Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

ひどい話

いじめないでね

お願いだから、僕をいじめないでね。今、僕をいじめると、あとで君に仕返しするよ。僕はね、とっても陰湿なんだ。ケンカは弱いけど、泣き寝入りはしないよ。たとえば、そうだね 君の家に火をつけちゃうかもしれない。そりゃ犯罪だけど、つまり追い詰められた…

四人姉妹

そろって若く美しい四人の姉妹があった。両親は飛行機事故で亡くなり 彼女たちには莫大な遺産が残された。豪華客船に乗って世界一周の旅の途中 あるハンサムな男が姉妹に近づいた。この男、じつは結婚詐欺師。密かに四人それぞれと恋人になり 密かに四人それ…

救えない

詐欺に引っ掛かった知人が、それと気づかないまま 詐欺師へ振り込むための借金を頼みに来た。遺産相続型の国際詐欺である。すでに、経費として数百万円も振り込んだらしい。ただでさえ生活が苦しいくせに、またはそれゆえに 数十億円もの遺産が転がり込む夢…

森の研究所

研究所は森の中、危険に満ちた森の中。森には研究所から逃げた実験生物が大繁殖。たとえば、毒蛇の尾を振るライオンは 尻を噛まれないかと猛獣自身が怯えてる。食衣植物に襲われ、靴や服を食われると 皮膚を舐めるキノコやナメクジが寄ってくる。皮膚が消え…

兎の殺意

狼と犬と兎が 一緒に暮らしていました。狼は 兎を襲いたいのですが、犬が許しません。犬は 兎と遊びたいのですが、狼が邪魔をします。ある夜、こっそり兎が 狼に囁きました。「あの生意気な犬を 殺して欲しいの」すると兎は 狼に襲われてしまいました。傷つ…

戦場へ赴く

戦場へ赴(おもむ)かねばならない。兵士として軍隊に組み込まれ 敵軍の兵士を殺すことを強いられる。殺さなければ逆に殺される。いとわしいことだ。銃で撃たれたり、爆弾に吹き飛ばされたらそれこそ死ぬほど痛いはず。正気ではいられない。正気の沙汰とも思え…

爪切り

腹が減った。じっと手を見る。爪が伸びてきたな。そろそろ切るか。ニッパ式の爪切りがある。まずは小指。パチン。おっと、深爪してしまった。いけない、いけない。気をつけなきゃ。次は薬指。パチン。痛っ。あっ、また深爪だ。ああ、血がにじんでる。バカだ…

花粉死

うららかな春なのに、殺害現場は凄惨を極めた。肉片と体液と血の海。被害者の眼球は両目ともえぐり出されていた。鼻は包丁で切り取られ、その二つの穴は切り裂かれてあった。爪で掻き毟られた痕跡が全身の皮膚に残る。毛髪はほとんど引き抜かれ、床に散らば…

命の木の実

楽園から追放される前に男は こっそり命の木の実を盗んで食べた。すると、相容れないものであったためか せっかく食べた知恵の木の実を吐き出してしまった。そのため男は救いようのない愚か者になり 父と兄弟を殺し、母と姉妹を誘惑して孕せた。そもそも男に…

礼拝堂

「心静かに祈りなさい」天井には大きな穴があいていた。まるで星に祈るような気分。「隠すことなく、純真な気持ちで」女は肌を隠していないか。司祭は金貨を隠していないか。私にはわからない、何を祈ればいいのか。突然、荒々しく扉が開いた。「強盗だ。神…

奴隷として

お后様、お許しください。卑しき奴隷の身で失礼いたします。美しいお后様のたおやかなる寝姿を見下ろすとは奴隷として言語道断ごんごどうだんでございます。しかしながら、お后様。たった今、麗しくお目覚めになられましたお后様。すでに国王陛下はお亡くな…

ゴミ屋敷

裏隣りの家の屋根の上にやたらと鳩が多い。鳴き声がうるさく、糞による被害も心配なので ともかくその家へ問い合わせてみた。すると、餌を与えたり、飼っているわけではなく なぜ集まるのか不思議であり、困っているとのこと。調べてみたら、原因は自宅を含…

怒れる女王

女王様は怒っておられます。それはもう大変な剣幕でございます。すでに大臣の首が三つも飛びました。まったくもって情け容赦ございません。先ほど、女王様の激しい怒りのために 城の南の胸壁が崩れ落ちました。もう誰にも女王様を止められません。このままで…

竜巻の爪痕

ある時、ある地点で、竜巻が生まれた。はじめ、ほんの小さなつむじ風だった。それがだんだん大きくなり とうとう竜巻と呼べるほどになった。竜巻は、もう夢中でぐるぐるまわった。まわることが楽しくてしかたがない。どんなことでもできるような気がして 独…

吹雪の休息

さっきまでふぶいていた。まさにすさまじい吹雪だった。激しくて、冷たくて、死にそうだった。 でも、今はもう穏やかで暖かい。さっきまでの苦痛が嘘のようだ。 冬山の天候は変わりやすい。ようやく前進することができる。いままで吹雪のために動けなかった…

芋虫と毛虫

芋虫と毛虫が出会いました。「おい、芋虫」「なんだ、毛虫」「おまえ、毛がないな」「そりゃ、おいら芋虫だもん」「おれは毛があるぞ」「そりゃ、あんた毛虫だもん」「そういうもんか」「そういうもんさ」「おまえ、将来なんになるんだ?」「わからんけど、…

橋の下

朝から冷たい雨が降っていた。橋の下から出る気になれなかった。まだ新聞紙や段ボールに包まれていたかった。腹の虫がうるさく鳴いていた。もう土手の草は食いたくなかった。ノラ猫でもやってこないものか。「おじさん。なにやってるの?」女の子だ。赤い長…

異臭通り

だんだん臭いがひどくなってきた。鼻は鈍感な方だが、それでも耐え難い。歩道に寝転ぶ人々の姿が目につく。水を撒かれているのに平気で眠っている。ひとりの男の腕に大きな醜い傷があった。腐っているらしく蠅がたかっている。あるいは死体かもしれない。ま…

新聞記者と青空

おれは新聞記者だ。環境汚染やゴミ問題を扱いながら 新聞を売ることでゴミを増やしている。うしろめたい気持ちでいっぱいだ。今、おれは自動車整備工場の敷地にいて ぼんやりタバコなんかふかしている。白い煙が青空に消えるのを眺めている。つまり、仕事で…

奇形児たちの徘徊

成長促進剤やら添加物の影響で異常児や奇形児が増えている という噂である。しかし問題は、それらを放任したままにしておく当事者の 精神の異常であり、奇形であろう。などということを考えていたら 窓の外が騒がしい。共同ごみ置き場のごみの出し方がひどい…

置き手紙

どうぞ私を捜さないでください。私はあなたから姿を消します。あなたの知らない場所へ隠れます。だから私を捜さないでください。ふたりが別れてはならない理由も 一緒にいなければならない理由も 少なくとも私には見つけられないのです。あなたの都合など理…

防災放送

こちらは、防災噓田(うそだ)です。光化学スモッグ注意報が発令されました。不要な外出や屋外での運動はお控えいただきますよう、お願いいたします。こちらは、防災噓田です。本日、噓田市法螺台(ほらだい)の87歳の女性が行方不明となり、探しています。…

リモコン人間

このチップを後頭部に埋め込むと リモコン人間になる。ただし、手足を動かすなど物理的なコントロールではない。感情、欲望、体調、感覚など、心身の状態を制御する。そして、手持ちのコントローラーによる遠隔操作。埋め込まれたチップからマイクロ波とやら…

レンタル人間

ヒューマンレンタル協会、HRAなる組織があり ここに入会することができた。今時、色々なレンタルサービスがあり 人間の貸し借りだってできる。労働力だけでなく 仮にせよ恋人や友人や家族でさえ借りられるのだ。HRAにおける入会審査はきびしい。現会員からの…

銀行強盗

殺風景なビルの一室。 若い男女二人組の強盗がバッグを放り投げて目配せする。 女は拳銃を持っている。 手をあげろ、とは言わない。きっと面倒臭いのだろう。 缶詰の詰まったバッグを抱え 二人組は盗難車に乗り込む。 遠くまで逃げるのだ。 どうせ追っては来…

不安な音

近頃、ジェット機の音なのか ミサイルが飛来するような音がやたらするな。などと思っていたら、本当にそれらしき爆発音がした。あわてて窓を開ける。かなり遠いが、黒煙が上がっている。(戦争か?!)そんな話、聞いてないぞ。テレビないので、パソコンを立ち…

混血児

学校へ行きたくありません。同級生にいじめられるから。友だちなんかひとりもいません。みんな、私を軽蔑するのです。血が汚れている、と言うのです。私の血が不純だ、と。泣いたって誰も同情してくれません。涙も汚れているはずだ、なんて言われます。くや…

強制選挙

これから選挙へ行くところだ。まったく政治に興味はない。しかし、投票せねば殺されかねないので仕方ない。銃殺派、絞殺派、撲殺派、毒殺派から各一名、全部で四人の男女が立候補している。くすぐり派とかあれば喜んで投票するものを これでは悲しんで投票す…

底なし女

なんということもない女だった。いわゆる美人でもなんでもない。目をそらせば済む問題だった。けれど、それができなかった。その女から目をそらせないのだ。しかも、それだけではない。見るだけでは我慢できなかった。その肌に触れたくてしかたない。その女…

綱渡り

綱渡りが綱から落ちるのは失敗じゃない。むしろ、落ちないことこそ・・・・ 白痴みたいに口を開けたまま 上空を見上げる観衆。「それにしても勇気あるな」「ふん。狂ってるんだよ」「普通の人には絶対できないぜ」「だから、狂ってるんだって」観衆が見たいのは…