Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

怖い話

虫がいる

友人の部屋にいる。壁際の本棚の中に虫がいる。ハエほどの小さな虫だ。人差し指で弾いてやろうとする。遠近感が狂い、うまく指先が当たらない。じつは当たっているのかもしれないが 爪の部位であるせいか、確たる感触はない。なぜか虫はゴキブリほどの大きさ…

アジトの人影

敵のアジトに単身乗り込む。やつらは暗い部屋で待ち受けていた。窓から差し込む月明りだけが頼り。大勢の人影が部屋の壁に映っていた。そのうちの一つの人影が気になる。ポツンと他の影から離れて立っている。「おい。そいつは誰だ?」おれは指差し、誰とも…

引く糸

実家で眠り、夜明け前に目覚める。自分の荷物、リュックサックの中から白い糸がまっすぐ外へ出ている。寝てた部屋、仏壇のある和室の出入り口を抜け 寒く暗い廊下へと伸びている。その先は、半回転するらせん階段を下りて 見た記憶すらない部屋のタンスの中…

幽霊の相談

夜な夜な幽霊が出るそうである。それで、もし幽霊に出会ったらどうしよう みたいなことを誰かと相談していた。ところが、変なのだ。いくら思い出そうとしても その誰かが誰なのか、はっきりしない。顔かたちがぼやっとしているのだ。もしかしたら、その誰か…

違和感

深夜、目覚める。マンションの寝室から出る。トイレで用を足し、キッチンで歯を磨く。顔を洗っているうちに共同炊事場になっていた。下宿の廊下から自分の部屋に戻る。なんだか頭がフラフラする。倒れるように万年床の上に崩れる。これはやばい。とにかく寝…

紫のハエ

昨日は深夜まで残業だった。早朝出勤すると、すでに働いている。どうやら徹夜で働いた従業員もいるらしい。職場の同僚と会社に批判的な会話していて 「どうせ」と言いながら振り向くと、工場長。「どうせ、とはなんだ?」と詰め寄られ とっさに胡麻化さねば…

青い海のヒョウ

夕暮れの気配漂う通りを歩いて 川岸のようでもある海辺を見下ろしている。白い砂浜を小さな島のように残して 青い海水がひたひたと足もとまで浸水している。海水は藍色で、白い砂の近くだけが青い。まるで合成着色料のよう。ベランダ風の桟橋みたいなところ…

漏電してる

まず、そもそもの前提として ピンポンダッシュで起こされてからまた寝たのだ。それに、階上の住人の生活音が耳障りだったり 仕切りの引き戸の開閉が途中で止まったり。住宅だけでなく、自分のからだにしてもあちこちに不具合が目立ち始めていた。それから記…

クモの呪い

幼い息子がクモに呪われたようなのだ。 正確には、息子が寝ていた敷布団が。 どういうことかというと、今朝の話である。 息子は遠足に出かける予定を楽しみにしていた。 ところが目覚めて、さて起きようとしたら なぜか布団から出られない。 「助けて。こわ…

とんでもない屋根の上

昔々、空を浮遊するマニアがいたそうだ。乗り物は定かでないが おそらく気球のようなものであろう。それで彼は、とんでもない高さの上空に 丸くて透明なテントを張り、そこで寝起きした。信じられない気持ちでいっぱいである。 そして今、傾いた屋根の上に布…

空飛ぶ肘掛け椅子

ふと見下ろすと、足もとの床が明るい。(なんだ、これは?)なにか模様が見える。いや。景色だ。これはビルの屋上か。それを過ぎて、はるか下に見える街並み。航空写真のようだ。それがゆっくり右へ移動してゆく。信じられない。肘掛け椅子ごと空を飛んでる…

金庫破り

それは夜中だった。なぜなら暗かったから。ふと不安を覚え、隣の部屋のドアを開ける。照明をつけるまでもなかった。部屋の奥の窓が開けっ放しになっていた。さらに部屋の中央、開けっ放しの金庫が見える。嘘だろ? 嘘だ! 嘘だ! 全財産の入った金庫が破られ…

あらぬ方向

おれは階段を下りている。幅は狭く、二人やっと並べるくらいだ。目の前には赤い和服の女がいる。ゆっくり歩いているので、ぶつかりそうだ。女が振り向いた。知ってる女だった。好みのタイプだったが、知人と結婚した。その旦那に金を貸したことがある。おそ…

幽霊アパート

幽霊たちが借りてるアパートがあって そこはそこの持ち主、大家さんまでが幽霊だ。新しい住人への説明を終えると、お婆さん幽霊は玄関ドアの新聞受けの隙間から外へ出て行った。「やれやれ。大家が幽霊なんて物騒ね」自分らのことは棚に置き、新しい住人は顔…

臨死体験

徹夜明けでも眠気なし。意識さえわたり、寝たまま瞑想していた。すると、不意に気づいた。「おれは死んでいるのだ!」恐怖のあまり、顔面がゆがんだ。不気味な気配を感じる。必死に逃れようとしたところで その気配は消えた。結局、なんともなかったわけだが…

救急車の音

家の前の通りを走り抜ける救急車の天地に鳴り響くサイレンの音で目が覚めた。あんまり驚いたせいか、内容は思い出せないが 見ていた夢から引き剥がされるように起こされた。まだ心臓がバクバクしている。くそっ。救急車の音で死んだら、笑い話にならんぞ。 …

その時

物音がしたような気がした。どなたかいらっしゃったか、と玄関へ行く。すると、玄関の狭いコンクリートの床に誰か寝ている。いや、まるで寝ているように老母が倒れていた。とうとう、その時が来たか。ただし、出血しているような様子はない。私は頭を片手で…

障子戸

細長い廊下のような自宅。玄関チャイムが鳴った。誰か来たらしい。出ようとすると、兄が立ちふさがる。「よせ。危険だから出るな」そうかもしれないが、用心ばかりしていたら いつまでも出られないことになってしまう。「いや、出るよ」ドアを開けると、誰も…

快活な女

僕たちはとあるイベントで出会った。女ひとりと男ふたり。名所旧跡の観光旅行であったか、または 暴走族の集会であったかもしれない。ともかく僕たちはすぐに仲良くなった。それ以降も待ち合わせては 一台のクルマに乗ってドライブを楽しむ。彼女はとても快…

呪いのタピオカ

新宿のパセラというカラオケ店でオフ会があった。そこで熱唱のあまり、アサギちゃんがテーブルの上の飲み物のグラスを倒してしまった。中身のタピオカ入りミルクティーがテーブルにぶちまけられ、床にもこぼれ落ちた。おしぼりでふき取りながらタピオカを指…

地下室の惨劇 Ⅱ

青い空 青い空 青い空 青い空 青い空 青い空 丸い 太陽 白い雲 白い雲 鳥 「いい天気だわ」 「絵のような空だね」 「ここはどこ?」 出 「出入り口があるよ」 入 り 口 「階段ね」 屋上屋上屋上屋上屋上屋上 「ここを下りるのさ」 階段 階段 「かなり急な階…

呪いの手紙

拝啓 初めまして あるいは初めてではないのかもしれませんがともかく、このような不躾(ぶしつけ)な手紙、失礼いたします。もう読み始めてしまいましたね。ああ、かわいそう。かわいそうなあなた。そう、あなたです。この手紙を読んでいらっしゃる、あなた…

廃墟マニア

廃墟が好きなわけではない。そも不潔で不便で危険だ。廃墟にまつわるいかがわしさ、背景や謎を想像するのが楽しいだけ。発掘されたばかりの古代遺跡でも なんとなれば殺人現場でもかまわない。貧民窟、自殺の名所、心霊スポットなど 平穏な日常から隔絶され…

冷鬼の眼

自宅にいる。暑い。喉が渇いた。キッチンの冷蔵庫の中に 水入りペットボトルがあるはず。うんざりするほど見慣れた冷蔵庫のドアを開くと そこに冷鬼がいた。いかにも冷たい眼差し。ドアを開けたまま呆然としていたら 冷鬼に注意された。「早く閉めろよ」じつ…

洗濯日和

今日は朝から晴れて 洗濯するのに好い天気。 汚れてしまった旦那さんを お隣の奥さんが手洗いしました。 太って重い旦那さんを干すのは大変。 ベランダ越しに苦労しているのを見かねて 物干し竿に掛けるのを私も手伝ってやりました。 濡れたお隣の旦那さん、…

伴侶の鏡

若い漁師がひとり、湖に舟を出して 網を投げて魚をとっていた。しかし今日は、いっこうに魚がかからない。 ようやく網にかかったと思ったら 引っかかっていたのは、一枚の手鏡。古い銅鏡のようだが、錆びていない。漁師が覗くと、自分の顔が映る。なぜか空や…

野生の列

ごく短い列に並んでいる。私の前には中年の女がいる。その前に男の子がいて、ふたりは親子のようだ。男の子の前には若い女が立っている。どうやら彼女が列の先頭らしい。ATMのようなものを利用しようとしているのか 飲食店に入る順番なのか、どうもはっきり…

墓穴を掘る

ここは山寺の墓地。若者がひとり、穴を掘っていた。墓穴を掘るのが彼の仕事だった。ひどく不機嫌な顔をしていた。「その仕事は大変だろう」暇そうな老人が声をかけてきた。「あまり楽しくなさそうだな」若者は老人を無視して穴を掘り続ける。「望んだ仕事で…

怖い場所

昔の古い木造の家には、子ども心にせよ 怖い場所がいくつもあった。階段の下の三角スペース。狭い入口の暗い物置部屋。台所には井戸があった。薪で炊く風呂釜もあった。重そうな古だんすが置いてあって 二階の親の部屋も落ち着かなかった。「あっぱんじょ」…

想定内の事故

狭い密室、たとえば故障したエレベーターの中に数名の見ず知らずの男女が閉じ込められた、とする。食料も道具もなく、救助もされず一週間ほど。さて、どうなる? 空腹は耐えられるかもしれない。だが、排泄は我慢できまい。年頃のお嬢さんがいたりする。ニキ…