Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

いやらしい話

病院の白い蝶

看護婦がいるから病院に違いない。診療室と言うより手術室のように見える。なぜか一匹の白い蝶がヒラヒラと 空色の部屋の中を飛んでいる。その部屋の中央に上半身裸の男が立ち いかにも粗野な性格を顔と体全体で表現している。しきりに両腕を曲げて力こぶを…

蝶の香水

女の匂いが変わった。それは鼻の悪い男にもわかるほどに。「香水を変えたの」微笑む女。「蝶の香水よ」男は蝶の性フェロモンを連想する。「花の蜜でも調合したのかい?」「さあ、どうかしら」女は翅(はね)をひろげる。「ねえ、ご存じ?」困ったように男は首…

壁から太もも

寝室の壁から太ももが生えてきた。と言うか、若い女性であろう片脚が突き出てきたのだ。生モノである証拠のようにクネクネ動いている。壁に穴があいていて、そこに愚かな女の子が脚を突っ込んだ というわけではなさそうだ。その壁の向こう側は廊下であり 誰…

あえがせたくて

ここをこうして こうやって それから おっと こんなことまでやらかして さらには あれ それはいくらなんでもごむたいな みたいなことまでやってしまって いやいや まだまだ このていどではすむまいぞ とかいいながら あんなところを あんなふうにして あまつ…

ボタンの掛け違い

まず最初にボタンを掛け違えてしまった。「そこじゃないってば」さらにボタンを掛ける途中でもボタンを掛け違えてしまった。「違うってば。ここよ」だいたい、もともとボタンの数とボタン穴の数が等しくなかった。「あんた、そっちの趣味があるの?」しかも…

奇妙な体位

その体位はとても奇妙なので 普通の人には思い浮かびもしない。また、仮に想像できたとしても 普通の人にはおそらく実行できまい。その体位がどれくらい奇妙かと言うと まず言葉では説明できないくらいである。おそらく物理的に無理があるのだろう。色々と込…

巨乳の惑星

進化と呼ぶべきか、あるいは退化なのか 珍しいヒト型知的生命体が生息する惑星がある。女性ばかりか男性まで乳房が大きく、つまり いわゆる巨乳の、しかも巨乳ばかりの惑星なのである。もしもこの星へ、胸部発育不全な、つまり いわゆる貧乳の、ごく普通の地…

小人の群

小人の群に襲われた。逃げても逃げても追い迫る。からだ小さいくせに足はめっぽう速い。ゾロゾロゾロゾロ、無数の足。ペタペタペタペタ、無数の手。ニヤニヤニヤニヤ、無数の顔。蹴散らしても蹴散らしても、キリがない。踏みつぶしても踏みつぶしても、くた…

身体検査の日

本日、学校で身体検査がある。身長や体重はいい。胸囲や座高もかまわない。血圧もいいだろう。視力や聴力も大事だ。検尿も血液検査も仕方ない。しかし、あれは困る。あれは恥ずかしい。個室で下着も脱がされて検査される。つまり、裸にされるわけだ。男子の…

恥ずかしがり屋

ええと あのあの すみません じつは その あたし 恥ずかしがり屋 なんです ええ そうなんです とっても とっても 恥ずかしがり屋 なんです あら いやだわ 恥ずかしい 困ってしまうわ そんなに見ないで ますます 恥ずかしく なっちゃうわ あたしって いつでも…

つぼみ

こんな草、見たことない。すてきな草だけど、誰も知らない。きっと花が咲いたら、わかるはず。やがて、つぼみがついた。みんなの期待もふくらんだ。ある朝、ついに花が咲いた。「だめよ、だめだめ。 見てはいけません!」母親は我が子の目を両手でおおった。…

図書室

歴史は乱れた順番で並んでいる。地理における国境はあいまいだ。科学技術は本棚からあふれている。哲学と宗教はほこりに埋もれている。文学は陳腐化し、政治は硬直化している。ある高校のありふれた図書室の風景。本棚のかげに女子生徒がひとり。その真剣な…

二頭立て馬車

王女を乗せた二頭立て馬車が止まらない。「止めて、止めて! 誰か、助けて!」いくら叫べど止まらない。縦に馬を二頭並べた王家の馬車。先頭が若い雌馬、後ろに若い雄馬。この雄馬、やむにやまれず発情している。目の前の尻に追いつこうと頑張っている。だけ…

ダメよ。

あら、ダメよ。まだまだ我慢して。あせっちゃ、ダメ。まあ、いやな目。そんな顔、しないの。ほんとに、もう。ねえ、いい? よーく考えてよ。モノゴトには、裏と表があるの。みんな、そうよ。聞こえる声が、いつもホンネとは限らないわ。そりゃ、信じるのは簡…

踊る巫女

両手に握った枝ふたつ うつろな瞳の巫女(みこ)ひとり 花髪飾り 白い足袋(たび) 紅の袴(はかま) 紺の帯巫女は踊る リスになり 柳に揺れて 竹に跳ね 巫女は踊る 谷を抜け 沼を渡り 山を越え森のけものに囲まれて 素足の裏を舐められて 丸い月 ひとつ おっぱい …

大きな瞳

大きな瞳に見つめられている。あたりは深い闇に包まれ、その瞳の他に何も見えない。触れたくなるほど魅力的な瞳。その瞳に吸い込まれてゆく指。指先が瞳の中心に突き刺さり、そのまま手首まで埋まってしまう。さらに腕がズブズブ奥へ入り込む。めりめりと音…

弓の名人

ある山に猟師がいた。弓の名人であった。狙った獲物は逃さない。どんなに高く飛ぶ鳥であろうと どんなに速く駆ける獣であろうと。畜生どもには伝わるらしい。猟師が狙えば鳥は落ちてくる。猟師が射る前に獣は倒れてしまう。弓矢などいらないのだった。ある日…

闇女

これは、私の友人の話。その友人が暗い部屋にひとりでいる。すると、音もなく女が部屋に侵入してくる。普通の女ではない。扉は閉まったままなのだ。友人は、この女を闇女と呼んでいた。闇に潜んでいると考えたのだ。闇女は長椅子に横たわる友人を見下ろす。…

画家とモデル

画家の前にモデルが立っている。いわゆる美女である。そして、全裸だ。なにやら悩ましげなポーズをとっている。うらやましい状況だが 画家は裸婦を描きたいわけではない。着衣のモデルでは ふたりの関係を妻に疑われるからだ。じつは彼女、画家の恋人でもあ…

水着の周辺

大きな島だ。半島かもしれない。すぐ近くで一組の家族が遊んでいる。ビーチボールを使っているようである。なぜか視界が限定されているためここからでは家族の姿を見ることができない。にぎやかな笑い声だけが聞こえてくる。やがて、少年と少女が目の前に現…

脱ぐ女

朝の通勤電車の中である。ただし、それほど混んではいない。「失礼して脱がせていただきます」礼儀正しく断りを入れてから女はコートを脱ぎ始めた。乗客らは怪訝な表情で女を見る。女はコートを折り畳むと網棚に置き 続いて上着も脱ぐのだった。優雅な仕種。…

熊の置物

残業を終えて、退社するところ。他に社員が二人いて、一緒に外に出る。私はポケットから玄関の鍵を取り出し ドアの鍵穴に差し込み、一回転させる。まるで手応えがない。見ると、シリンダー部分が抜き取られている。いったいどういうことなのだろう。部下の男…

おぞましき告白

私は人を殺したことがあります。夜道で痴漢に襲われた時のことです。私はもう必死で抵抗して暴れました。持っていた傘で男の顔を突いたのです。その石突が男の眼窩に刺さりました。先端が脳まで達して、男は即死。正当防衛で私は無罪になりました。その時、…

検品

いわゆる女子高生であった。つまり、セーラー服を着た少女である。(やれやれ、またか)さすがに疲れが出る。まだ休憩時間には程遠い。だが、やらねばならんのだ。これが仕事なのだから。まず、ざっと全身を目視検査する。幼い表情。顔立ちは整っている。す…

缶詰

迷い込んだ青空市場で買い物をした。いったい何を買ったのか? 夕方、帰宅してから疑問が浮かんだ。それをリュックサックの中から取り出す。缶詰であることは間違いなかった。ただし、印刷された外国の文字は読めない。なにやら神秘的な雰囲気を漂わせている…

壁に耳

部屋の四方は壁に囲まれていた。一番目の壁に耳を当ててみる。 「餌はやるな」 「水は?」 「同じだ」 「換気は?」 「必要ない」 「明かりは?」 「いらん」 「音は?」 「立てるな」 「においは?」 「そのうち勝手に臭くなるさ」息苦しくなってきた。二番目の…

混浴

ひなびた温泉である。見上げれば凍るような満天の星空。冬の夜の露天風呂というやつだ。うら若き女がひとり、湯船につかっている。おそらく都の高貴な娘であろう。その透けるような白い肌。細いうなじや丸い肩が湯気に揺れて悩ましい。いかにも気持ち良さそ…

踊り場の犬

巨大な百貨店を遵想させる建物。その内部。なぜこんな場所にいるのかわからない。そもそも商品が陳列されてない。エスカレーターもエレベーターもない。百貨店を連想した自分自身がわからなかった。しかしながら階段はあった。とりあえず下りてみよう。すぐ…

映画館の噴水

高層ビルの地下にある映画館。スクリーンには裸婦の背中が映っている。その女の顔の前には裸の男の腰がある。どうやら成人映画のようだ。上映が終わり、館内が明るくなる。他人に顔を見られるのが恥ずかしい。席を立ち、トイレに向かう。我慢していたつもり…

帰りたくないの

その女の髪には花が飾ってある。造花ではなく、本物の花。切り花ではない。頭に生えているのだ。花蜜に誘われ、蝶や蜂が寄って来る。そして、花粉にまみれて飛んで行く。「今夜、帰りたくないの」花弁に似た唇が囁く。「わかるでしょ?」その手相は、まるで…