Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

無邪気な話

きこり

森のはずれ、切り株に腰をかけきこりが休んでいました。そこへ、木の実を抱えてリスがやってきました。「きこりさん、お食事はすみましたか?」「いいえ、リスさん。まだですが」「それでは、木の実を食べてくださいな」いくつか木の実を地面に置くとそのま…

羊の群

ひとり、帰り道を急いでいた。ただし、急いでいた理由は思い出せない。街灯の配置により、右側が明るく、左側が暗い。ふと、暗い側を歩いている自分に気づく。かなり疲れているらしい。おや、向こうから騒がしい声がする。ああ、羊だ。毛並みのそろった羊の…

氷の音

深夜に飲み水を切らしてしまったので冷蔵庫の冷凍室から氷を取り出して陶製の器に山盛りにして机の上に置きしばらく氷がとけて水になるのを待っていた。するとほんのかすかではあるけれどコソコソと内緒話をしているようななんとも不思議な音が聞こえてきた…

泥棒会社

これは雑誌で読んだ実話なのだが泥棒会社があったのだそうだ。事務所があり、社長がいて、社員がいて表向きは平凡な会社を装っているが彼らは泥棒して稼いだ利益によって給料を得ていた。泥棒という手段による会社の運営にはやらなければならないことがたく…

あいつ

あいつは、とんでもない奴だ。ずっと昔からいたみたいな顔して不意に目の前に現れる。あんまりまともな人物とは思えない。あいつ、そもそも服装がなってない。今回は、まあ普通の格好みたいだが下着姿だったり、裸の場合も多い。まれに恥ずかしがったりもす…

肘泳ぎ

浅いプールを這っている。潜水は勿論、溺れることすらままならぬ。水深が足らないために泳げないのだ。ただし、プールの底は滑らかなので肘や膝が擦れて痛い、ということはない。たくさんの人々が這っている。スクール水着の女の子が多いところを見るとどう…

おれは監督

おれは監督だ。歩き方が気に入らない。「こら。そこの女、やり直し」おれは怒鳴った。「アタシ?」「おまえだ」「なんですか?」「なんですかじゃない。歩き方が悪い」「あの、よくわかんないんだけど」「まるで女子高生の歩き方じゃないか」「だってアタシ…

やってられるか!

「やってられるか!」旦那が会社を辞めた。「やってられません!」奥さんが家事を放棄した。「やってられねえよ!」息子が学校を退学した。「やってられないわ!」娘が家出をした。さて それからどうなったのかと言うとそれから先のことはまったくなんにも考…

消えちゃえ!

寝坊してしまった。完全に遅刻だ。宿題もやってない。また廊下に立たされる。朝から気分が落ち込む。空模様まで暗かった。(学校なんか消えちゃえ!)心から願った。重い足どりで登校する。だが、学校はなかった。校門も校庭も校舎もない。教師や生徒たちは…

鏡台

ひどく古くて、あやしげな鏡台。亡くなったお婆様の形見だそうです。「これ、あなたにあげるわ」お母様が私にくださいました。「なんでも、あべこべに見えるのよ」おかしなことをおっしゃいます。おそるおそる鏡を覗いてみました。とても愛らしい少女のお顔…

短すぎる昔話

昔むかし、あるところに お爺さんとお婆さんがいたのですが そのうち死んでしまいました。めでたくなし、めでたくなし。 元「koebu」田辺千鶴さんが演じてくださった!元「koebu」yayaさんが演じてくださった!「さとる文庫 2号館」もぐらさんが演じてくだ…

勇者も楽じゃない

さて、おれは勇者だ。買ったり拾ったり奪ったりした チンケな武器を携え 姑息とも言えるような 怪しげな能力を身に付け 裏切らないよう洗脳されてるらしい 信頼できる仲間も得て ひねくれた謎を解いたり あまり芸のない怪物を倒したりの お定まりの苦労の末 …

あやとり

女の子と男の子が向き合って あやとりをして遊んでいる。女の子の指に赤い糸「はい、おばあさんの魔法のホウキ」赤い糸は女の子から男の子の指へ「おばあさん、クモの糸に引っかった」今度は男の子から女の子の指へ「そんなの、カニのハサミでチョッキンよ」…

少女窃盗団

君も噂ぐらい聞いたことあるだろ? 今世間をお騒がせ中の少女窃盗団について。彼女ら、かわいい顔してやるこたぁ凄い。なんでも盗む。なんでも手に入れる。お金も貴金属も宝石も極秘情報も美少年の童貞だって奪っちまう。警察やガードマンは子ども扱い。学校…

野宿

しばらく帰らないつもりだった。ある夏の朝早く、ひとり家を出て 海を目指して歩き始めた。ちょっと心配ではあるが 日暮れ前には海岸へ辿り着けるだろう。歩きやすい靴を履き 眩しいので、サングラス。日射病予防として頭にタオルを巻く。肩に水筒 背にはリ…

のろま

なにごともゆっくりです。はやく話せません。ゆっくり話すと、言葉になりません。というか、誰も聞いてくれません。だから、文字で書きます。こうして、ゆっくり書きます。ここまで書くのに百年かかりました。話すより遅いかもしれません。考えていると、百…

白痴の太鼓

白痴はいつも太鼓を叩いていた。近くにいれば必ず太鼓の音がした。太鼓を叩いていなければ眠っているのだった。きっと太鼓を叩く夢でも見ているのだろう。いつも白痴はどこか旅していた。太鼓が唯一、白痴の道連れだった。白痴だからほとんど言葉は話せなか…

泡の割れる

~~~~~~~~~~~~~~\ぱちん/~~~~~~~~~~~~~~~ ○ ぷ く ○ ぷ く ○ ぷ く ○ ぷ く ○ に ん ぎ ょ ひ め「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださった!Bubbles Break~~~~~~~~~~~~~~\Splat/~~~~~~~~~…

臨月

あっ、動いた! 蹴ったのかな。それとも、殴ったのかな。案外、頭突きだったりして。なんにせよ、なかなか元気そうで 母親としては喜ばしいことだ。でも、いったい誰の子なんだろう? 父親がはっきりしないのだ。だいたいの形がわかればわかるはずなのに 先…

駆け落ち

駆け落ちは、愛し合う二人が 一緒になることを許されない事情がありながら 同棲生活をするため、親元から一緒に逃げること。身分や人種を理由に結婚や交際を親から反対されたり 二人の一方または双方が既婚であったり 望まない結婚を親に強要された場合など…

太陽ヨットレース

第一回太陽ヨットレースは熾烈を極めた。光が鏡に当たって反射すると、鏡に圧力が加わる。これを光圧と呼ぶ。太陽ヨットは、太陽からの光圧を推力源とする宇宙船のこと。誤解されることが多いが、太陽風で飛ばされるわけではない。太陽風は、太陽から吹き出…

お菓子の家

わたしのおうちは、お菓子の家。「おなかすいちゃった!」板チョコの玄関ドアを食い破って バームクーヘンの居間に入ると クッキーのパパと ショートケーキのママ。「わあ、おいしそう!」わたしが両親のスネをかじり始めると 金平糖の犬を咥えたまま カリン…

お昼寝

お昼寝をしていたらあたりが真っ青になってお部屋の窓を開けたらおうちが空を飛んでいたのであたしはびっくりしてよろめいたり転がったりしながらなんとか玄関まで歩いてとびらを開いてみたら庭に変なおじさんがいて変なダンスをおどっていたのであたしはこ…

スクーター少女

彼女は 駆け抜ける さわやかな 一陣の風 小さくて渋いヘルメットの端から 脱色した長い縮れ髪を垂らして スクーターを乗りまわす少女がいる。その凛々(りり)しい姿を目撃してスクーターになりたがる大馬鹿野郎も多い。しかしながら君たち、考えが甘い。彼女…

クラリオン星の友人

クラリオン星の友人が地球にやって来た。「やあ。久しぶり」「会いたかったよ。元気そうだね」クラリオン星は五次元世界の惑星なのだそうだ。太陽を挟んで地球と点対称の独立した軌道をとっている。 太陽が邪魔して、地球から見ることはできない。クラリオン…

ガラスの宮殿

ガラスの宮殿のお姫様から使者がやってまいりました。「レンガの宮殿の王子様へ申し上げます。 今宵、ガラスの宮殿で行われます舞踏会に ぜひともお越しくださいませ」レンガの宮殿の王子様は使者に言われました。「それはそれは、大変に名誉なお話でござい…

ご要望は?

部屋の窓から水平線と地平線が見える。海と草原と山と湖と滝と池だって見える。さらに空には虹とオーロラまで。「どうだい、ここは?」おれはフィアンセに尋ねる。「そうね。なかなか悪くないわね」彼女、あまり嬉しそうじゃない。「なにか不満ある?」「ま…

青いネズミ

ノックもせず、部下が部屋に入ってきた。「ボス。こいつを見てやってください」部下の手の中には、一匹の青いネズミ。「なんだ、それは」「じつはですね、このネズミを怒らせると 左のポケットに入ったりするんですよ」「それで、どうなるというんだ」「まあ…

誰も止めない

犬が歩いていたので蹴飛ばしてやった。けが人がいたので傷口をひろげてやった。いい女がいたので辱めてやった。いやな男がいたので痛めつけてやった。平等だったので差別してやった。平和だったので戦争を始めてやった。どんなことでもできるのだった。やり…

笛吹きの森

ある山の麓に森があって 滅多にないことだが お山の方角から風が吹くと 美しい笛の音が聞こえる。それゆえ村の者は、その森を 「笛吹きの森」と呼ぶ。笛の音が聞こえたからといって べつになにか恐ろしいことや めでたいことが起こるわけでもないが そのまま…