Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

無邪気な話

飼育

乳離れしたばかりの幼女を飼う。ペットである。ただもう可愛がりたいから飼うのだ。法律のことなんか知らない。気にしない。望み通りの美女に育てるだけだ。座敷牢の中に押し込め、家の外へは出さないつもり。世間の事など教えてやるもんか。いやいや、待て…

近所の子

子どもの頃、女の子と遊んでいた。目が大きくて、口が小さくて、髪が長かった。見上げる笑顔が可愛らしかった。ふたり、色々なことをして遊んだ。ただし、いつも家の中に閉じこもって。なぜか家の外では遊ばないのだった。たとえば色紙で鶴を折って、それを…

狐の神様

空を見上げ、狐が呟いた。「狐なんかつまらない。 ぼく、鳥に生まれたかったな」それを耳にしたのが、木の上にいた天狗。「おまえを鳥にしてやるぞ。 どんなのが望みだ」木の上からの声は、まるで天からの声。「ああ、神様ですね。 ぼく、鷹になりたいな」「…

大猫の町

ああ、大変! 小猫に餌をやったら大猫になっちゃった。家の塀を壊して大猫は町に飛び出した。町の人たちを追いかけ、爪で引っかき、踏みつぷし、半殺しのまま食べてしまう。児童公園のジャングルジムの上に逃げても近所の友だちのアパートに逃げても大猫に狙…

麗しき楽団

その楽団の団員はみめ麗しき美女ばかり。見ているだけで得した気分。聴けばもっと得をする。さて本日は、森の広場で演奏会。招待客は小鳥や小鹿、リスや蝶。そして勿論、あなたもね。手作り楽器に即興曲。譜面を見つめる真摯な瞳。揺れる髪と花飾り。端正な…

歌姫

古き良き音楽の都。ここで歌姫は美しい産声(うぶごえ)をあげた。父は骨董品の蓄音機。母は由緒あるパイプオルガン。教会の鐘の音に合わせて泣いたとか。鳥が集まるため、生家は鳥屋敷と呼ばれた。幼い歌姫の声に呼び寄せられたのだ。近所の子どもにいじめら…

イルカの曲芸

イルカなのだが、海イルカではなかった。川イルカでもなくて、陸イルカ。海を泳ぐのが、海イルカ。川を泳ぐのが、川イルカ。そして陸を歩くのが、陸イルカなのだ。スラリと二本脚で立っている。正面から見れば人と区別できない。ただし、背中に大きな背ビレ…

犬に噛まれて

工事途中のプレハブ住宅のような建物。開いた玄関から外の景色が見える。奥に道があり、大きな黒い犬が 歩きながら興味深くこちらを眺めている。あんなのに入られては大変だ。ところが、あいにく玄関には扉がない。ともかく入り口を塞ぐべきだろう。建物の中…

天の渡し

天の川を小舟で渡っていた時のお話です。風はなく、ほとんど波もありませんでした。川面に目をやると、魚が泳いでいました。これはまた珍しい事があるものです。近づいて来たので姿がはっきり見えました。どうもそれは魚とは違うようです。二の腕まで水中に…

メリーちゃん

メリーちゃんは歌が上手でした。あまりにも上手なのでその歌を聞いて偉そうな大男が泣き出したり自閉症の子ともが笑い出したり今にも死にそうな老人が怒り出したりお喋りなお嬢さんが黙ってしまったりそんなふうにいろいろ奇妙なことが起こるのでした。そん…

のん気な旅

「あの、お尋ねしたいのですが」私は、異国の地で異国の人に自国語で尋ねてみた。「サナトダミアに続く道は、これですか?」異国の人は無表情だった。あるいは、あやしい異人である私にあやしい言葉で呼び止められ、どんな表情をすればいいのか迷っていたの…

誕生日のキャンドル

誕生日、正確には前日にケーキをもらった。先にあげた誕生日プレゼントの お返しではあるけれど考えてみると 誕生日にケーキをもらった記憶がない。なにしろ子どもの頃は 誕生日を祝う習慣がなかったし 誕生日を祝ってくれる親しい人も いないわけではなかっ…

明けの明星

「我が名は、明けの明星なり!」早朝、愛犬を散歩させていたらステテコ姿の老人が走り過ぎながら宣言した。ああ、いやだいやだ。体が頑丈で頭が岩石みたいな老人にはあたしゃ、なりたくないね。 健康を見せびらかすのが趣味なんだろうな。誰も見たくないから…

トトカ湾の女

ボートを盗み、女はトトカ湾へ逃げた。艦隊がボートを囲むように追う。女を海洋へ逃がしてはならない。捕獲が難しくなってしまうからだ。すっかり艦隊に包囲された女は 諦めの表情、濡れたドレス。艦隊総指揮官として 俺は甲板から女を見下ろす。女の手に光…

唐突な迷惑

もうどうでもいいや、と思った。本当に、どうでもよくなってしまった。「あの、唐突でご迷惑でしょうが」そんなふうに見知らぬ女に声をかけた。「はい。なんでしょう?」目と目が合った。その素敵な瞳。いつまでも見つめていたかった。しかしながら抱きしめ…

追究の住宅街

夜の住宅街を歩くのはきらいだ。犬は吠えるし、猫は死んでるし。それに水道のポンプなのかエアコンの室外機なのかモーターの音は耳障りだし。そりゃたまには良いこともあるけどさ。眠れない若奥さんがパジャマ姿で袋小路でひとり踊っていたりして。だからな…

血の川

「あっ!」ポタポタと血が垂れた。割れたグラスで手を切ってしまったのだ。垂れた血は白い食卓の上に 小さな赤い池を作った。すぐに池はあふれ 川となって流れ やがて食卓の縁から 滝となって落ちてゆく。それにより、その真下 ダイニングの床の上に小さな滝…

ゾウの教訓

ひとつの小さな村が 一頭の大きなゾウに襲われた。そのとてつもなく巨大なゾウは なんでも踏みつぶしてしまうのだった。こいつを退治しなければ村は全滅する。「ダメよ、ダメダメ。 ゾウを殺すなんて、かわいそう」そんな心優しい女は まっ先にゾウに踏み殺…

子どもの言い分

ぼくが親を選んだわけではないし ぼくが国を選べたはずもない。だからぼくは 知らない人たちを親として 知らない国に生まれてきたわけだ。最初は 幼くて弱くて悪くて なんにもできなくて 助けてもらわないことには 生き続けることさえできなかった。大人たち…

才能

友人が落ち込んでいた。「どうしたの?」「おれには才能がないんだ」「そうかな」「まわりは才能ある奴ばっかりだ」「それはそうだね」「もう情けなくってさ」「でも、君だって才能あるよ」「ないって」「いや。あるって」「どんな才能が?」「ええと、ほら…

ゲンブリオ山脈

ゲンブリオ山脈を越えた者は いまだかつていない。例外としては 特殊な渡り鳥くらいだろう。この渡り鳥は 上昇気流を上手に使う。らせん状に旋回しながら とんでもない高度にまで達する。上昇気流の助けがなければ越せないのだ。しかも、一年に一回のチャン…

星に願いを

ねえ、神様。もしも 巨大な流れ星が もの凄いスピードで まっすぐ自分に向かって 落ちてくるのを たった今 気づいたとしたとしたら 「ここに落ちないで 途中で消えてください」という 願い事を しかも三回も 唱えられるものでしょうか? 元「koebu」ロンチー…

刑事

ドアを開けると、そこに刑事がいた。彼は私の名前を確認すると ミイラの猿の手を差し出した。それは私の大切な宝物だった。なぜか紛失してしまい 捜していたのだ。「これ、どこにあったんですか?」私は刑事に尋ねた。「・・・・殺人現場」愛想のない刑事である…

キノコの山

すっかり村は秋景色。キノコの山はキノコだらけ。おかしな色のキノコ 変な形のキノコ わけわからぬキノコがたくさん生えた。すると町の娘たち キノコ採りにやって来た。ルージュとマニキュア 塗りたくってそれ以上短くできそうもない ミニスカート穿いて 無…

動物の絵

イヌが一匹 街中を歩いていた。あっちへ行ったり こっちへ来たり。飼い主の姿は見えない。なんとも挙動不審 迷っているみたい。あっ、なにか見つけたのかな。すごいスピードで走り出した。あぶない。壁にぶつかる! と思ったら 壁に吸い込まれた。信じられな…

クニオ君

昼休みの教室。同級生のクニオ君が僕の肩を叩いた。「ちょっといいかな」そのまま僕の隣の席に腰かける。返事は必要ない。クニオ君は普通の少年ではないから。彼は他人の意識を意識できる。つまり、人の心を読む超能力者なのだ。大人びているから、とても同…

冬の花火

花火セットを友人が捨てるという。花火大会をしようと買ったのだが夏に使う暇がなくて、もう季節は冬。花火が家にあるのは危険かもしれない。だが、そのまま捨てるのはもっと危険だ。「社会人として行動に責任を持つべきだ」そのように主張した結果として花…

ひなげしの花

ひなげしの花咲く丘の上、空高く跳び上がる少女たち。みんなみんな頭に風船をつけている。スカートのすそを押さえながら花びらみたいに降りてくる。着地すると、ふたたびジャンプ!みんなみんな楽しくてたまらない様子。さびしそうな少年がもの欲しそうに見…

たずね犬

行方不明の犬をさがしています。大きな黒い犬で、名前はクロと言います。普通の犬よりからだがずっと大きくて去年、競馬場の近くまで連れていったら首輪をはずして逃げてしまって馬を一頭食べてしまったことがあります。山でひろったときは子犬だったのです…

おもちゃの恐竜

友だちの家に遊びに行った。おもちゃの恐竜を見せてもらった。手のひらサイズ、柔らかなゴム製。のそのそ歩いたり、ジャンプしたりする。濡れたものや温かなものが近くにあると 口をすぼめて突いたりもする。指先を舐めて試してみたら キツツキみたいに激し…