を立てて剥がれ 戦場で消息が途絶えたはずの夫が現われる。割れた硝子の破片が女の手首に突き刺さり 手首から床に垂れ落ちる血を女は見詰める。それを夫も表情のないまま見詰めている。ねじ切れそう…

なつかしい泉

山道が途切れてしまった。 それでも藪をかき分けて進んだ。子どもの頃の記憶だけが頼りだった。追われる獣の気分にさせる、蜂の羽音。あやうく転落しそうになる、崖。顔や腕に蜘蛛の巣が絡みつく。服は露と汗で濡れ、不快で重かった。(ここだ。やっと見つけ…

誰も止めない

犬が歩いていたので蹴飛ばしてやった。けが人がいたので傷口をひろげてやった。いい女がいたので辱めてやった。いやな男がいたので痛めつけてやった。平等だったので差別してやった。平和だったので戦争を始めてやった。どんなことでもできるのだった。やり…

空の笑顔

随分前に寝床に入ったのだが 外が騒がしくて眠れない。「わあ、すごい! すごい!」近所の奥さんの声が聞こえる。らしくないな、と思う。彼女はインテリだ、と近所で評判なのだ。起き上がり、窓を開け、外を眺める。渡り鳥の群のようなジェット機の編隊が 青…