Tome文芸館 Annex

自作読み物を紹介。動画用朗読音声を常時募集。英訳はGoogle翻訳。

ひどい話

大災害

まず最初に大洪水があったのだ。 それも鉄砲水のように突然で激しいものが。 それで、一瞬にして遠くまで流されてしまった。 なぜか濡れた感じはなく、波乗り気分。 気づくと、乾いた田んぼの真ん中に寝転んでいた。 斜め右上の方向から次々と、黒くて大きな…

これはいけない

変な友だちがいるんだ。 コンビニみたいな店の中で僕に 食べかけのお菓子の袋を手渡すんだ。 それも、三つくらいまとめて。 なんだか火急の用事があるらしくて そいつは先に店を出てしまう。 残された僕は困るよ。 会計せずに商品を開封したみたいじゃん。 …

結社の自由

どこかからどこかへ向かわんと 歩行者天国のような街中を歩いている。選挙の投票前の時期らしく 市場のように多彩な政党の大売り出し。優しさの人情に訴えるおばさん候補、正義に燃えるなんたら主義のおっさん候補、あやしげな教義を信奉する新興宗教の候補…

不祥事

オフィスで深夜まで残業している。社長が帰社した。会長が亡くなり、葬儀の帰りらしい。社長と顔を合わせたくない。デスクの下に隠れる。なぜか鼻血が止まらないのだ。鼻の下にみっともなく血がついているはず。ところで、ある社員が不正会計をしていたとい…

飾り絵に小便

尿意を覚えた。放尿せにゃならぬ。体育館のような建物の中、奥に水盤がある。そこでことを済まそうと近寄る。いや。しかし、待てよ。あれは手洗い場、または水飲み場であろう。実際、手を洗っている人たちがいるではないか。いやいや、ダメだ。あんなところ…

迷惑撲滅運動

まずピンポンダッシュで起こされた。 犯人と特定できないものの、出勤するのか 隣人らしい男が前を通り過ぎようとしていた。「おはようございます」なんて元気に挨拶されたら 返事もできず、腹を立てたまま寝直した。まったく迷惑な行為は許さんぞ。無差別テ…

くそったれ

振り向いた時か、着替えた時か。それとも起きた時だったか。とにかく何気なく何事かした拍子に 目の前にある白いテーブルを汚してしまったのだ。こげ茶色の食べ物がこぼれた感じ。その汚れはさっと拭いて片づけたが さて着替えようとした時に服の汚れに気づ…

汚れた絵

水洗トイレではあるまいか。キッチンの流し台のように感じていたのに その水は汚れているような気がする。それとも、何事か操作を誤って おれが汚してしまったのかもしれない。ともかく、その白い陶器の汚れた水たまりの中に 自筆の手描き絵いく枚かが落ちて…

マンガのケンカ

「これから、こいつとケンカする」血のつながらない兄貴が言う。「あんたは強いが、あいつとはやめた方がいい」そう忠告するが、兄貴の決意は変わらない。相手はそれほど強そうでもないが、疑惑がある。右手が機械仕掛けになっているという噂があるのだ。そ…

踏み絵

江戸時代、キリシタン狩りのために、役人がキリストや聖母が彫られた板などを人々に踏ませた。その板を「踏み絵」と呼び、踏むのを拒んだ場合 その者をキリスト教徒として逮捕、処罰した。初期の段階では、それなりの効果はあったようだ。しかし、次第に隠れ…

落し物です

あたし、落とし物なんです。小さな小さな熊のぬいぐるみなんです。こういうのを「ぼんてん」と呼ぶ人もいますね。おなかに「Poo」とあるのは「くまのプーさん」からの連想かな。「Poo」は「Pooh」から「h」が落ちた言葉で ちょっと困った意味があるのですよ…

お迎え

「もうじき、お迎えが来る」年寄りや重病人の口癖である。どうやら覚悟したらしい。もう死ぬのは怖くない、と。しかしながら、考え甘い。そんな送迎サービス、ある保証ない。迎えは来ないかもしれないのだ。もし迎えが来なかったら 自力で這ってでも行かねば…

ミステリーの限界

殺人事件が発生した。おれは所轄の刑事として たまたま本件の捜査担当になった。現場は謎に満ちた不可解な状況なので ミステリー好きには格好な事案であろう。で、なかなか犯人を特定できないわけだが 正直なところ、あまり気が乗らない。殺された被害者はろ…

爆弾が降る

今日は空爆の日。 朝から爆弾が降っている。 まったく、ひどいことをするものだ。 家は壊され、人は殺され、文化も壊滅。 なのに正当防衛、正当攻撃ときたものだ。 迷惑な害虫を駆除するみたいな 農薬散布のつもりなのだろう。 あんたら、昔からそうだった。…

いたたまれない

市民センター内にある市立図書館分室で 借りて読むための本を探していたら 四季によせて家族愛を賛美する あの定番の合唱曲が聞こえてきた。 やめてくれ やめてくれ いたたまれない いたい いたい いたたた いたい おしつけがましき ぬるまゆの あふれんばか…

ミングレの行進

「ん? どうした?」「ゴネガ虫が大発生しました」「まずいな。アポジ剤を散布したのか?」「大量散布しても、まったく効果ありません」「すると、ペス回避だな。 サカノボ線を遮断するしかないだろう」「できません。 オクラミンコフの反撃が予想されますか…

貧しい美少女

玄関チャイムが鳴ったので出てみると いかにもな美少女が立っていた。最初、どこの誰かわからなかった。が、話してみると、同じマンションの住人。ああ、そう言えば、こんな子いたな。賃貸で借りている母子家庭の娘さんだった。閉鎖的で非常識、いろいろ問題…

耳を切る

俺は彼女の耳が気に入らない。形が問題なのではない。自分ばかり喋って俺の話を聞こうとしない その存在が我慢ならないのだ。なので俺はこっそり企んでいる。そのうち彼女の耳を切り取るつもりだ。道具はカッターがいいかハサミがいいか。それともブーメラン…

絞首台

絞首台の階段は俗に十三段と言われる。が、実際のところ、その段数は定まっていない。その証拠に、今おれがのぼった階段は十六段だった。百八段くらいあってもいいのに。それにしても、情け容赦ない。こういう形で死を迎えるとは想定外だった。落し戸の上に…

古傷

名誉の負傷、古傷がうずく。完治したはずが、散弾のかけらが残っていたようだ。これから、そいつを摘出する。まず小刀の先を焼いて消毒。それで傷跡の残る皮膚を十文字に切り開く。痛い。泣きそうなくらいだ。しかし、当時はもっと痛かった。それにしても、…

ふぶき

さっきまでふぶいていた。まさにすさまじいふぶきだった。はげしくて冷たくて、死にそうだった。でも、今はもうおだやかであたたかい。さっきまでの苦痛がうそのようだ。冬山の天候は変わりやすい。これでようやく前進することができる。いままでふぶきのた…

秘儀密告

迷い込んだ洞窟の行き止まり 壁に埋もれし異教の神々おわします。蛇身の女神の片腕へし折らば 禁断の隠し扉が開きます。ぬるぬる滑る石段を 手探りしながら下りましょう。鼓膜を圧する合唱の響き 呪わしく厭わしく聞こえます。 七色のかがり火は 異形の影を…

兵士の人形

近所のリサイクルショップで兵士の人形なんか買ったものだから 部屋の中で戦争が始まってしまった。"I am a soldier."バタ臭い顔してるから英語圏の兵士なのだろう。ところかまわず機関銃を撃ちまくる。リフォームしたばかりの壁が穴だらけになった。ともか…

好きにして

一糸ほどしかまとっていない美女が かすれた声でつぶやく。「好きにして」その潤んだ瞳。「いいんだな?」「いいわよ」おれは美女をロープで縛って大きな段ボール箱に詰め込み 布テープで蓋を止め、さらにロープで箱の上から縛った。「なによ、なによ。なに…

反逆者

脳の半分を切除された子どもの気持ちなんか 僕には想像できないし、わからない。また、そうしなければならなかった親の気持ちも やはり僕にはわかりそうもない。いくらか想像できなくもないけど、それだけ。正直なところ、わかりたくもない。そういうことは…

爆弾を抱えて

おれは爆弾を抱えている。いや。比喩ではない。文字通り。ほれ、この通り。おれは、まさに自爆テロリストのように本物の爆弾を抱えているのだ。どうだ、物騒であろう。危険極まりない。うん。おれもそう思う。だが、仕方ないのだ。こうでもしていないと眠く…

お願い

無暗にゴミを捨てるの やめようよ。つまらない くだらない ありふれたもの どこにでも落ちていそうなものを できるだけ増やさないようにしようよ。ここはね 世界から隔絶された君だけの部屋じゃないんだよ。公共の場とは言わないまでも 集合住宅みたいな共同…

ノコギリ問題

この問題は、明らかに問題である。ある大男が巨大なノコギリを一回ひいて 一軒の家を屋根の中央から床下まで切断した。中には親子四人の家族が住んでいたが 家もろとも全員が切断されてしまった。折れたり重なったりしていたので 死体の数は全部で十五個にな…

盗まれた短剣

神殿が荒らされ、秘宝の短剣が盗まれた。それを手にする者 人を刺さずにいられなくなる、という。もし身近に誰もいなければ 己の胸さえ刺す、という。奪われるまで、力尽きるまで それこそ死ぬまで刺し続ける、という。まさに呪われた短剣。おちおち血糊も拭…

竜の炎

主人公は異星人との混血児。とても勇敢な少年。かわいらしくて賢い妹 にくたらしくて力持ちの弟を従え 世界の平和を守るという伝説の 竜の炎を求め、冒険の旅に出かけた。孤児の三人を引き止める者はいなかった。父親は辺境の地で戦死した。勇敢な最期だった…