Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

楽しい話

首が痛い

「首が痛い」と冷蔵庫が言う。「どこに首があるんだ?」と問うてみたくなった。 元「koebu」宏美(ろみりん)さんが演じてくださった! My Neck Hurts"My neck hurts."The refrigerator says."Where is your neck?"I wanted to ask.

鬼が笑う

家のまわりをすっかり囲まれてしまった。鬼どもの恐ろしい声がする。「出てこい、出てこい。 出てきたら、出てきたら つかまえて喰ってやる、喰ってやる」そして、ものすごい笑い声。押し入れに隠れても聞こえてくる。「出てこい、出てこい。 出てきたら、出…

永遠の球根

やらなければならないんだ。損とか得とか、そんな低次元の話じゃない。仲間が死んでも、その恋人が泣いても皆から非難され軽蔑されてもそんなこと関係ない! 比べられないんだ。絶対にやり遂げねばならないことなんだ。これは永遠に引き継がれるべき問題。数…

石蹴り

公園で子どもが石蹴りをしている。地面に丸や四角の線を引き 石を蹴りながら片足になったり歌ったり笑ったりしている。石なんか蹴って、いったい子どもは何が楽しいというのだろう。ふと見下ろすと、俺の足もとに蹴りやすそうな石が落ちていた。なんとなく俺…

歩く練習

たそがれの公園。「なにしてるの?」たずねる少女。「歩く練習」こたえる少年。「池の底を?」「水面を」「まさか」「本当さ」「うそつき」「まず右足を水面に」「歩けるもんですか」「右足が沈む前に左足を」「そんなの無理よ」「あれ?」「ほらね」「おか…

ヴァイオリン

わたくしは縄梯子(なわばしご)を伝い 二階のベランダから忍び込みました。お嬢様は大変驚かれたようでありました。「わたくしのことは気にせず、演奏を続けてくれたまえ」そう伝えましても、お嬢様は驚かれ続けているご様子で上品な口を心持ち下品に開いたま…

日没の前に

私は走っていた。そして、焦っていた。この先にある目的地まで、私は どうしても日没までに辿り着かねばならない。けれど、それは死を意味していた。日没を過ぎれば、友の死。日没の前であれば、私の死。どちらも耐え難い。できれば、どちらも避けたい。そこ…

世界びっくり箱コンテスト

こちら、私がおりますところは毎回びっくり死の犠牲者が多数出ることで有名な「世界びっくり箱コンテスト」のメイン会場であります。箱を開けたら蒸気機関車が飛び出すオーソドックスなタイプのものからミニ・ブラックホールを閉じ込めた最先端技術の応用作品…

地雷

ここは戦場。しかも最前線。地雷地帯の真ん中であった。走って逃げ損ねて爆死した奴。一歩も動けずに餓死した奴。それら屍を踏んで進む奴。いろんな兵士がいるのだった。その若い兵士は臆病者だった。だが、野心家でもあった。少しずつ地面を掘りながら前進…

シーソー

図書館を連想させる広い部屋には 幼くてかわいらしい二人の姉妹。なぜか私は家庭教師の立場にあるのだが 彼女たちは扱いやすい生徒とは言えない。なんでも勝手に二人で始めてしまうのだ。「さあ、シーソーを作りましょう!」唐突に提案しながら 姉が柱のよう…

助けて!

「助けて!」密かに好意を寄せる女性にそんなこと言われたら どんな状況であれ無視できるはずがない。俺は彼女に手を伸ばす。「大丈夫。もう少しだ」彼女は、氷に覆われた岩壁に必死でへばりついている。つまり、我々は登山の最中であり 非常に厳しい状況に…

内緒話

ねえ、ちょっと耳貸してくれる? ううん、ひとつでいいの。ふたつはいらないの。あのね、これは内緒の話なの。絶対に誰にも聞かれたくないの。あら。もちろん、あなたは別よ。あのね、あのね、あのねのね。困ったわ。ううん、違うの。なんだか恥ずかしくなっ…

ルール

白い制服の男に呼び止められた。「君、女の子の足首をつかんだそうだな」失礼な気はしたが、私はうなずく。若い女性の足首は、私の趣味なのだ。「しかも、頬ずりまでしたそうじゃないか」あの柔らかな肌触りがよみがえる。そのため、つい頬の筋肉が緩んでし…

飛翔

僕はなんだか飛べそうな予感がする。ほとんど走るような調子で歩き出すと前方へ落ちるように傾いた地面から徐々に足が離れてゆくのがわかる。飛行機の翼みたいに両腕を横へ拡げ、両脚をまっすぐ後方へ伸ばしてみる。落ちもせず転びもせず膝を擦りむくことも…

三人の妻

深夜に帰宅すると 妻が一人になっていた。「あなた、おかえりなさい」三人の妻の声がひとつに重なって聞こえた。その女は三人の妻の誰でもなかった。だが、三人の妻の誰とも似ていた。「誰だ、おまえは?」「あなた、また酔ってるのね」たしかに酒は飲んでい…

拒絶

あんたなんか あんたなんか 見たくない 聞きたくない 考えたくない もう知らない やめてよ あっちへ行って まったく どういうつもり それ以上 近寄らないで いいかげんにしてよ もう 昔は そんなじゃなかった どうして 変わっちゃったの だから 抱きつかない…

美しい女

美女が哀願するのである。その美しい瞳を潤ませて。その美しい唇を震わせて。「わたし、もっと美しくなりたいの」美しい声だ。聞き惚れてしまう。「わかりませんね。あなたはとても・・・・」「ええ、そうなんです。美しいのです」ますますわけがわからない。「…

定期演奏会

拍手に迎えられ 指揮者が舞台に登場した。咳払いが止むのを待ち 指揮棒は振られた。静かな海交響楽団による 定期演奏会の開演である。『霧の入り江』より序曲、組曲『バッカスの散歩』など。滞りなく演目は進み 安らかな時が流れ いつの間にか すべての演奏…

海の家

水着に着替えてドアを開けると 海水が家の奥まで押し寄せてきた。「わあ、冷たい!」まるで入り江になったみたいだ。でも、家の中で泳ぐ気はしない。膝くらいの深さしかないし 泥に濁った海水であれば、なおさらだ。玄関を出ると、庭は海面の下に沈んでいた…

買い物

巨大なショッピングセンター。どんなものでも売っている、と評判だ。食品コーナーなんか見てまわるだけで満腹になる。おそらく疑似加工食品だろうが人魚の刺身や河童の干物まで並んでいる。玩具コーナーの戦争ゲーム盤の隣にはさりげなく核兵器手作りキット…

考える機械

考える機械に問うてみた。「真理とはいかに」考える機械は答えた。「考えさせてくれ」と。半年後、再び問うてみた。「真理とはいかに」考える機械は答えた。「よくわからぬ」と。ふむふむ。なかなか考えておるわい。 元「koebu」舞坂うさもさんが演じてくだ…

くだらない夢

さすがに情けなくなってくる。毎日、くだらない夢ばかり見るのだ。本当にどうしようもない夢。話す気にもなれない、つまらない夢。恥ずかしくなるほどくだらなくて 救いようもない最低の夢の繰り返しなのだ。しかし、夢の事なんかどうでもいい。現実さえ楽し…

酒よ

<ひとり、酒を飲んでいた。 人、酒を飲む。 酒、酒を飲む。 酒、人を飲む。で、酒に飲まれてしまった。なんということ! 「おーい、酒よ」酒を呼んでみた。「なーんだ、人よ」酒が返事をした。いかん、いかん。こりゃ、かなり酔っとるぞ。 「ゆっくり生きる…

尋問

「おまえは事件当日、その時刻にどこにいた?」「首相官邸にいました」「ふざけるな!」「いいえ。ふざけてなんかいませんよ」「まあいい。で、なにをしていたんだ?」「総理大臣を暗殺してました」「嘘をつくな!」「いいえ。本当ですよ」「まあいい。で、…

愚痴聞き屋

えー、皆さま。大変お騒がせいたします。こちらは毎度お馴染(なじ)み 愚痴(ぐち)聞き屋でございます。どうにもこうにも やり場のない愚痴はありませんか。誰も聞いてくれない愚痴 聞くに堪(た)えない愚痴 耳にタコの愚痴 よく聞き取れない愚痴 どんな愚痴で…

お参りの帰り

近所の稲荷神社に参拝後、迷子になり、家に帰れなくなってしまった。(ははあ。ひょっとすると こいつは狐に化かされたかな)神社参拝の作法というものがある。鳥居(とりい)をくぐる時は礼をする。手水(ちょうず)で手と口を清める。神殿の真正面に立つのは失…

トントコトン

トントコトンが歩いていたら途中でトコトントンに出会ったよ。「やあ。トントコトン」「元気かい。トコトントン」一緒にトントコ、トントン、トコトントン。仲良くトコトコ、トントコトン。トコトコ、トコトコ、お馬が通る。トントン、トントン、ノックする…

ニャー

ねえ、君。ご存じかな? 「ニャー」という名の鍵盤楽器を。見た目、ほとんどアップライト・ピアノ。もっとも、アップライトの中古ピアノを改造したのだから 当然と言えば当然だけどね。つまり、僕が作ったんだ。「ニャー」の命名も僕。じつは、こいつなんだ…

吹雪の夜に

寒い冬の夜。窓の外は吹雪(ふぶき)。でも、家の中は炬燵(こたつ)にストーブ、春のように暖かい。しみじみと幸せを感じていた。すると突然、家の屋根が吹っ飛んだ。どっと闇と雪と暴風に襲われた。照明器具もなにもかも天井ごと持っていかれた。呆気にとられ…

浴槽の沈没

仕事を終え、疲れて家に帰り 風呂に入ったら、浴槽が沈没した。「おーい、助けてくれー!」妻が浴室に入ってきた。「あなた、どうしたの?」「見てわからんのか」「わからないわ」なるほど。言われてみると、そうかもしれない。だが、納得してはいけない。お…