Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

怖い話

おいしいお菓子

そのお菓子はとてもおいしいのだった。ほっぺたが落ちそうなくらい。唾液が止まらなくなるくらい。それを一度食べたら誰でも病みつきになる。それを食べることに生きがいを見出してしまう。食べられないとしたら死にたくなる。それくらいおいしいのだった。…

人喰いカブ

ご近所の新田さんからカブをいただいた。たくさんあって、一人では食べきれないほど。彼は農家の知人からいただいたそうだ。 割れたり形が悪い野菜は売れないとのこと。農家も大変である。とりあえず、みそ汁の具にするくらいか。他にカブ料理なんか思い浮か…

蛇の細道

おぼろ月 ゆらゆら川面に ゆれまする。暗い細道 よどんだ川と添い寝して うねうねと 生臭くも 曲がりおる。 こちらへどなたか いらっしゃる。にやにや 耳まで裂けた そのお口。会ったが不運 巷で噂の 口裂け女。けっして 目を合わせちゃ なりません。ぎりぎ…

呪われた故郷

たどり着いたら故郷は廃墟。土地は荒れ、建物は崩れ、人影はない。懐かしの生家は熔けかけていた。醜く変容したオブジェさながら。壁は指で押すだけで苦もなくへこむ。窓はすべて塞がれ、玄関は失われていた。裏口へまわり、歪んだドアから侵入した。屋内も…

墓参り

お盆の墓参り。親類縁者お揃いで山寺へ。夏の夕暮れ行き来する浴衣姿の家族連れ。坂のぼり、山門くぐり、さらに坂のぼる。盆花で飾られし先祖代々の苔むす墓の群。ロウソクに火を灯し、台の上に。線香も。数珠を手に黙祷。手持ち提灯に火を移す。坂くだり、…

押入れの女

妙に安いな、と思いつつも借りたマンションは どうやら事故物件だったらしい。寝室兼用の和室には引き戸式の押入れがあり おもに寝具を入れておくわけだが、ここに出るのである。寝る前に閉めたはずのふすまが夜な夜な開き 中にいる何者かの眼が、外のこちら…

留守番

ひとりでいい子になって 家の中で留守番をしていたら なんだか留守番をしているのは僕ひとりではないような気がしてきた。たまに物音がするのだ。天井や床下、押し入れからなんだかわからない不安な音。それに、変な声。「ねえ、一緒に遊ぼうよ」僕の心の中…

ヘビの共食い

これは「ヘビの共食い」という怖い話なんだけど 僕はこの話を友だちのユウキ君から聞いた。ユウキ君はアカネさんという従姉(いとこ)から聞いたそうで そのアカネさんがどんな女の人なのか、僕は知らない。で、その会ったこともないアカネさんが言うには こ…

美少女地獄

「美少女地獄」というのは ウスバカゲロウの幼虫の巣、アリジゴクに何気なく近寄ったアリが陥るように 美しい少女たちが堕ちてしまう地獄である。普通の少女なら大丈夫だったろうに なまじ美しく生まれ育ったばかりに その仕掛けられた罠に近寄ってしまいど…

闇のナイフ

闇が怖い。暗くて見えないからではなく ありもしないものまで感じてしまうから。闇に靴音が響く。不整脈を連想させる乱れたリズム。追われているような気がする。息が苦しい。どこかへ心臓が逃げようとしている。助けてやりたい。胸を裂いてあげたい。でも、…

闇の中で

じつは私は目が見えない。若い頃に病気で失明したのだ。ある日、家の中で手探りしながら腰を下ろそうとしたら そこに椅子はなくて、そのままストンと落ちてしまった。なのに、すぐに床に尻が着かない。落ち続けているのは風を切る感じでわかる。ひょっとして…

おぞまむし

なにやら土壁の傷のようなものが あちらこちらに散在している。だが、よく見ると、それらが動いている。しかも徐々に大きくなる。どうやら虫の巣に遭遇したらしい。節足動物の無数の脚がもぞもぞ蠢うごめいている。絶望的な予感と悪寒がする。片手ほどの大き…

玄関ドアの前

ドアチャイムが鳴ったので玄関へ向かう。普段なら「なんでしょうか?」とまず問うものだが この時はなぜかそのままドアを開けてしまう。玄関ドアの前、共用階段の踊り場に 貧相な顔の若い男が立っていた。彼はこのマンションの同じ住人。 だが、その名前がす…

袋小路

ネズミ捕りを連想させる袋小路 「逃げられないわ」縦に裂けたふるえる唇 「けだもの」毒々しい色のねじれた舌 「近寄らないで」くるぶしに垂れる液体 「お互いのためよ」むせかえるばかりの臭気 「欲しいのね」重なり交じり合う肉と肉 「殺したくないのに」…

ドプリ

ドプリは便利だ。なんでもやってくれる。わからなければドプリに尋ねる。ドプリが知りたいことを教えてくれる。やりたければドプリに頼む。ドプリがやれるように準備してくれる。煩わしければドプリ。ドプリならどんなに大変な作業でも平気。ごく簡単な指示…

鎧武者

武士たちに騙されていたことに やっと農民たちは気づいたようだ。手間暇かけて収穫した作物を まんまと奴らに奪われてしまうのだ。さすがに農民たちは怒った。死ぬとしても、反抗せねば生きていけない。それぞれ石や薪や農具で武士に襲いかかる。が、武器を…

青白い画面

訪れるはずの友人の姿は家の中にない。まだ到着していないのかもしれない。玄関から首を突き出して外を眺める。 庭の端に自転車が五台も置いてある。見慣れぬデザイン。最新型であろう。どうやら兄の客が来ているらしい。母の話では、全員が外国人で 日本語…

幽霊屋敷

昼間そこは空地なのだが 夜になると古めかしい洋館が建っている。「なるほど、幽霊屋敷か」私は感心しながら玄関扉のノッカーを叩く。しばらくすると扉が開き 執事らしき暗い顔の男が現れる。「ようこそ、いらっしゃいませ」私はホッとする。 どうやら歓迎さ…

馬の首

今は昔、東北のさる城下町。夜中に若い女が行方知れずになる または惨殺されるという事件が相次いだ。さらに事件前後、馬のいななきが聞こえた あるいは馬の首が火の玉のように闇夜を走り抜けた などと言う多数の目撃談が番所に寄せられた。ある夜、腕に覚え…

牛の首

堪えがたい臭気を焦がすかのように 太いロウソクが灯っている。闇に浮かぶ一頭の牛の横顔が眼前に見える。どうやらここは夜の牛小屋。あなたは日本刀を振りかざしている。古風な野武士のような姿である。あなたは目の前の牛の首を斬り落とすつもりでいる。あ…

好きなもの

昔、いろんなものが好きだった。たくさんありすぎて数えきれないほど。なのに、いつの間にか、それらは輝きを弱め、消えかけ、忘れられている。そして今、ほとんど失われてしまった。たとえ、あまり好きでないとしても あれこれ手を加えるうちに いくらか好…

静電気対策

もうすぐ乾いた季節がやってくる。静電気が溜まりやすい体質なので 正直なところ怖いし、うんざりする。髪はもちろん、すべての体毛が逆立つ。若い女の子に必ず笑われる。ものに触れるたびに強烈な電撃を受ける。握手したら気絶したOLもいた。暗闇では体の表…

高層ビル

深夜の高層ビル。ひとり暗い廊下に立っていると 私の名を呼びながら女が近づいてくる。彼女の声に似ている。姿も似ている。だが、確信が持てない。「あの目が悪いものですから・・・・」そのまま女は通り過ぎ、廊下の奥の闇へ歩み去る。すると誰だ? 彼女ではな…

空き家

静かな昼下がり。でも、蝉は鳴いていた。憶えている。あの日、通りに人影はなかった。塀を乗り越えるのは造作もないことだった。庭は背の高い雑草にすっかり占領されていた。施錠された玄関、木造二階建ての古い家。数年前から空き家なのだった。どの窓も開…

つまらん呪い

どうやら私は呪われているようなのだ。しかも、つまらん呪いなのだ。それがどんなに興味深い内容だとしても 私がかかわると、とたんに興味が失せてしまう。すぐに私は退屈してしまう。もうつまらん、と思ってしまう。他の人たちは好奇心やら集中力が持続して…

君はいない

ふと 目覚めて ぼんやりして 君を抱こうとして 君がいないことに気づく。そうか。もう君はいないのか。そうだ。もう君はいないのだ。君はいない。君を抱けない。僕は君を抱けない。もう僕は君を抱けない。そうさ。僕が君を殺してしまったから。 「ゆっくり生…

毒抜き

追われている。そんな気がする。なんとしても逃げなければならない。そいつの裂けた口には鋭い牙が並んでいる。きれいな穴の列を頭蓋骨にこしらえるはず。そいつの歪んだ手にはおぞましい爪が生えている。傷口を開いて血まみれの心臓をえぐり出すはず。なの…

落ちてしまいそう

ビルの屋上にいる。5階建てくらいだろうか、そこそこ高い。なのに、フェンスは低い。クルマ止めブロックほどの高さしかない。なぜか中学の頃からの友人と一緒だ。冗談みたいに彼が私の肩の上に乗っている。そして、彼は執拗(しつよう)に重心を移動させる…

とりあえず怖い話

寝ながら とても怖い話を思いついた。ただし その話を語ったり書いたりすると まるで怖くなくなってしまう らしいのだ。「なんだそれは?」不審に思いながらも 起きようとすると 頭がぼんやりしてきて話の中身が消えそうになる。「これはいけない」と あわて…

霊気点検の日

電気設備安全点検の調査は 電気事業法の定めにより実施される。 法令に基づき国に登録された電気設備調査機関が 電力会社からの委託を受け、一般住宅や商店を調査する。「電気設備の安全性については問題ありませんが わずかですが、霊気が漏れているようで…