Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

楽しい話

人畜無害

近所のスーパーからの帰り道であった。 着衣の大型犬が後足だけで立ち歩き 首輪だけの裸婦を四つん這いにさせて ロープで引きずるように散歩させていた。なんとも不思議な光景であった。帰宅すると、書斎には着衣の猫が鎮座しており その目の前の机上には裸…

悪魔の証明

「悪魔の証明」とは、完全に否定または肯定することが 実際上ほとんど不可能に近い証明のこと。たとえば、悪魔の不在を証明できたと確信した途端に ひょいと悪魔が出現してしまう可能性、なきにしもあらず。事実、そんなふうに悪魔が目の前に出現したのだ。…

去らぬサル

ひょいとサルが顔を出す。「わあ、なんだなんだ。あっちへ行け。 おれはサルなんぞに用はない」「ウキキキキ」さすがサル。恥ずかしげもなく、定型的な笑いを笑う。「黙れ。歯ぐきをむき出して笑うな。 とぼけて頭に手を置くな。猿真似すんな」しかし所詮、…

雲をつかむ

なんとなくできそうな気がしたので 空に手を伸ばしてみる。すると、不思議なことに ちゃんと雲をつかむことができた。「おいおい、なにすんだ。やめろよ」つかまれた雲が文句まで言いだす。つかみどころのない感触ながら もぞもぞ動くのがわかる。「まったく…

トラの毛

昔、トラの毛は 真っ黒でした。カラスの羽の色と いい勝負でした。「もっと明るい色に してください」トラは 神さまに お願いしました。すると 神さまは 断りました。「そんな願い、いちいち叶えていたら きりがない」けれども トラは 諦めません。いつまで…

泣き上手

彼女は泣くのが上手だった。泣くべき時には 泣くべきように上手に泣いた。 そして、泣いてはいけない時には 決して泣かないのだった。そんな彼女にしてみれば 親や兄弟を操るのは造作もないこと。泣き方ひとつでどうとでもなる。ボーイフレンドの扱いなんか …

キカキカ

恐れていた状況は補助線とともに出現した。「キカキカが来た!」大きい。コンパスと定規だけでは太刀打ちできそうもない。「三角屋敷の長老を呼べ」円周に接するように伝令が走った。キカキカは容赦なかった。瞬く間に村は記号だらけにされてしまった。さら…

腹の虫

「グルルルル」腹の虫が鳴き始めた。うるさいのでエサを与えてやる。お菓子が少しあったので、それを食べた。カビの生えたかりんとう。僕が食べると、すぐに腹の虫のところまで届く。腹の虫はいやしいから、なんでも食べる。どうせかりんとうみたいなフンを…

清きお水

わたくしがたまたま助けてさし上げたご老人は 自信たっぷりに、このようにおっしゃいました。 「わしは水道の神である。助けてもらった礼として あんたの家の水道水を、あんたが望むものに変えてしんぜよう」お酒でもジュースでも血液でも、なんでも好きなも…

押しかけ女房

玄関チャイムが鳴った。訪問セールスなら断るつもりで、ドア越しに尋ねる。「なんでしょうか?」「押しかけ女房です」若い女の声。聞き違いかと思い、ドアスコープから覗く。逆光でよく見えない。ドアを開ける。なかなかの美人が立っていた。「おはようござ…

妖怪しりとり

とても人間とは思えない奴がやって来て 変なことを言う。「しりとりをしよう」「は?」わけがわからない。「は、じゃない。 しよう、だから、最後は、う、だ。 う」「う・・・・浮かばない」「命までは取らんから安心しな」「な・・・・何者ですか?」「考えろ、自分…

丸木橋

山には紅葉が敷かれていた。空にはいわし雲が寝そべっている。そして、谷川には丸木橋が架かっていた。今、その丸木橋をひとりの山伏が渡ろうとしている。すると、もうひとりの山伏が反対側から現れた。どちらも道をゆずろうとしない。大人げなく、われ先に…

仙人の滝

仙人が滝に打たれてた。毎日毎日打たれてた。なかなか立派な滝だった。なので色んなものが落ちてきた。虫、魚、ヘビ、キツネ、クマ。木の枝、石ころ、丸太、岩。さすが仙人、ビクともしない。金貨落ちても目もくれない。ある日、裸の美女が落ちてきた。「あ…

お手玉

お手玉のように男をもてあそぶ女がいた。逆にもてあそんでやるつもりで おれは女に近づいた。「もてあそんでやる」おれは女をむんずとつかむと空へ放り上げた。女は、まるでお手玉のように空高く舞い上がった。「すごい。力持ちなのね」「あ、いや。それほど…

いにしえの墓

ここはエジプト、王家の墓。額に汗しながら作業していたら ミイラのファラオが甦(よみが)えってしまった。「アゲメデ、ホムルンスク、トピタ」ひどくかすれた声でなにやら喋るのだが なにしろ古代語なので、さっぱり意味がわからない。「あんた、内臓ないく…

開幕

ようこそ、紳士淑女の皆さん。長らくお待たせいたしました。これより完全会員制、秘密の妄想大会の開幕です! えっ? 違いました? はあ・・・・そうですか。えー、皆さん、まことに失礼いたしました。わたくし、ちょっと妄想してしまったようです。そういうわけ…

なにをしてるの?

あんた、なにをしてるの? こんなことしてる場合? もっと大切なことあるんじゃない? 誰かがなんとかしてくれる なんて思ってない? 思ってるよね。 それって、妄想だよ! えっ? そう思ってないのに そんなに平気でいられるの? すごいね。それって、鈍感…

夜明け

夜が明けたら 男の態度が変わっていた。「もう帰ってくれ」我が身を振り返り 女の表情も変わった。「ああ、尻尾が・・・・」元「koebu」宏美(ろみりん)さんが演じてくださった!Breaking DawnWhen the night began, the attitude of the man changed."Please r…

鉄琴と木琴

鉄琴と木琴がケンカをしました。互いに相手を叩くので 木琴と鉄琴の音がして まるで仲良く合奏しているかのよう。どちらも叩き疲れ やっとケンカが終わると 閉じていたカーテンが開き 客席から万雷の拍手。ふたりは顔を見合わせ 目配せすると 寄り添って し…

水底の楽園

細長い昆布みたいな海草が 五本ほど 横方向に流れていて そこに タイやヒラメ タツノオトシゴやハリセンボン なんやかんやが 泳いでいて なんだか不思議な調べを 水底(みなそこ)の楽園で ゆらりゆらりろ 奏でているのです。 元「koebu」yayaさんが演じてく…

山神の笛

山頂の城跡で笛を吹いていたら 山の神が姿を現した。「なかなか良き音じゃ」なんだか昔話みたいだな、と思った。「フルートという名の異国の横笛です」「もっと吹いてくれぬか」私は喜んで吹き続けた。山の神も喜んで聴き続けてくれた。「おかげで、楽しかっ…

神殿の巫女

聖なる神殿の中 秘めやかなる祭壇の前で 麗(うるわ)しき巫女(み こ)がひとり泣いていた。彼女は知ってしまったのだ。この身の行く末と この世の行く末を。その時 祭壇の上に 神が光臨(こうりん)された。神はおっしゃられた。「聡明な娘よ。私を見なさい」巫…

カボチャの寝言

あっ・・・・ナイフなんか持って・・・・まさか・・・・目玉くりぬいてランタンにするつもりじゃ・・・・ひどい・・・・えっ・・・・違うって・・・・楽器にするの?・・・・弦を張ってシタールとかじゃなくて・・・・お寺の木魚みたいにたたくの・・・・やめてよ・・・・食べ物たたくなんて・・・・そりゃま…

改良の余地

「僕は君が好きで、どうして僕が君を好きなのか 君にうまく説明することができないにもかかわらず 君にとって僕が大切であるかどうか無関係としても 僕にとって君が大切であるということは ぜひとも君に伝えておかなければならない」「あなたの言葉の意味す…

泥棒がサンタクロース

うんにゃ。おりゃサンタクロースじゃねえ。泥棒だ。サンタクロースの格好した泥棒。ただし、プレゼントはちゃんと用意してある。この袋ん中にな。つまり どういうことかって言うと この格好のまんま家宅不法侵入やらかして 普通に泥棒するわけよ。んでもって…

なげやり

ぼんやりしてたら投げ槍(やり)が頭に刺さっちまった。ふん、どうでもいいや。こんなの引き抜いてあっちに向かって投げてやれ。あっ! いけね。頭の方を投げちまった。元「koebu」キッチマン陰惨さんがアレンジして熱演!LazyWhen I was dim, A javelin stuck…

若い男

おれは歩き続けていた。やっと自動販売機が見つかった。そのすぐ横に若い男がひとり立っていた。黒いサングラスをかけ、その口もとに不愉快な薄笑いを浮かべている。おれは自販機にコインを入れるのをやめ おもむろに男を殴り倒してやった。そいつは地面にひ…

退屈な女

真夜中、見知らぬ女が訪れる。「助けて。退屈のあまり死にそうなの」なるほど、そんな顔をしている。こちらも同じく退屈していた。(どれ、この女を救ってみようか)しばらく考えてから提案してみた。「ふたり、抱き合ってはどうか」しかし、女は深く溜め息…

猿の笛

ひなびた山奥で ひとり笛を吹いていた。鳥のさえずりに調子を合わせ そよ風のささやきに旋律をのせ・・・・ これでも都では、一時期ではあるが 「笛の名手」と称えられていたものだ。やがて吹き疲れ うううんと背伸びをする。見上げると、木の上に猿がいた。小枝…

彼女は異星人

彼女は異星人だ。それを隠すため、子どもを産む。たくさん、たくさん、彼女は子どもを産む。だから、ほら、もうこの星の半分ほどが彼女の子どもだ。 「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださった!元「koebu」宏美(ろみりん)さんが演じてくださった…