Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧

もしも幽霊

もしも蚊が幽霊なら 気になって気になって 眠れない。潰しても潰しても潰しても遠く近く聞えるあの羽音。疲れ果て灯りをつける。どこにも蚊はいない。背筋に寒気が走る。なにしろ季節は冬なのだ。 もしも星が幽霊なら ほとんど誰も 気にしない。さまよえる幽…

歯車

体調が悪い。だるくてしかたない。歩くことすら困難に感じられる。ふと、なにか落ちたような音がした。歩道には枯葉がたくさん落ちている。 よく見ると、小さな歯車が転がっていた。なかなか精巧な歯車だが、錆びている。それを拾い、ポケットに押し込んだ。…

くれない

赤い花、いと美しけれど人の花。垣根越し名を呼べどつれなくて、振り向いても紅。 自作朗読。「note」yayaさんとデュエットも!元「koebu」makotoさんが演じてくださった!「note」raydraさんが動画にしてくださった!Sunoで作曲。 Kurenai Red flower, It i…

手提げ女

麦わら帽子のひさしの下 まっすぐな一本道がどこまでも延びていた。ひとりの女がすぐ前を歩いていたが その腰のところに取っ手が付いていたので つい声をかけてしまった。「お嬢さん、お持ちしましょうか?」「あら、すみません。お願いします」女は地面に四…

セピアの天使

翼を傷めたら空は飛べない。お笑いぐさね、色あせた天使。セピア色の夢、みんな昔話。神様のお顔も忘れてしまった。 元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった!Sunoが作曲。 The Angel of SepiaI can not fly the sky any more if my wings are d…

さくぶん

きょうがっこうへいきました。とてもおおきながっこうでした。たくさんのせいとがいました。すぐにともだちができました。かおのないおとこのこです。かわいいこいびともできました。ろうかにおちてたおんなのこです。あかちゃんもできました。まだらんどせ…

ポスト

わたしはポスト 空っぽのポスト あなたの手紙 届かない 「note」時雨賢治さんが演じてくださった!元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった!Sunoが作曲。 PostI am a post.Empty post.Your letter Will never reach me.

黒板消し

「おい。黒板が汚いぞ」教師に注意されるまで気づかなかった。不謹慎な落書が、消されずに残っている。黒板をきれいにしておくのは、当番の仕事だ。あいにく、今週の当番は自分なのだった。黙って席を立ち、黙って教室の前に進む。黙って黒板消しを持ち、黙…

ここ

いま わたしはここにいます。そう わたしはここにいるのです。でも あなたはここにいません。そう あなたはここにいないのです。 元「koebu」nyapipi///aprileさんが演じてくださった!Sunoが作曲。 Here Now I am here. So I am here. But You are not here…

たまご屋

犬のたまごを買ってきた。一晩抱いて温めたら、生まれた。かわいらしい子犬だった。水を飲ませたら、大きくなった。顔をベロベロなめられた。朝から晩まで一緒に遊んだ。なのに翌朝、犬は死んでいた。床は水びたしだった。説明書どおり。悲しかった。誰か、…

リフレイン

あなたはまるでそこにいないみたいに わたしの目の前にいないみたいに あなたは本当にいないみたい いったいどこへ行ってしまったのと わたしが尋ねるかもしれないと あなたは予感したのかしら かしらかしらかしらかしらかしら リフレインとよぶのかしら こ…

壁画の目

「食堂に壁画があるな」「うん、あるね」「それを昨日、深夜にひとりで見たらな」「うん。どうしたの」「あの聖母の目が開いていたんだ」「うん。それで」「ちっとも驚かないな」「どうして驚くわけ?」「聖母の目が開いていたんだぞ」「うん。ぱっちり開い…

水中花

透明なグラス越し 表面張力の水面越しに 涼しそうに花弁を開いて いったいなにを期待してるの? ひんやり冷たい水の中 風に吹かれて揺れもせず 蝶や蜂に触れさせもせず ただ黙って咲いてるだけなの? けれど やっぱり なんにも答えてくれない 水中花 元「koe…

奇妙な部屋

なんとなく奇妙な部屋なのである。どこが奇妙なのかよくわからないので なおさら奇妙な感じがする。壁と床と天井があって、家具もある。普通の部屋のはずだが、どこか違う気がする。そう言えば、出入り口らしきものが見当たらない。ところが突然、ドアが開い…

風のノック

ある風の強い日に誰か玄関のドアをノックする。「どなたでしょう?」返事がない。ドアを開けても誰もいない。ただ風が髪をゆらすだけ。 元「koebu」makotoさんが演じてくださった!Sunoが作曲。 Wind knocksOn a strong wind day,Someone knocks on the entr…

酒の神

酒の神が恋をしました。その相手は恋の女神でした。でも、恋の女神は恋などしません。他人の恋心に火をつけるだけです。憧れの神の世話にもなりません。嫉妬の女神なんか会ったこともありません。だから結局、酒の神は失恋したのです。酒の神は、悲しみのあ…

イグアノドン

イグアノドンが森へ帰ってゆく 長いのか短いのか 楽しいのか哀しいのか よくわからない一日を終えてイグアノドンが森へ帰ってゆく 夕暮れの赤い空が その大きすぎる背中を 小さなシルエットに変えてイグアノドンが森へ帰ってゆく元「koebu」田辺千鶴さんが歌…

ウンコタウン

地図はまちがっていた。デタラメだった。要塞があるはずの場所に火葬場があった。さすがに疲れてしまった。もう歩けない。橋があるはずだった公園の芝に寝転んだ。土の臭いがした。いや。大便の臭いだ。公衆便所が近くにあるのだろう。ありそうな話だ。ここ…

兎の島

昔、この島に、たくさんの兎がすんでいた。動物は、兎の他に一匹もいないのだった。ある日、一羽の兎が海岸を散歩していると砂浜で見知らぬ動物を見つけた。波打ち際に倒れていたのは、一匹の狼。どうやら漂流して、島に流れ着いたらしい。「いったいなにか…

危険な丘

異臭漂う危険な丘の上ではドラム缶から黄色い液が流れ錆びたボルト草にナットの花が咲く六本足のネズミが笑っている横では病気持ちの浮浪者が眠っている潰れた車体から白い足をはみ出していかれた歌を口ずさんでいるのは家を出たばかりの家出少女 なんだか …

倉庫の床

縛られ、倉庫の床に転がされている。コンクリートの床の冷たさとかたさは ああ、拉致されているんだなあ という感慨で私の胸を一杯にさせる。肩から足首まで焼き豚のように縛られ さらに両手に手錠までかけられていながら 猿ぐつわを口にはめられていないの…

鏡も見ず 麻痺した触覚を頼りに そおっと指先でつまんで べりべりべりべりべりべりと はがした唇の干からびた皮を どこに捨てようか 考えてない 痛みを伴い 錆びついた血の味を ぬらりと舌先に感じ ぺろぺろぺろぺろぺろぺろと 濡れはじめる唇のひび割れを …

猿山

とうとうお山に雪が降り始めました。子猿が空を見上げて叫んだものです。「大変だ。落ちてくる。空が落ちてくる」子猿は降る雪を初めて見たのでした。雪はいく日もいく日も降り続きました。ようやく晴れたのは元旦の朝のこと。きれいな初日の出がお山から見…

雪ん子

なんにもない 暗い空だけど 雪降れば 白いお山 あらわれて 村に雪ん子 やってくる 雪みの 雪ぐつ 雪化粧 リンゴ食べたよな赤い頬 笑顔こぼれて ぼたん雪 泣いたら みぞれ 手袋ぬれて こな雪 わた雪 雪わたり すべって転んで 雪合戦 雪ん子 村の子らと 遊ぶけ…

理科室

理科室で彼女を待っていた。理科室は暗かった。やや寒くもあった。人体の骨格標本が奥に白く立っていた。外の元気な声は、陸上部の練習だろう。戸棚には、あやしげな薬瓶と実験器具。緑色に濁った水槽。空気ポンプの音。いつまでも彼女の来るのを待っていた…

かなわぬもの

おいらの夢は あたいの恋はかなわぬ夢 かなわぬ恋かなう夢など かなう恋などつまらぬ夢 つまらぬ恋つらい夢なら つらい恋ならいらぬ夢 いらぬ恋かなわぬ夢こそ かなわぬ恋こそまことの夢 まことの恋元「koebu」で共演の競演!Sunoで作曲。 Never Come TrueMy…

タイムマシン

さてさて。ついにタイムマシンが完成した。さっそく過去へ行ってみよう。スタート! おや。もう着いたようだ。どれどれ。なつかしい風景が見えるかな。あっ!なんということだ。失敗だ。未来に着いてしまった。くそっ。まだなにもないぞ。~~~~~~~~~…

ふたりの少女

夢見る少女は目覚めた少女より楽しい。鏡に映る少女は鏡の前の少女より美しい。手紙の中の少女は手紙を書いた少女よりやさしい。ひとりの少女が問いかける。「あなたは誰なの?」もうひとりの少女が問いかえす。「あなたこそ誰なの?」元「koebu」makotoさん…

動物病院

熊のぬいぐるみの具合が悪いので 動物病院へ連れてゆくことにした。まちがっているけど、しかたないのだ。私は動物が好きなのだけれど 私が住んでいる団地では、規則により犬猫を飼ってはいけないのである。それで犬猫のぬいぐるみを探したけれどなかなか良…

聖夜の恋人

静かな夜 聖なる夜 恋人は来ない 化粧して 着飾って 待っているのに 素敵な贈物だって 用意したのに それでも やっぱり 恋人は現われない 再会の約束なんか していないけど たとえ約束したって 再会じゃないけど 会ったことさえ ないのだから なにしろ 初め…